結果発表のその紙に視線が集中した。目を閉じたままのディホールさんもそれを見守っているように静かである。
「それじゃあ見るぞ!」
主人公役の合格者の名は一番最後に乗っているようだ。ほかの役で合格した人の名前が前に続いてる。
「主人公役・・・・・・」
主人公 アントワーヌ 合格
「うわっ!やった!やったあああああああ!!!」
「シっ!病室です!」
マネージャーさんに言われてどういう場所か思い出し、俺は少し慌ててしまった。やらかした、やらかしたけど正直どうでもいい。だってさ、
「でも・・・・・・受かったよ、受かったんだ!!」
「受かった、、、びっくりだ。」
「本当だな。」
口を押さえて驚いていたジョンケとフリアン。信じているや必ず大丈夫と声を上げてアントワーヌを励ましていた彼らだが、やはり同じく不安だったのだ。努力量が足りないとかそんな話ではない、むしろ人以上にアントワーヌは頑張っていた。だがそれでも超えられない壁があるんじゃないか、見えない何かに阻まれるのではないかと考えていた。
彼らはその壁を何度も見てきたのだ。ぶつかってきたからこそ、乗り越えてほしいと思いながらアントワーヌのように強く不安だった。
「でもなんでだろう。俺信じられないです。ラザールだって参加していたのに。」
「それはあっちにしかわからないことだ。役のイメージにもアントワーヌが1番あっていたのかもしれないしな。」
「そうですね。」
「じゃあ、とにかく今日はお祝いだ。それが終わったら役作りをもっとしないとな。それと明日また学校終わったらすぐ事務所に来るんだ。恐らく劇の練習スケジュールが届くはずだから。」
「わかりました!」
ジョンケがここからの流れを全て話し終えてしまい、アントワーヌのマネージャーが仕事を奪われて悔しそうにもじもじしている。
「じゃあどうしましょう。どこでお祝いします?」
「そうだなあ・・・・・・」
「もちろんここです!」
出番を見逃さなかったマネージャーのモンシニが、大きな声をあげて提案した。
「シー。ここ病室です!」
「あ。すいません、、、あの、ここでやりませんか?ディホールさんもいらっしゃることですし。」
「そうですね。いいと思います。フリアンさんもそっちのほうがいいですよね!」
「ありがとう。とても助かるよ。」
もしもここではない場所でお祝いをするとなると、フリアンはどうしてもいけないことになってしまう。なぜならば、寝たきりのディホール、父の看病をしてあげなければならなかったからだ。できるだけ離れたくないフリアンは、この提案にホッと息をついて安心していた。
「俺もそれがいいと思うよ。」
「ジョンケさんもいいんですね!じゃあ決まりです!あ、それとアントワーヌさん。」
「・・・・・・はい、分かってます。お母さんに報告してきますね、待っててください。」
「そうか、行ってこい!待ってるからな!」
「はいっ!ありがとうございます。」
「それじゃあ行きましょう。」
病院の出口を抜けるとマネージャーさんが用意してくれていた車が目に入った。運転手さんがドアを開いてくれた。「ありがとうございます」と礼を言って乗り込んでいく。
車が発車し、スピードがぐんぐんと上がり出す。もう見慣れた光景に驚きはしない。残像のような形で映る街並みが、子供のころから見慣れた景色に変わっていった。
「つきました。」
「ありがとうございました。行ってきます。」
「はい!」
アントワーヌは1人、家のドアの前に立った。ここからはマネージャーも誰もいない。いつもの家なのになんだか緊張してしまうのはなぜだろう、そう考えていても時間が過ぎていくだけと今はもう理解している。ドアを勢いよく開いて中に入った。
「おかえり、アントワーヌ。」
「えっ。」
母はアントワーヌが来ることをまるで知っていたかのように、「ただいま」よりも「おかえり」を先に言ってしまった。そのまま体を抱き寄せしばらく離れずに固まる。愛という感情の1つの形がここで見えた。アントワーヌの心もふんわりと和らいでいく。
「ただいまお母さん。合格したよ、初めて。」