恋愛の向き合い方が僕は大きく間違ってた。間違っていたことに気付かされたのは先輩に振られたからではなく、これまで告白を断り続けてきたひさきの言葉からだった。
「ひさきは僕のこと本当に好きなんだな。」
カメラロールの中に保存されたあの日の写真を見ながら、つぶやいた。僕はひさきの想いがどこから来ているのか、なぜそこまで僕にこだわるのかもわからない。だけど、ひさきがどれだけ僕に断られても諦めないという気持ちは、それだけ一途だってことの証明になる。
一途であることを、一途に想われ続けることを僕はどうしてマイナスに捉えちゃったんだろう。
「あれ、そういえば今日はひさきからメッセージ来てない。もしかしてまじで緊張してんのかな・・・・・。」
ひさきが緊張しているなんて考えたら、なんだか慣れなくてこっちまで緊張しそうになる。いや、そもそも向こうが緊張しているという確信はないか。でもメッセージが来ないっていうのは新鮮だな。
ピロン!
「ん?噂をすればってやつかな。」
「て、、はあ!?なんだよそれ・・・・・・。」
メッセージはいつもの何の意味があるか分かんないような絵文字が付いたメッセージではなかった。送り手はひさきではなく、りの先輩だった。それも、内容は「明日の昼休みに会いに行ってもいい?」というもの。
学年が違うから教室も離れていた。あっちから会いに来るとか今までそんなの無かったのに。今までというか僕が告白するまではそんなんありえなかった。
今になって、会いに行くって、どういうことだ?だって僕は告白して振られたんだぞ?
あえて既読を付けないように、じっくりと返事を考えながら通知を見つめた。しかし、考える必要も無かった。僕は迷わずに、「はい。」と返事をした。
「もうこれで最後にしよう・・・・・・。」
昼休みの時間が始まってだいたい10分が経ったころに、約束通り先輩は僕らの教室にやってきた。
僕は先輩の姿が見えるとすぐに駆け寄って教室を離れた。ひさきはいつもほかの教室で昼休みを過ごしているので、話が出来ないことはないが、念のためだ。
「それで先輩、どうしたんですか?}
「んっとね、私昨日好きな人いるって言って断ったでしょ?でも、あれ本当は嘘なの。」
「え!?」
「昨日断ったのはいきなりで考える暇がなくて焦ったからだよ。だからそれだけ伝えておきたいなって思ったの。」
「ああ、そうだったんですね。わざわざありがとうございます!」
「いや私が悪いから、ごめんね。じゃあばいばい!」
「はいっ!」
あれ、なんだこの感じ。すごく変な感覚だ。僕は昨日、先輩に振られた。でもまだ希望があるなんて、まさか、そんなこと思えるなんて。
いやいや、ちょっと待て。僕はひさきに向き合うって決めたんじゃないか。それも昨日だけど。いや決めた。昨日でも決めたのは決めたんだから、やっぱり喜んじゃいけないんだよ。
あああわかってんのに、どうしてこんなにドキドキしちゃうんだ。
好きなんだな、先輩のこと、大好きなんだな。僕。
激動の昼休みが終わった後の授業。ひさきはいつも通り僕の隣の席だ。しかしひさきは今日ばっかりは特別話しかけてこない。僕の返事を待っているんだろう。
返事か。どうしようかな。
「はい、ここちゃんと復習ね。」
うわっ、やっべ。黒板消されちゃったよ、まだ板書してないってのに。やべえこれじゃどうやって復習するんだよ。
まあこんなことは日常茶飯事だ。トイレにでも行って気分をリフレッシュしようかと思って、男子トイレに入った。
「あ!いいとこに、いつき。また新しいタレコミが来たんだよ!」
「えー?またかよたかし。」
たかしが同級生と何やら噂話をしていたらしいところに、ちょうど入ってしまった。噂話をしていると悪趣味だと思われそうで嫌なんだけどね。
「んで、なんだって?」
でもやっぱり気になってしまうのが人間というものなんだろう。僕は自ら話題に首を突っ込んで聞いた。
「あ。やっぱりこの話はやめとくわ。いつきには。」
「は?え?なんで。」
「いや、別に理由はない、、」
「いや気になるし。ていうかいつもならノリノリで話してくれんだろ?なんで今回は違うの?なんかダメな話?やばい?」
「やばいよ。やばいから聞かせちゃまずいんだ。」
首を横に振るばかりで話をしようとしない。同級生にはみんなに話してるっぽい調子だし、それにすぐ誰にでも話をしちゃう情報屋だ。そんなたかしが僕にだけ話さないとなると、まるで僕だけがはぶかれてるような、そんな悪い気がしてしまった。
「ねえなんで、教えてくれよ。もし本当に超やばいんだったらあんま広めないだろ普通。でもたかしはいつもみたいに広めてるじゃん。話してくれてもよくない?」
「・・・・・そこまで言うなら仕方ないか。まあなんで伝えづらそうに俺がしてたかは、すぐ分かるよ。教えるよ。」
「おう!やっとか!」
「りの先輩のことだ。」
「ん?りの先輩?が、どうかしたの?」
「りの先輩が実は、色んな男をキープしてるんじゃないかってことが噂に上がったんだよ。自分の見た目の良さを分かってんのか、後輩から同級生の男まで、何十人と都合のいいようにキープしてる。ひどい人は付き合ってすらないのに、キスとかまでしてるらしい。」
その時、何が起きているのかよく分からなかった。りの先輩はあれだけ優しくて、誰よりも真面目だったのに、ただの偽善だったのだろうか。僕は先輩のただの演技に釣られて見事に好きになって、今さっきまであれだけ浮かれてたのか。
いや確かにそんなん当たり前だよな。僕みたいなやつがまともに相手されていいわけないんだから。それに、「好きな人がいる」と言われて一度断られてるのに、焦ってたからとかわけわからない、言い訳にすらなってないだろ。
それを僕は浮かれて本気にしちゃってたなんて、急に馬鹿馬鹿しくなってきたな。
結局、僕だけか。パウンドケーキも余りもの以外のなんにでも無くて、思いも詰まってなくて。
「おいっ!聞いてんのかいつき!」
「あ、ああ。」
「今すぐにでも、りの先輩と縁を切った方がいい。これは忠告だ。お前も本気で好きだっただろうし、俺も告白しろなんて言ったからこんなこと言えないけど、関わらない方がいいと思う。」
「・・・・・・くそ。」
ドンっ!
「おい、いつき!」
トイレに行ったらもっと気分が悪くなった、なんだよこれ。こんなのありか?
どこに向かうとかは考えないまま、早歩きでどんどん廊下を進んだ。気持ちが少しは落ち着くかと思ったけど、むしろ歩くごとに怒りやイライラも倍増し膨らんでいくばかりだった。
どこがいい先輩だよ。最初から全部演技で都合よく仕向けてた。りの先輩は最低だ。先輩とか言いたくもないくらい。たかしもあんだけ告れって言ってきたのに、今更になって、縁を切れとか、言ってることがめちゃくちゃだ。
涙が流れるのを拭うとワイシャツに水たまり模様みたいなシミが作られ、そのシミを見て、僕はようやく早歩きをやめた。気持ちが落ち着いたわけじゃないが、少しだけ冷静になることができた。
「あれ。どうしたの?いつきくんだよね?」
「ひさき・・・・・・。」
「やっぱそうだ。でも、どうして泣いてるの?私なんかしたかなー?」
「いや、ちょっと疲れてて、なんもないから気にしないでいいよ。」
話せることじゃないし、話してすっきりするほどの問題じゃない。
「とりあえず着替えて、」
「いつき。」
「ん?なんかまだあったっけ。」
「返事聞きたい。私と付き合って。」
「今はまだ答えとか。」
「考えてくれるって言ったじゃん。なのに、なんで答えが出ないの?私、ずっと今日待ってたんだよ?」
「なあ今それどころじゃないんだよ。一回離れて。」
「あのさ!」
「離れろよ!!」
あれ。なんで僕、こんな怒鳴ってんだろ。違う、八つ当たりとかするつもりないのに。
「あ。ごめんっ、、」
「あのさいつき。私、知ってるの。いつきがなんでイライラしてるのか。りの先輩でしょ?いつきが好きな人。」
「え、なんで知ってるの?」
「だってあからさま目でずっと追ってたんだもん。それに、唯一いつきが関わってる先輩だっったから。私もそれくらいわかるよ。でも別にそれは、私が恋を諦める材料なんかじゃない。」
恋を諦める材料・・・・・・?
「ずっと一途に見てきた。最初に一目惚れして告白したとき、私が傷つかないように必死に断り方考えてくれてたことも、未だに覚えてるもん。」
「いつきの好きって気持ちが私に向いてなくても、私はずっと追いかける。私はそれが恋愛で、人を好きになるってことだと思うから。でも、りの先輩は違う。人のことを散々思わせぶりして、結局好きとか誰にも言わない、最低な人。」
窓から少しだけ陽が差し込んでくると、それが白い壁を反射して影を包んだ。温かい光に照らされてひさきがもう一度僕の手を握った。
「ねえわかってよ・・・・・・!好きなの!いつきのことが、大好きだから!!ほかの人なんて見ないし、いつきのことずっと好きでいるから、もう誰のところにもいかないで。私、そんなにダメかな、変かな。きもいかな。でも、私はずーっと大好き。」
ひさきが僕の手を握る力がどんどんと強まっていくのに、痛さはまったくなかった。
「僕はひさきみたいになれるかな。前みたいに本気で好きって気持ち伝えられたらいいのに。不器用でさ、変に嫌われたくないのに嫌われようとしちゃったりして。いろいろ、ごめん。これからは悩んだりせずに、思い続けてくれる人を信じることにする。だから、僕と付き合ってください。」
「やったあああ!!よろしくお願いします!34回も告白してやっと叶ったよ・・・・・・!」
34回も同じ人に告白をし続けた人なんてこの世のどこを探したら見つかるのかもわからない。
その返事が僕のたった一回の告白だったなんて、許されていいのだろうか。なんてそんな風に思うのも変な気がするんだけど。
「ごめんひさき、付き合えたのは良かったんだけど、ちょっとだけ、もう一回だけ、りの先輩に会ってもいい?」
「ふぇ?なんでぇー?」
「ストレス発散!!」
放課後、今日はちょうど部活が休みだったから、誰もいない体育館に先輩を呼び出した。
「いつきくん!どうしたの誰もいない体育館になんか呼び出してさ。」
「わざわざすぐ来てもらってありがとうございます。」
体育館に来てくださいと連絡したのは放課後になってからだったのに、まさかの猛ダッシュでここまで来てくれた。
「すぐ終わります。」
「んー?なになにー?」
腕を振りまくって、落ち着きがない。しかしこれはきっと様々な男たちをたぶらかしてきた経験則上による行動だろう。そう、すなわち落ち着きがないという様子はもってのほかの嘘、演技ということであり、もはや一周回って余裕があるのだ。
「あのー、いきなりなんですけど。りの先輩って、色々な男に手だしてません?」
「え?」
この瞬間だ。さっきまで落ち着かないような様子を見せていた、その謎の腕をぶんぶん動かす運動が、僕の言葉が耳に届いた瞬間にぴたりと止まったのである。
運動部がいないことで普段よりも格段と涼しい快適な体育館であるのに、先輩のこめかみには何故か汗が滴っていた。汗を拭おうとするしぐさすら見せるものの、一度汗を拭ってしまえば、制服にシミとなって付着することを思い出したのか、寸前でその動きをやめて、汗は床に水たまり模様をつけていくのみとなった。
「ほんとにいきなりだよ。なに言ってんのー、冗談だよね。」
「冗談じゃないです。真っ赤な本当です。好きでもない人にキスとかしちゃって、モテてるアピールしたかったんですよね。」
「え?なに、まじで意味わかんないんだけど。」
「お金も貢いでもらって羨ましい限りです。でも、気付いてないかもしれないですけど、今色々バレてますよ?先輩がしてきたこと。」
「いやっ!私はそんなことしてないもん!」
「そんなにぶりっこしても無理なんですよ。僕はもう先輩のこと最低としか思ってないんで。たぶんみんなもそれは同じ。」
「嘘、」
りの先輩は膝から崩れ落ちると、そのまま床に体を放り投げるように座り込んでしまった。もはや話もろくに聞けない状態にまで追い込まれてしまったようである。
「まあせいぜいそうやって反省するんですね。それじゃあ失礼します。あ、あと、なるべく、というか、一生一途でいたほうがいいですよ。」
恋とは、一生一途にいることだ。
彼氏彼女がいる、モテているというレッテルと引き換えを行ってしまうような恋愛は恋愛ではない。
今日から一生一途。
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初公開日: 2025年03月07日
最終更新日: 2025年03月07日
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