聞こえてくる声がまたノイズに埋めれ始めた。空気を求めてす必死に水面近くでもがく溺者のように返事を返そうとするが、無意味に開閉する口から漏れるのはやはり言葉にならない無意味な吐息だけ。
『部長、今どこに――』
突然、スピーカーからの声が途絶えた。血の気が引く音が頭の後ろのあたりではっきりと聞こえる。
震える手で液晶画面を確認する。バッテリーが切れていた。足元が抜けるかのような絶望が、悪寒を伴った浮遊感をもたらす。
しかし――抜けたのは床ではなかった。
「――ぅわああああああ!?」
「ふぎゃっ!?」
さっきまで床や阿部と同じ模様の黄色い壁紙に覆われていたはずの天井に、突然ぽっかりと穴が空いていた。そしてそこから、覚えのある声とともに覚えのあるなにかが降ってきた。
降ってきたそれを反射的に抱きとめようとしたが、体格で優るそれを支えきれずに後ろに倒れてしまった。
湿ったカーペットの不快な感触を背中で感じながらも、部長は胸の上倒れ込んだ馴染み深い顔を全神経を傾けて注視していた。それが厳格ではないことを、必死に確かめるように。
「いやんえっち。いきなり押し倒すなんてひどいじゃないか。溜まってるのかい」
「どうやら本物の部長みたいですね。心の底から安心しましたよ」
発した軽口に返ってきたのがいつもの軽口だったことに、涙が出そうなほど安堵する。だがもちろん先輩として、そんな姿を後輩に見せるわけにはいかない。
「……で、どうするんだい、ここから」