「紹介に行く」
 「……どこに?」
 当然の疑問を、銅矢はデルウハに投げかけた。怪訝な顔である。
 それはデルウハと銅矢との関係性が既に上下関係となっていることに起因していた。かつて宿敵同士であった二者は、殺し合いにより決着をつけた。その勝者がデルウハで、その敗者が銅矢である。だから銅矢はデルウハの屋敷で飼い殺しにされていて、デルウハの言う事においては絶対であった。つまり勝者の決定事項だ。
 銅矢といえば、デルウハに敗北してから半ば自主的ではあるが屋敷に囚われていて、これまで外に出たことはハントレスのお供でしかない。まあその外出があることがおかしいのだが…銅矢は律儀に逃げないので、デルウハも連れ歩く気になったのだろう。だが銅矢からすれば、逃がす可能性がある外出をするなよと、かえって心配する気持ちになっている。だから怪訝な顔なのだ。デルウハは言う。
 「集会だ」
 「集会…? 吸血鬼の? 人間の?」
 デルウハは人間を装い、人間社会に溶け込む高位な吸血鬼である。富豪の顔を持ち、人間付き合いは多い。もしかして人間の集会かと思ったのだが、答えは吸血鬼の集会であった。デルウハは椅子に腰掛け、ネクタイを解き、もてあそびながら言う。
 「物好きな連中が集まるんだ」
 「どういう集まりだよ…」
 そう答える銅矢は、腕を組んでデルウハを見ていた。彼は囚人、あるいは捕虜のような扱いであるが、デルウハの寝室と鉄格子のある部屋を行き来して暮らしている。今では豪奢で広いデルウハの寝室にいる割合が非常に高いのだが、デルウハが服を着替えているのを注視するのは意味があった。寝首を掻く為などではないが、彼の体調に関わる問題である。
 「今日は抱かんぞ」
 「それならいい」
 銅矢は安堵したようだ。かつての宿敵は互いを心の深い所まで覗き込む関係性にあった。通常なら結ばれることのない深いつながりがあった。その関係は、今肉体関係に落ち込んでいる。デルウハが好んで銅矢を抱くのと、抱かれるのとどちらもあるが、本日はただの同衾のようである。
 「いつその集会があるんだ」
 「今晩さ」
 「今晩?」
 それはまた急な話である。デルウハは先ほど仕事を終えて帰って来たところなので、食事を摂った彼はもう眠るのだと銅矢は思っていた。それにスーツも今脱ぎ捨てている。だが、それは吸血鬼の正装に着替える為であって、長いコートに翼を広げると銅矢に手招きする。銅矢は訝しながらも彼に近付いた。身体にぴちりと這うシャツにサスペンダー、皺の少ないズボンに革靴。そのどれもがデルウハが彼に与えたものである。服からして、決定権など銅矢にはない。手を取られ、引き寄せられて抱き寄せられた時、巨大な翼が目の前を覆ったと思うと、視界は急激に暗くなっていったのだった。
 銅矢が瞬きをすると、三回目でようやく光が見えた。一回目、二回目は暗闇だったので瞬きをしていても、何がなんだか分からなかったのだ。そのうちに目が慣れて来ると、何やら騒がしい声が聞こえる。人間のような声である。だが、どこか違う発声のような…唸るような声も聞こえて来た。銅矢は思わず横にいるであろうデルウハを見やる。彼はまだ銅矢の肩を掴んでいて、手のぬくもりに少しほっとした。
 「離れるなよ」
 そう言いながら、何でもないようにデルウハが銅矢の首に、鎖付きの首輪をつける。え、と思った。銅矢は今まで自主的に、あるいは従順にデルウハに従っていたはずである。肉体関係の際は少々抵抗したが、それ以外はきわめて従順だ。首輪など必要なさそうだが、それでも決定事項であるようだ。銅矢は首の冷たさとつっぱりを感じながら、鎖を引きずられないようにデルウハに付いて歩き出す。ふと、銅矢は周囲を見た。
 夜なのに明るい。何故だろうと思うと、空中にランタンらしきものが吊るされているからだと上を見て分かった。なんだか祭りのようだなと思った。だが周囲には、ランタンを吊るす為の棒が無い。暗がりだから見えないのか? 不思議であるので銅矢がじっとそのオレンジの光を見ていると、突然、ランタンに顔が浮かび上がった。人間のにたりとした顔だ。それだけにとどまらず、けけけ、と甲高く笑ったかと思うと、こちらを脅かすように顔をぐんと寄せて来る。だが完全に目の前には来なかったので、脅かす為だったようだ。
 「わ」
 銅矢は声を上げる。妖怪だろうか? だがその形は西洋のにおいがするので、西洋の妖怪なのだろうか。デルウハがその声に気付き、足を止めた。そして銅矢の手を子供のように引く。
 「見るな。脅かされるぞ」
 「もう脅かされた。…おばけ提灯か。昔本か何かで読んだことがある」
 「残念ながら日本の妖怪ではないが、まあ似たようなものだ。お化けランタンだな」
 ああだから吊るす為の棒が無いのだ。ようやく納得して銅矢は前を向いて歩き出す。デルウハが右にいるが、顔が狼の男とすれ違った。彼は二メートルを超える大男で、すれ違いざまに銅矢に鼻を押し付けて来る。
 「ああ…若いなあ…旨そうだ…ああ、でも男かぁ」
 鼻息を押し付けられて嫌な思いに眉をひそめるが、構うことなく狼男はさっさと行ってしまった。銅矢の足がまた止まる。デルウハの足も止まる。だが待ってくれているようだ。
 「さあ行くぞ」
 「待ってくれ。この集会ってなんだ。人間がいないのは分かるけど、なんなんだ?」
 「混乱していないだけ偉いが、まあお前らからすればこうだな。”人間好きの物好きな怪異”の集まりってところだ」
 「はあ?」
 銅矢は目を見開いた。何故こんな場所にデルウハが連れて来たのか。銅矢にはいまいち理由は分からない。だが帰る方法が無いので、この場はデルウハの横にいるしかないのだった。 
 銅矢が当初感じた祭りだと思った感覚は大きく外れていなかった。入口から奥に向かって訳も分からず歩いていくと、人間の声が聞こえたのだ。通路ではない。いつの間にか屋台が道の両端を埋めていて、簡易な屋台骨の下では。痩せこけた男が声を張り上げていたのだ。
 「右や左のだんなさまぁ」
 「奥様方ぁ、どうぞ買っていってくだんさい。新鮮な精気でございます、新鮮な肉でございます、新鮮な血でございます……」
 痩せこけているからか、男は顔色が非常に悪く歯が抜けている。それでも声帯を引き絞り、声を張り上げる様が痛々しい。銅矢が思わず同情して近付こうとしたのを、デルウハが腕を掴んだ。
 「あれは人間の血や肉だ。近付くな」
 「えっ」
 だが時既に遅く、銅矢に店主はすり寄るように媚びを売る。
 「若旦那買っていきませんかぁ。……あ、なんだ人間かよ。人間に用はねぇや」
 痩せこけた男はしっしっと銅矢を追い払う仕草をする。彼の商売の対象は、どうやらあくまで怪異相手であるようだ。そういえばと銅矢は思った。吸血鬼の匂いの中で暮らしているせいか鼻が麻痺しているが、少し古臭い血の匂いが、男の前にある甕からする。ほんの少しすえた匂いも漂っている。
 銅矢が吐き気を催して口を抑えたので、デルウハは彼の腕を引くと自分の腕の中に納めようとした。店主はデルウハを見て、商売相手だと気付いたせいか媚びを売り始めた。
 「へっへっへ。旦那さまぁ、いかがですかぁ」
 デルウハは銅矢を背後に置きながら眉を顰めた。
 「この血、いつ搾ったものだ」
 「へぇ今朝でございやす」
 「そのわりには、随分匂いが悪いな。数日前じゃないのか」
 「チッ、人間連れはこれだから。飲めるだけ有難いと思わなきゃなりませんよ、人間連中は、いつあんたのそのぶっとい首掻っ切るか分かりませんからねぇ!」
 屋台の主人はそう吐き捨てて、デルウハも追い払う仕草をする。だいぶガラの悪い店主のようだ。銅矢は少し気分を悪くしているし、デルウハは足早に立ち去るのだった。往来には、鰐の頭を持った者や羊頭など、人間ではない二足歩行の者が行き交う。その中にあの屋台に足を運ぶ者もいるのだろうか。銅矢はまだあのすえた匂いが鼻に付いて、俯きがちであった。デルウハが心配して尋ねる。
 「大丈夫か」
 「…ああ、平気」
 「言っておくべきだった。すまん」
 「大丈夫だ。…あんたに付き合うようになって、慣れたさ。でも吸血鬼に、人間が血を売り付けてると思わなかった」
 「だいぶ質が悪いがな。…こういう催しのたびに、どこから聞き付けたのかよく現れるんだ」
 だが、その出現頻度は銅矢にとって問題ではない。人間が人間を売るとは、その血や精気を、肉を、同胞の物を怪異に売りつけるとは。彼はその醜悪さに吐き気を催したのだ。銅矢の背をさすりつつも、往来の邪魔にならぬようデルウハは銅矢を引きずって歩き続けている。そのうち、銅矢も落ち着いたのか自然と歩き出した。
 そのうち繁盛している場所に来たらしい。往来者がどんどん増えていくと、屋台は段々と様相を変え、溌剌として明るい声が響いている。
 「今朝摂りのハーピィの卵だよ、らっしゃいらっしい。焼けば目が飛ぶ美味しささ! らっしゃい、そこの坊ちゃんどうだい? 人間の身じゃ、一生食べられない珍味だぜ」
 「えー人魚の肉、人魚の肉ぅ~~。食べればたちまち滋養強壮、効能は人間が不老不死になったお墨付きだ! 今ならお安くしときますぜ」
 
 物売りの調子が明るくなったので、銅矢もホッとしながら横を通り過ぎて行った。デルウハは特に興味をそそられないのか、ゆったりと歩いて通り抜けていく。だから銅矢も屋台にはあまり目を向けずにいた。
 屋台通りを抜けると、そこには天まで衝くほどの一本の巨木があった。
 銅矢の視野すべてがその木に埋まってしまい、木の乾ききった肌だけが世界を埋めつくしている。その木をくり抜いたかのように中には部屋があった。何故部屋かとわかったかと言うと、ガラス窓がいくつか付いているからだ。わざわざ木の中をくり抜き、開けた穴を部屋として整え、さらにガラス窓を取り付けて…苦労が窺える造りの部屋が、360度どの方向からも見えるように、木の根元にある。
 その木の周りには大衆がいた。だが人間の姿は見られない。いるのは狼男や鷲鼻のいかにもな老婆、言葉にしがたい異形達である。彼らはぎらりと銅矢を、デルウハを見やる。その視線に銅矢はぎくりとした。好奇で服の中まで覗いてきそうな目だったのだ。
               
 「あ、デルウハ。いらっしゃぁーい」
  すると陽気な声がする。銅矢がそちらを見やると、モノクルを掛けた吸血鬼が、ニコニコしながら木の前で手を振っていた。ほっそりとした身で、肌の色は薄い緑の皮膚と違う色の皮膚をつぎはぎした顔であった。どことなく猫を思わせる顔付きである。ニコニコしているのは、人の良さというより癖のように見えた。彼は銅矢をちらりと窺った。
 「その子が例の?」
 「そうだ」
  「ふぅん、本当に男の子なんだ。僕のところはね、可愛い可愛い女の子なんだよ。ねぇリリアン」
  そう言うと、モノクル男は手招きする。真っ白な髪に真っ白な肌、青い瞳の10歳ほどの少女がたたっとモノクル男に近付いて、横に控えた。可愛らしい子である。だが言葉を発さず、きょろきょろと銅矢とデルウハを見上げるだけだ。
 「ごめんね。なんかリリアンは捨てられてたんだけど、舌を切られてて言葉が話せないんだって。でも僕じゃないよ、人間が切って捨てたみたい」
 「…なんでこんな惨いことが」
 「奴隷だったのかな? 声を上げられると面倒だから、狼のいる林に捨てられてたんだ。舌はね、さすがに僕でも復元できなくてね。だから喋れないの、ごめんね」
 リリアンがにこりと笑う。だがそれでも、むごいことをされても拾う神であったのだろう。たとえそれが吸血鬼であっても、彼女は救われたのだ。銅矢は複雑な気持ちになった。この集まりは人間好きの怪異だと聞いている。だが怪異は、特に吸血鬼は人間の敵であると銅矢は認識していたのに。人間の方がむごいのだ。
 「じゃあさ、デルウハ。ショーの方よろしくね」
 ショー?
 銅矢が複雑な思いを抱えていると、耳慣れない単語が聞こえて来る。デルウハは分かったと言っていた。銅矢が尋ねてみると、モノクル男はにこっと笑う。
 「ああ、セックスショー! 君とデルウハでやってくれるんでしょ?」
 その言葉に即座に逃げ出したくなったのだった。
 「やだ!」
 「銅矢、落ち着け。頼まれたんだ、協力してくれ」
 「やだ、絶対やだ。なんで見世物になんか…」
 「すまん、交換条件なんだ。このショーの代わりに見返りがある。協力してくれ」
 「絶対にいやだ…!」
 銅矢は首輪を付けられているので逃げることが出来ない。だが、本当に嫌なので必死に抵抗している。この木をくりぬいた部屋の中で、360度誰でも見られている中で性交渉をする。冗談ではない。そうして銅矢とデルウハがもめている最中、モノクル男はリリアンにある物を持って来させた。香水の瓶のようである。銅矢の肩をぽんぽんと優しく叩き、モノクル男の元に振り返ったその時だ。しゅっと音を立て、中身を霧として掛けたのだった。デルウハがはっとする。だが既に銅矢は霧を吸い込み、その場に力なくうずくまるのだった。
 慌ててデルウハが彼を抱えると、腕の中でとろんとした顔を上げて、その体は震えていた。
 「あ、…なん、…なんで…」
 「何した」
 「え? 淫魔の汗を煮詰めて希釈した香水。たぶん人間には結構効くよ~すーぐ、気持ち良くなっちゃうからさ」
 「うぁ…」
 銅矢が甘く呻く。デルウハの腕の中で、強制的に発情させられているようだ。こうなったら発散させてやるしか道はない。力が抜けた銅矢を、幾分か卑怯とは思いながら抱え上げると、デルウハは木の部屋に入るのだった。
 服は簡単に脱がせられる。だが銅矢は、力が入らない手で必死に押し返そうとして来た。
 「やだぁ…」
 「銅矢。勘弁してくれ」
 あっという間に生まれたままの姿になっている銅矢に、デルウハも服を脱いだ。すると、念のようなものがデルウハの脳内に音声ではなく直接届いてくる。モノクル男のテレパシーのようだ。
 「はろーはろー。デルウハのケツは見せなくていいからね。人間ちゃんの喘ぐカワイイとこ、めっちゃ見せてね」
 「お前の要望は無理がある…」
 「それじゃ頑張ってね」
 それだけ言うとモノクル男の声はしなくなった。代わりに残されたのは、360度見えるベッドに裸で横たわり、紅潮した頬ですでに汗をかいている銅矢だけだ。ごくりと生唾を飲む。だが銅矢は恨めしげだ。
 「今日は抱かないって言ったのに…」
 「あれは、家での話だ」
 「…嘘だったのかよ」
 「悪い。だがもう止められる所にない」
 そう言い、デルウハは銅矢にのしかかった。いつもの性交のやり方なのに、銅矢は逃げようともぞもぞと体を動かす。だが強力な媚薬に体の神経は尖り尽くし、触れられるだけでしびれて気持ちが良いのだ。デルウハの愛撫を堪えるのには、銅矢はこらえきれなかった。
 「あぁあ…あーっ! あっあっ。やめ、むね…さわるのぉ…」
 乳輪を親指で円を描くようになぞる。乳首は人差し指と中指で掴んでくりくりと転がした。指でぴんぴんと先端を弾くようにすると、びくびくと体が跳ねる。堪えきれないようだ。
 「んん、んー! やだ、あぁ、あっ」
 「デルウハ、前戯も可愛いんだけどさ、そろそろきゃんきゃん鳴くの見たいんだよね」
 またモノクル男の声が聞こえる。分かっていると言うと、くたりと力が抜けた銅矢の胸に吸い付くと、乳首の周りに軽く噛み跡を残した。血を吸うまではしていないが、何度も噛み付いた体はそのゆるやかな、痛みの手前のような刺激でもびくびくと反応し、喉を仰け反らせる。
 「ひぐ、ぅ…!」
 「銅矢、体こっちに向けろ」
 デルウハが体を掴み、ベッドに四つん這いにさせうようひっくり返す。すると銅矢の尻が目の前に来たので、後孔にむしゃぶりついた。
 「やめぇ…!? やだ、きたな、」
 デルウハは答えず水音を立てて舌を中に突き刺すと、ほぐし始めた。四つん這いからだんだんと力が抜けて、デルウハに腰を押し付けているかのようだ。銅矢のゆらゆらと腰が揺れ、逃げたいのか気持ちが良いのか分からない。ベッドに顔を押し付け、ひんひんと鳴き始めている。
 「ああ、あ、あ、でるうは、やだ」
 舌を引き抜くと、もうじっくりとほぐれている。デルウハは顔を上げた。
 「…なんだ準備してたのか」
 「だって、だって今日かと思って…」
 銅矢はいじらしい言葉を口にする。であるなら、汚くは無いのだろう。そろそろ抱き潰してしまいたいところだが、今日は残念ながらギャラリーがいる。デルウハは銅矢を下に置き、上から自分が覆い被さった。ほとんどデルウハの体で見えなくなってしまったが、挿入は行われたので銅矢の手がデルウハにきゅうとしがみついた。
 「ひっ…く、ぅ…」
 「いい子だ。もっと締めてくれ」
 「ちょっとデルウハ、見えないんだけど」
 外から見えないとモノクル男の声が聞こえる。ああまったく、性交に集中できない。だがこれはショーである。モノクル男とデルウハが契約を結んだのだ。銅矢の了承は得られてないが、強制的に発情させたので後でかなりの労力で宥めなければならないであろう。その手間を考えながら、どうこの場を収めるかだ。デルウハは無視し、ぎしぎしぎしっとベッドを軋ませる。
 「くぁ、あーー! あーだめ、だめぇ!」
 「なんでダメなんだ?」
 「やだ、見られるのやだぁあ!」
 まだ銅矢の頭の片隅には、これがショーだと残っているらしい。了承を得てからだと思ったのに、モノクル男が強制的に発情させるからである。面倒なことになった。そう思いながら銅矢の好きなところを重点的に責め立てる。
 「やん、やだ、そこだめ。でるうは、まって、まってぇ」
 絶頂すれば何も気にならなくなるだろうか。そう思ったが、銅矢はまだ冷静であるらしい。必死にしがみついてくる力も強い。
 「いく、いく、やだあいきたくない…」
 「ほら我慢するな。いい子だ、いけ」
 ぶんぶんと銅矢は首を横に振る。必死に堪えているようだ。それでも熟知するデルウハの責めが止まる訳がない。ごりごりごり、と固い物を擦る音がしたと思うと、銅矢の目の前がちかちかと火花が散る。
 「あぁあああ…!」
 びくびくと足の指先が揺れる。絶頂したのを確認したところで、またモノクル男の声が聞こえて来た。 
 「ちょっとデルウハ、本当にデルウハのケツしか見えてないよ。人間ちゃんを見せて」
 「分かった分かった、うるさいな」
 「もーただ君が楽しむだけじゃダメなんだけどなあ」
 その声にまったくと思いながら、デルウハは銅矢を抱きかかえる。お望み通り、銅矢を四つん這いにさせて、その身をある窓に押し付ける。べたりと窓いっぱいに銅矢の身が広がって、彼が目を開けると外にいる大衆の、好奇の視線が絡みついた。銅矢は咄嗟に体を引こうとするが、デルウハが後ろからのしかかり、ぐちゅぐちゅと音を立てて責め立てて来る。
 「ひぐ…! やだ、やだぁああ! 見えてる、見えてるっ…!」
 「悪いな、見せないといけないんだ」
 「いやだ、こんなの。いやだ…でるうは、デルウハぁあ」
 「もう少し耐えてくれ」
 縋りつくように名前を呼ばれると、デルウハには罪悪感が立ち昇る。だが銅矢の身も、いつものと違う環境のせいか食いつくいて離してくれない。
 「ひぐ、く、うぁ」
 「締めてるぞ。興奮してるのか」
 「そんな、ことない」
 「じゃあなんで締め付ける?」
 意地の悪い質問だが、それでもきゅうと締めて来る。被虐趣味でもあるのかと責めながら、どうせなら意地悪く責めてやろうかと思う。
 「ひぐ、ぐ、ひぅ…やだ、じらすの」
 「じらしてないが」
 「じらし、てる」
 銅矢はそう言いながらも窓に押し付けられて、必死に身をよじるしかなかった。
 「デルウハ、デルウハ」
 「なんだ」
 あえて好きなところを避けているようだ。先程は嫌だと言っても責め立てたのに、急に柔らかくやさしい責めに切り替わったので、銅矢は身を震わせた。
 「たのむ、たのむからぁ。もう、じらすの、」
 「じらしてない」
 否、じらしている。見世物として長く見せるのに、デルウハはわざと好きなところを責めずにいる。銅矢にはそれがもどかしいのだ。がくがくと足が震え、生唾を飲み込む。見られていることは段々と気にならなくなり、もう今はデルウハとの性交で頭がいっぱいであった。
 「でる、うはぁ」
 「ん?」
 「デルウハだけ、がいい。デルウハがいい…見られたくないぃ…」
 「もう少し辛抱してくれ」
 「デルウハだけがいい…」
 ああくそ。そう銅矢に言われるとデルウハは弱い。それに先程から銅矢に好奇の目が突き刺さっているのも面白くはなかった。銅矢の体を抱え上げたデルウハは、ベッドに寝かせると翼をばさっと広げてしまった。そしてなんと、包み込むように周囲を取り囲んでしまった。
 途端に、銅矢の悲鳴にも似た喘ぎ声が響く。
 「ああああー!」
 「ちょっと。ちょっとデルウハ!? 見えないんだけど!?」
 「あっあっあっ! や、そこ。深いぃ、やぁ、やっ!」
 「それ見せてよ!」
 モノクル男が焦るが、デルウハは息を切らしながら答える。
 「ふー、ふー…ダメだ」
 「あーッあーッあーッ…!」
 「ちょっと…!」
 モノクル男の声が焦りに焦っている。だが、デルウハも今更止める気もなく、ぎしぎしとベッドが軋む音と、銅矢の一際甘い声だけが大衆がいる場所には響いていた。
 「あああぁあッ!」
 「それを…見せろって言うんだよお…」
 モノクル男は頭を抱えて膝が地面に着いてしまった。そこに、リリアンがその頭をよしよしと撫でるのだった。
 デルウハが出て来たのを見て、モノクル男は両手に腰を当てて怒りを隠さなかった。
 「あのねえ」
 「おい。それよりもさっきから泣き止まないんだが」
 デルウハは銅矢を抱えている。銅矢は、デルウハの胸の中でぐすぐすと泣いていたのだ。首輪を付けているのは変わらずだが、抱き着いて拗ねているようである。だが普段からそんなに泣くわけでもないのに、デルウハには不思議であったのだ。だがモノクル男は平然と答える。
 「ああ、淫魔の香水は結構人間には刺激強いからね。反動じゃない?」
 「そんな危険な物を、勝手に使うな」
 「そんなことよりさあ…よくもやってくれたね。ショーが台無しだよ」
 モノクル男は苛立っているようである。だがデルウハとしては、役目を果たしたのだ。もうこれ以上追及を受ける由は無い。モノクル男はため息を吐いた。
 「まあ、純愛っぽくていいよねってお客様は納得されたからよかったけどさ…」
 どうやらショーの観客は、人間が見えないことに不満はあるものの、二人の関係性が想像できてかえって盛り上がったらしい。お咎め無しになったようだ。デルウハは目を細める。
 「そうか。じゃあ約束通り、協力はしてもらうぞ」
 「はいはい。まったく吸血鬼遣いの荒い王子様だよ…」
 「それじゃあ帰らせてもらう。こっちは宥めなければならないからな」
 デルウハは銅矢を抱え直した。まだぐすぐすと泣いているのを、屋敷に着いたら優しく宥めなければならない。その手間を考えると、で
 
  
             
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