「おはようございます!先生!」
「はいおはよう。さて今日は以下の授業の予定で進みます。懐紙時刻に遅れないよう注意することです。」
「はい!」
姿勢をそろえて話を聞いていればなんだか気持ちがすっきりするような気がする。俺の周りに座っているやつらは、いつもコソコソと小声で会話するばかりでみんなが「はい!」と返事をすると合わせて返事をするだけだった。
耳障りな声が聞こえるのも姿勢をそろえることに意識を割けばどうということもなかった。俺はもう前とは違うと証明できるものの一つが今のこの景色だろうと胸を張って言うことができる。
しかしこの日はなにやらそいつらの様子がおかしかった。
「あいつなんかステージ出るらしいよw」
「まじwやばすごいわw」
「あいつがステージ出るとかおもしろすぎw」
珍しいことにそいつらは俺のことを話していたのだ。それも「すごい」、「おもしろい」などといい言葉ばっかり出てくる。多分俺のことを冷やかすために思ってもないことを言ってるのだと思う。あいつらは関わるだけ無駄な人間。
人を落とす事しかできない、しかも仲間内でだ。俺はあのグルーブには死んでも入りたくない。あのグループに入るくらいだったらもっと真面目に勉強して上を目指す。その方法がステージだっただけであって、あいつらよりも前に行きたいという姿勢は変わらない。
これは好奇心だけで構成された気持ちではなくて、覚悟と向上心が多くをしめているのである。
だからどんなことを言われても俺は無視を続けた。
「こないだまで香水とか使ってたやつが急にwなんなんかなまじ」
「滑稽だよな。必死すぎて自分のことわからなくなってるよあいつ。」
俺はずっと違う。もう遠い場所にいるんだ。だからあんなやつらの言うことを聞く必要はないし、全部間違ってるまったくの嘘だ、
廊下に出てもあいつらはまだついてきた。俺の耳に聞こえる声量でわざと会話をして反応を楽しんでいるみたいだ。
ついてくる声を振り切るために廊下を少し早歩きで進んでいった。徐々に声が小さくなったのを感じてほっと息をついた。だが安心感はすぐに強い焦りに反転した。
チャイムが鳴った。「時間には遅刻しないように。」って言われたのに、やばい!
相当やばい、はっきり言って、やばい。こんなに焦りながら廊下を走っているのには理由がある。香水をつけたあの日から、授業の遅刻は二度と許されなくなってしまったんだ。つまりここで遅刻すれば単位は灰になって消える・・・・・・・
ダメ!1むり!!いやだそれだけは絶対に嫌だ!!!
やっとここまで来たのにそれなのに、単位が無くなったらステージに立てるかもわからなくなっちゃう。だから急げ!!
階段をあと一つ登れば辿り着く、そんなところだった。もうすぐ見えてくる教室を前にしてまたもあのサラリーマンのように廊下の隅で座ったままの学生を見てしまった。
見るにどうやら体調が悪いようだった。
貧血かな、、俺もなったことがあるからわかる。だいぶ気持ち悪そうに座り込んで・・・・・・どうしよう。
ん、待てよ。あれ?あの子。
マリンだよな。間違いない。
廊下の隅に座り込んで動かないその学生こそ、俺が振られてしまった好きな人だった。
マリン、、
マリンは真面目で誰よりも努力する人だ。授業の遅刻なんてマリンは絶対にしない。
俺だって遅刻はできない。だって後がない。
この流れに任せて走り去れば今ならまだ授業に間に合うはずだ。でも、このまま走り去ってしまえばマリンは遅刻する。それどころかあの苦しみをずっと一人で味わい続けることになるんじゃないか。。
そんなのダメだろ、ここで無視するのは、最低だ。
でも単位が・・・・・・
どうしよう、どうしよう。迷ってる場合じゃない。早く教室に行かなきゃダメだろ!!
でもそれじゃマリンは、、
流れに逆らえないのがドミノか?それとも、流れに抗うことこそドミノか?
流れるままでいれば上手くいくのかな。
スターになるなら他人のことを気にするな、構うな。
いいやそうじゃない。俺が考えるスターはこんなところで自分のことだけ考える無責任な行動は絶対にしない!!
「マリン!大丈夫?保健室まで行こう。」
「ごめん、、ありがとう。」
「大丈夫!ゆっくり行こ。」
後ろに倒れそうな体を全力で支えながらようやく立ち上がると、二度目のチャイムが廊下に鳴り響いた。
授業開始の合図。この時点で遅刻は確定したのだ。
「先生!マリンちょっと体調悪いみたいなので、見てあげてください。」
「おお、わかった。ありがとう。」
もうぐったりとしたマリンは口を開くことすら出来そうになかった。
貧血以外の何かなのかな、、分かんないけどとりあえず授業だろ!
息を切らすほど走り続けてまたあの教室の前に辿り着いた。
「すいません!遅れました。」
「アントワーヌ今来たよ、もう単位ないなw」
あいつらがまたボソボソと呟いている。しかし俺はその口を閉ざすように食い気味に言い放った。
「体調の悪い人がいたので保健室まで連れて行ってました。」
「ふむ。ならばいいでしょう。」
鏡を見なくとも自分が今どんな顔をしているのかが分かった。自信満々な顔で着席すると、すかさずあいつらがまたボソボソと俺の耳にだけ届くように話してきた。
「嘘だろ絶対。かっこつけてねあいつ。きも。」
「だな、きもすぎ」
「そこ!!さっきからうるさい!!いい加減に黙りなさい!」
「すいません・・・・・・」
もう一回安心感が帰ってきた。焦っていたのが嘘みたいだ。
どうだ見たか!!これが俺なんだよっ!!
足が止まりそうになっても、もう決める。それが俺なんだよ、きもいとかしか言えないやつらには負けない。もうここに強い気持ちがあるから。
これ以上止まらないから。
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初公開日: 2025年02月10日
最終更新日: 2025年02月10日
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