冬コミ戦利品レビューも終わりが見えてきたのでもろもろの原稿とともに進めていきましょう。
・レミリア・スカーレットは蝕が怖い・再侵(Escape Sanctuary)
冬コミではあんまり新規開拓、特に小説サークルの新規開拓はしないんですが、帯にある「レミリア・スカーレットは吸血鬼ではない」の一文が気になって手に取った一冊。初めて読むサークルさんです。
ある日の紅魔館。パチュリーが持ってきた大きな姿見には、映った者の分身を生み出す魔力があった。その姿見に、映るはずのない自分の姿を映し出されたレミリア。姿見から現れたのは、姿は瓜二つ、しかし性格は真逆の弱々しいもうひとりのレミリアだった。
もうひとりのレミリアは紅魔館でしばらく過ごした後、消滅した。自身の評判を悪くする悩みのタネだった分身が消えてほっとしたのもつかの間、レミリアは自身の弱体化に気づく。レミリアの弱体化の原因は? そして、吸血鬼としてのレミリア・スカーレットの背景にあるのは?
いやー唸らされました。
前述の「レミリア・スカーレットは吸血鬼ではない」のような、原作における大前提を覆す要素を大上段に構えるのはなかなか難しいことで、その落とし所も腰が引けてると言葉遊びに終わったり強引な解釈に頼ったりということも多かろうと思います。
しかし本作はこの点をしっかりと納得行く形で着地させています。
本作はもうひとりのレミリアが出現した現在パートと、レミリアがまだ幻想郷に来る以前の過去パートが交互に繰り返される形で構成されています。読み始めたときはこの2つのパートがどのようにして噛み合っていくのかわかりませんでしたが、読み進めているうちに「なるほどこう来たか!」と思わされました。
そも吸血鬼の多くのイメージは人間の創作によって付与・増強されていったもの。ではそうなる前の吸血鬼の出自とは、ということを突き詰めていくとたどり着くのは黒死病という災禍。原作ではレミリアの出自については詳述されてはいないので、そこは東方二次創作における古典的なテーマであり、さまざまな作品でさまざまな答えが提示されているでしょう。
そして本作は、現実に吸血鬼のイメージの源泉ともなった黒死病をそのまま「レミリアの正体」というところにつなげているのが上手い。だからこそ「レミリア・スカーレットは吸血鬼ではない」なわけですね。
そして、この黒死病=ペストはすでに根絶されている病です。だからこそ本作では、黒死病が蔓延し世界を恐怖に陥れた後に医学の発展によって根絶されるという過程が、そのまま黒死病をその出自として「発生」し、吸血鬼としての外皮を被ってその存在を民衆からの恐怖の対象として存続してきたレミリアが次第に力を失っていくという過程にぴったりあてはまっているんですね。
作品を読んでいて心地よさを感じる瞬間というのがあるんですが、そのひとつが「筋が通ったとき」なんですよね。伏線がうまく回収されたときや対置構造に気づいたときなど、「ここはこういうことだったんだ!」と気づいたとき。この2点の接合は非常にうまいと思いました。
そしてこれがさらに、「強力な存在でありながら外部から恐怖されることにその存在を依存しているレミリアが、真逆の弱々しいもう一人の自分を喧伝されたことで弱体化し、最終的には『死』を迎える」という現在パートにつながるという。
本作におけるレミリアの死は、黒死病が根絶されたときにはかろうじて回避したいわば情報的死を回避できなくなったがゆえの死だと思いました。一言で行ってしまえば「イメージを上書きされた」なんですが、外部からの恐怖の供給やイメージの確立にその存在を大きく依存しているがゆえの不可避の死だったという……。
レミリアに限らず吸血鬼というモンスターは数ある怪物の中でも特に強力な存在として描かれますが、本作ではその一方で東方世界における吸血鬼という存在の脆さが鮮烈に印象に残った作品でした。
今日はここまで。