ある宇宙人用の兵器は、所が作ったものと発表する。それにより宇宙人は倒せた、EDFに完全に所属してる状態で発表してる。所への反感情を抑えるため
所が気を失ってから、数人の人間がガラス張りの監禁部屋に突入し、取り囲んでいた。ぐたりと気が抜けた所の肩を揺さぶり、確認する。所は目を閉じてかくんと首が揺れた。先程、快楽を主とした拷問を受けたところである。絶頂を盾に取られ、先ほどまで何度も絶頂寸前で止められて尋問を続けられたのだ。本人が気絶してしまったから、中断になったのだが…その監視と尋問をしていた公安の数人が、所を今抱えて運ぼうとしている。
「気絶してるよな?」
「そうだな」
「運べ」
そう言いながら手早く人一人を抱え上げると、彼らは別室に所を放り投げた。そこには一組のテーブルとイス、その奥にキングサイズのベッドがあり、部屋の中に監視カメラが無い。窓は無く防音性が高く、どんなに叫んでも声は外に漏れないだろう。おあつらえ向きの部屋である。一方、所は放り投げられた衝撃で、ベッドの上で身をよじると静かに目を開いた。
「ん、…え…」
「起きたぞ」
そう言いながら三人は、それぞれ黒ずくめのスーツの上着を脱ぎ去った。一方の所は上半身はシャツを着ているが、下半身は拷問の為に脱がされていて、逃げようや抵抗のしようがない格好だった。それなのにいつの間にか三人に囲まれてしまったので、所は身を震わせる。
「え…え? 何…なんですか…今度は」
「起きたか。まあいい、どうせ大した力は無いだろう」
所は、見た目には痩せ型の男である。公安としてあらゆる訓練を受けている屈強な者に敵うはずもない。所はふるふると首を振るが、あっという間に一人に馬乗りにされ、手を掴まれてしまった。ベッドにのしかかってくる男は鼻息が荒い。所はその目を見ながら、必死に首を振った。
「ま、待ってください。もう、もう尋問は嫌です…」
「あんたに拒否権があると思っているのか? ああ、器具取り忘れたな」
「まあいいだろう。次もあるかもしれないし」
「そん、な。もう…嫌だ…」
またあのような辱めを受けるのかと思うと、泣きたくなってくる。この世界の人間は、唐突に宇宙人の死体と共に現れた所を疑っているのだ。その為の尋問や拷問である。だが何をされても、所には何の身に覚えも無い事である。だから答えようもなく、毎日知らないと言うだけだ。この三人も、所を痛めつける為だけだと思うと閉口する。信じてもらえない事に心がすり減り、次第にこの世界の要望を受け入れしてしまおうかと考えてしまう程だ。
暗澹たる気持ちでいる所の上で、かちゃかちゃとベルトが外れる音が聞こえた。へ?と慌ててその音の方向を見やると、予想通りに下半身を脱いでいる。ベルトが脱げればズボンが脱げ、下着が現れてそこに、隆起したものが下着越しに見えた。
「え? え?」
「押さえとけ」
すかさず所の両手をもう一人が押さえつける。これでは、尋問というよりはまるでまさか。
「ま、待ってください。何を…」
「装置のリモコン、持ってきたか?」
「もちろん」
そう言い、もう一人が後ろでリモコンを携えている。それを押されてしまったら、またあの刺激が復活する。それは嫌であった。先程のように何度も寸止めされるのは嫌だ。そう思ったが、ずるりと下着から覗く他人の性器が見え、それと同時に自分の足を開かせられるのが分かって、所の口からは別の悲鳴が漏れた。
「あ、あ…そんな」
ずるり、と無遠慮に若い性器が入り込んで来た。唐突な異物に、所のからだはひどく締め付ける。それが気持ち良かったのか、ずるずると引き抜き、また挿入する。若いであろう男はその快感に腰を夢中になって叩きつけた。
「あー…や、ば、」
「いいか?」
「めっちゃいい。すっげえ締め付け…中もいい」
「ふ、ぐ…」
所は呻く。先程まで絶頂を管理されていて、もう体は性的快感には弱いのかと思われた。だが、無遠慮で同意のない性交に、体はそこまで快感を伝えてくれなかった。ただ体の中を、誰かが興奮してずんずんと性器を叩きつけている。快楽に溺れられたら良かったのに、先程の拷問で腫れたであろう前立腺すら気持ち良くなく、まず怖さで固くなって何も感じなくなってしまった。デルウハに抱かれている時にも、それはたまに起きていた。必ずしも気持ちが良かった訳では無い。だが抱く側はそんな事は関係ないのであろう。律動が奥にまで侵食してくる。何度も開かれた体は、今簡単に他人を受け入れてしまった。
「うう」
「具合良いわ…。すげえ、奥も吸い付いてくる」
「早く代われよ」
「焦んなよ。うっ、やば」
きゅうと奥が締め付けてくるのに、若い男は呻いた。そのまま射精したのかもしれない。ゴムを付けてくれた感覚は無い。罪人である可能性があるから、そこまで気を遣ってもらえないのかもしれなかった。それも無性に悲しい。馬乗りになる男が交代した。大きさも固さも違う物が、遠慮も何もなく入って来る。その頃には悲しみに慣れてしまって、まるで現実逃避であるかのように甘い刺激が走った。
「あああ…っ」
「なんだ? 俺の方が感じるみたいだぞ」
「違う、今俺がリモコン押したんだ」
びりびり、と微弱な刺激が体の奥に走る。その心地良い刺激に、ごりごりと固い性器が擦れると足の指に力が入る。
「ひぅ、う…!」
「ほらほらここだろ」
「だ、だめ。やぁ、…や、だ」
否応が無しに甘い声が漏れる。二人目はどうやら責め立てるのが楽しいのか、所が良く反応する所を探しているようだ。そして場所を見つけると、小刻みに腰を動かして責め立ててくる。
「あぁ! あっあっ、あっ」
「ほら、言ったらどうだ? あんた宇宙人のスパイなんだろ」
「ち、ちが、…あー! ちがいますっ。なにも、なにもしらなくてぇ」
「まだ言わないのか。だったらもっと気持ち良くしてやるよ。感度上げて」
「あぁあああ!」
びくびくと所の体が震える。前立腺に取り付けられた器具は極めて小さく、性器の邪魔にならないのが幸いで、所にとっては不幸だった。びりびりとした刺激を与えられながら、性交に付き合わされてしまっている。どうして自分が? 所はそんな疑問が頭をよぎった。若い人間でもない。先程の拷問を見て、一体何が刺激されてしまったのか。それについて考えている間にも、三人目の男が馬乗りになったのが分かった。
「あ、ぁ…おねがい、します。やさしく、やさしくしてください」
「それはあんた次第だな」
「します、口でもなんでも…ですから…」
「口は割らないのか? 割ったら大手柄なのになぁ」
「そ、れは…出来ません。知らないんです、本当に何も、知らないんです…」
「へえ。まあそれはどうでもいいや」
どうでもいい、と言いながら勃起したものが体の中に入って来る。慣れもあるのだろう、次第に気持ち良くなってきている中で、所は口に性器を押し付けられ、必死に口の中で転がした。
「口もいいな、すっげぇ上手い」
「ほら、こっちもちゃんと感じろよ」
「んんう…!」
何度目に抱かれたのかは数えていない。欲を簡単にぶつけてくるのは、その分過酷な任務でため込んでいるのだろうか。その処理に付き合わされているのだろうかと思ったが、もう考える余裕は無かった。
「ひぁ、あ、あっ! あぅう…!」
「また吸い付いてくる、やべぇ出る…!」
「あぁっ! あっ! あっ!」
だめだ。もう何も考えたくない、考えられない。デルウハに処理を頼まれた時とはまた違う踏みにじられ方をしているが、それでも神が肉体に快感を与えたのだから、その欲望に今は溺れて、必死にしがみついて今を忘れるしかなかった。脳天を駆ける快感が、背筋をびりびりと走る。
「あーー!」
もう既に意識はほとんど薄れていた。ベッドに倒れ込むととろとろとした眠気がやって来る。下半身は軋むように引きつっているが、今は眠気の方が強かった。
「寝たのか?」
「分からん。まあ寝ただろ」
「そろそろ準備しなきゃな」
そんな声が聞こえていながら、もう指一本も動かせずに壁を見つめながら意識が失せていくのだった。
「さて、貴方の尋問を開始します」
「はあ」
所は気が付いたら体はそのままで、いつもの服を着ていて、まるであの拷問ごとが夢であったかのようだった。言われるがままに詰問部屋に案内され、公安の尋問を受ける。目の前には、一人の公安がいた。メガネをかけた、いつもの人である。
「あの…いつもいらっしゃる他の方は…?」
「あの三人の話はしないでください」
ぴしゃりと言われてしまい、所は言葉を詰まらせる。おまけにメガネの公安は、その三人の話題でより不機嫌になったようだ。所は、拷問も夢だったのかと疑っているほど、何もない体に不思議を覚えている。あまりにもあっさりと日常に戻ったのだ。やっぱりあれは夢だったのかなと思いながら、あの拷問よりも尋問の方がマシである。所は姿勢を正した。目の前のメガネは、三人の処遇が上層部から言い渡されるのに苛立ちながら、目の前の所の尋問を開始するのだった。
所が目を覚ました時、見知らぬベッドだと思った。ここは二会敷の部屋である。周囲を見回すと、奥に二会敷が眠っていて、寝起きの頭が少しずつ昨夜の記憶を浮かび上がらせる。所はソファーで眠っていたのだが、夢見が悪く、床に落ちてしまったのだ。それで二会敷が助けてくれた。だから同じベッドに眠っていたのである。
所は義手を付けていないので、寝返りを勢いよく打つと短い腕をつっかえにして起き上がった。うつ伏せである。ここから下半身の力だけで、ぐぐぐと上半身を持ち上げるのだ。彼が起き上がる時、決まってその体勢だった。ごろごろ転がるのにはベッドに振動が伝わるはずだ。二会敷を起こしてしまっただろうかと、所は話しかけることにした。
「あの、二会敷くん」
振動では目覚めなかったのか、二会敷は寝返りを打つとこちらを見る。目覚めはそこまで良くないのか、頭を掻いて目をしばたたかせている。
「…うん? うーん。あ、シゲさんおはよ」
「おはよう。…昨夜はごめんね」
「いいよ。それより眠れた?」
「うん」
望郷と恋慕で、泣いてしまったのは黙っていることにした。それを話したとて、二会敷に解決が出来る事ではない。所は義手を付けるのを手伝ってもらい、ようやく人間となった気がした。これで朝のコーヒーも淹れられるし、パンも焼ける。自動化された家電は研究所とは違う進化を遂げ、便利だった。電子レンジで牛乳を温めて、自動でその温度を見極めて爆発しないのは有難い。
所の生活は長らく料理から外れていたけれど、スピナーで洗った野菜の水気を飛ばす二会敷の横でコーヒーくらいは淹れられる。パンが魚焼きグリルで焼けた。チンと古風な音を立てて、焼けたことを教えてくれる。
二会敷がフライパンを取り出し、そこにベーコンと卵を落とした。自らの油でじゅわわわと音を立てて揚がっていくのを見ながら、二会敷はサラダを盛り付け始めていたから、所が代わる。フライドエッグにならないように箸でおそるおそるとベーコンを持ち上げた。料理慣れしていない手つきだった。ベーコンは既にカリカリになっていて、卵は半熟でもいいよと二会敷が指示を出すので、それを素直に崩さぬように皿によそう。一気に朝食が完成した。
「シゲさんありがとね」
「ううん、何もしてないよ」
普段帰ってないから、昨夜二会敷が買い込んでくれたコーヒーと、野菜とベーコンとパンと卵のおかげで人並みの朝食が用意出来たのだ。逆を言えば、この部屋にはほとんどその生鮮食品は無かったという事になる。その歪さには目を向けず、二会敷が皿をテーブルに運ぶ間、所は冷蔵庫の中を見やった。そうだ、トーストに塗るバターも忘れずに。食卓は彩りが映えるラグが敷かれていて、これも元婚約者の趣味かもしれないと所は思う。出来上がった料理の下に美しい敷物を選ぶのは、女性の方が多い気がしたのだ。だがそんな過去の遺物も、二会敷が語らなければ家にあるだけの物である。いただきます、と所は手を合わせた。二会敷も手を合わせる。
カリッと音を立てるパンを咀嚼しながら、二会敷は買ったばかりのドレッシングをサラダにかける。これも買ったばかりでこれから消費するものだ。
「フライパンで焼くのも美味しいけどね」
「ああ、パンを?」
「そ。バターで両面焼くとね、美味しいんだよ」
子供が自分で見つけた虫を見せてくれるような無邪気さで、二会敷は所に言う。これは元婚約者の差し金や知識ではなく、二会敷が自分で身に付けたものなのだろう。
「今度やってみようか」
「そうだね。夜にやってみる?」
「夜もパンでいいの? 今日は魚とかの方が良い気がするな…帰りにスーパーに寄って考えるよ」
「シゲさんは、そこまでしなくていいってば」
「でも居候だから、君の役に立ちたい」
所はまっすぐな目線で言った。その目線を受ける二会敷は、少々だけ頭を搔く。朝に多い彼の癖なのかもしれなかった。
「シゲさんが言うなら…いいけど」
「あ、でもこの世界の魚について何も知らないな…」
所は絶望的な顔をした。先程まで意気込んでいたのに、今は沈み込んでいる。二会敷は笑ってしまった。
「大丈夫だよシゲさん。覚えてくれればいいから」
「一種類しか食べてこなかったから…二会敷くん、一緒にスーパー来てくれる?」
思わぬ問いに、二会敷は面食らった。新兵器の開発が軌道に乗れば、今晩も定時に設定されている時間に帰る事は可能である。だがそれは宇宙人の飛来が予定されていなければだ。その宇宙人がどこの星人で、何が効果覿面であるのかは…それこそ宇宙人に聞く必要がある。今日の二会敷に、スーパーに寄る時間はあるのだろうか? おそらく無いのであろう。
だが、それを馬鹿正直に所に伝えるのは憚られた。その献身的な行動は、思い起こさせることがあるからだ。だから二会敷は曖昧に言う。
「僕は帰れるか分からないよ~。でも終わったら帰るかな。その時はまた連絡……あっそうか。シゲさんは連絡手段無いんだっけ」
そこで所とのコミユニケーションに、ひとつ阻害要因が生まれた。だがまだ政府からマークされている所に、携帯電話の携帯は許可されていない。それが宇宙人との交信に繋がると、信じる輩もいるからだ。結局、EDF内で二会敷を探す他無さそうである。
「じゃあ、僕探してよ。第三研究棟にいるからさ」
「うん、そうする。…また少し尋問があるみたいだから、こちらも時間は分からないけど」
公安はまだ所をマークしているのだ。疑いは状況証拠により固まり、これ以上の追求は無駄だと判断された。だが定期的に様子を見に来るのは、完全に疑いが晴れていないからである。流王(るおう)がまた来るのか、と公安の顔見知りを二会敷は思い浮かべる。彼が所について口を滑らせるとは思わないが、何かと便利な男である。所の容疑を状況証拠だけで、スパイ疑惑を晴らした恩人でもある。また酒飲みながら聞き出そうかなぁと考えつつ、サラダを口に運ぶ。
シャキシャキとしたレタスは瑞々しく、宇宙人が襲撃していても農業は幸いにも打撃を受けずに食糧を届けてくれるのだ。ここがイペリットによる被害と違うところだと、所はこの世界が羨ましくなる。
朝ごはんを食べ終えると、片付けも率先して所がやってくれた。慣れないけれど、ビーカーや精密機器を扱うようにゆっくりと、そろそろと食器洗いをする。
「割れないよ」
二会敷はそう言って笑ったが、所の手つきはどこまでもたどたどしかった。それでも全て洗い終えると、朝のタスクは終わったようだ。起きたての時に洗顔も済ましているから、これ以上やる事は少ない。あとは身支度を整えて、出勤するだけだ。
「じゃあシゲさん行こうか」
二会敷は車を所持していた。最新技術の自動運転搭載の車両である。見た目は少々玄人好みのスポーツカーに見えるが、二会敷が中に入るだけで電源が入り、AI音声が話しかけてくれる。未来だ、と所は思った。
まだ電車などの公共交通機関の利用には懸念がある。所を一般人は宇宙人のスパイだと思っているし、石でも投げられる可能性は高いのだ。
「行くよ~」
この車は、二会敷の趣味だろうなと所は思った。部屋の景観や在り方は、そのほとんどが元婚約者の趣味や思想であろうと、二会敷との関係性が薄い彼でも感じられた。元婚約者の趣味に異を唱えず、今もその部屋で暮らしているのは、未練があるからかと思っていた。だが一晩天井を共にしてみて、気が付いた。二会敷は気にしていないだけである。それほどまでに部屋に帰れず、元婚約者の影すら忘れたのかもしれなかった。どちらにせよ、部屋の事を決めるのは主だから、所が何かを言うのはおかしい。このままEDFに出勤していく二人は、道中宇宙人の話や、今行っている実験の内容を話しながらだった。
あっという間に本部に辿り着いたので、二会敷は不思議に思う。この通勤は退屈で、少し長い距離だと思っていたぐらいなのだ。それが所がいるだけで一瞬であった。妙に満ち足りた気持ちで、本部の駐車場に停める。所は、大衆がまた駐車場や本部前に集まってデモをしているのではないかとびくびくして降車したが、宇宙人のスパイ疑惑が始まってからもう数週間経っている。流石に飽きたのか、そこに人はいなかった。
尋問を簡単に受けながら、近況報告を包み隠さずに公安に伝える。所に出来る身の潔白の証明は、それしか無かった。公安は分かっているのか分からないのか、ただ事実を尋ねてメモしては後で裏付けを行うのだろう。所にはそれは虚しい作業には見えた。公安は本気で仕事に向き合っている、だから生意気な言い方かもしれないが、きっとそれは虚しい作業なのだと分かりながら、公安もそれを分かりながら向き合っていることに、寂しさがある。
「…大変ですね」
「ええ。口を割らない者の相手は大変です」
公安は滑らかに所を責めるような言葉を口にしたので、やはり自分は生意気だと思って所は苦笑いする。それは、所が絶対的な安心感を得られたからかもしれない。過去に遡る。
発見者であるEDF隊員の銅矢は、所を無関係だと信じてくれていた。公安の尋問に、ふらつきながら廊下を搬送されていた時のことである。たまたま鉢合わせた彼は、正義感なのか納得出来ない顔をしたかと思うと、すたすたと所に近付いてきた。流王はメガネを直しながら、銅矢を睨み付ける。
「接触は禁じられているはずですよ、銅矢隊員?」
「…分かってます。でもフラフラじゃないですか、ここはEDFで、EDFで保護した人ですよ?! 人道的な処遇を求めます!」
「それは兼東司令のお言葉ですか? 貴方の言葉ですか?」
流王の言葉に、銅矢は一呼吸置く。
「…俺の言葉です」
「話になりませんね。一隊員の申し出など、我々が聴く権利も義務もない。早く連れていきなさい」
流王の言葉で、足元がふらついていた所は、ふとした拍子に頭を近くの壁に激突させてしまう。その時、誰よりも早く近付いたのは銅矢だった。所は前後を公安に挟まれ、短い手と腰に縄を付けられて罪人同然である。壁に激突したことで、前後にいた職員から距離が取れた。だが銅矢は短い間、顔を覗き込むことしか出来なかったという。
「ど、銅矢くん」
「大丈夫っスか。あの、役に立つか分からないっすけど……助けてくれる人がいるかもです。二会敷少将っていいます」
「銅矢隊員、離れて」
「眼鏡で髪止めてて、デカくてすぐ分かると思います。その人に、所さんから助けを求めてください。多分あの人、所さんに興味持って」
「銅矢隊員!」
銅矢が引き剥がされたのはすぐの事だった。頼るのは兼東司令ではなく、新たな人間が出て来たと所は思う。二会敷少将。銅矢が頼るべきと言った人間だ。特徴はあまりにも分かりにくいが、”すぐ分かる”という単語にすがるしかない。公安によって銅矢は羽交い締めにされ、所から離された。だが、囚われの身の二人の目線はかち合う。銅矢が頷いた。所も小さく頷く。
これで銅矢の立場が悪くなるのでは、と懸念はあったが、今は銅矢のように信じてくれる者がいるということが、たまらなく嬉しかった。
「本日で我々とお別れです」
公安の言葉に喜んでいいのか、所は判断がつきかねる顔をした。今日まで何度も顔を突合せてきて、互いにコミュニケーションをして来た間柄である。一方的なものだったが、人間が互いに向き合ったやり取りであった。嬉しいはずなのに、妙な寂しさが所を包む。だが、流王は最後に絶望に突き落とすような言葉を呟いた。
「我々の次はCIAです。彼らは、我々より容赦はありませんよ」
その言葉は脅しであったかもしれないし、言葉は嘘であったかもしれなかった。だが所にはこの世界の国家が、如何様に拷問や尋問への取り決めを交わしているかは分からない。だから、まだ続くのだと思った時、体が自然と震え出した。震え出してしまったのだ。
「おい、捕まえろ」
一方の二会敷である。何度目の徹夜かは分からないが、研究棟から出て来て兼東司令に報告をした。EDFの中でもあまり歩かない珍しい場所にいたのである。ふわぁ、と欠伸をひとつ。廊下を歩いていると、逃げるように足音に追う足音が騒がしかった。
どんとぶつかり、二会敷と鉢合わせに出会ったのは所だった。彼は怯えたような顔をしており、確か宇宙人のスパイ疑惑のある特別収容者ではなかろうか。彼の尋問で答えた内容に、二会敷は密かに興味を持っていた。徹夜明けだから夢でも見てるのかなと都合良く考えて、二会敷はにこやかに話しかける。所は怯えていた。
「ねえ、君がその噂のスパイ…?だよね」
所がその言葉に顔を上げる。絶望しながらも、その言葉を聞き飽きていたのだろう、反抗心と彼の中の真実によって、目の光が強かった。
「貴方が二会敷少将ですか…?」
「そうだよ」
「助けてください…!」
所は吐き出す。銅矢にも兼東にも期待が出来なかったのに、何故かぱっと顔を合わせただけの二会敷に、所は思い切り縋った。それは長らく人の悪意や敵意に触れて擦り切った心が、最後の最後に残して振り絞った、”無心で人を信じるという行為”であった。所の心に残されている余力は、二会敷にすべて注がれていた。だから、二会敷を見つめ、全幅の信頼を寄せる。それが仮初のまやかしであろうと二会敷にも分かっていた。だって所が二会敷を信じるのには、あまりにも初対面である。
それでも、人間はここと決めた相手に全ての心を寄せるものだ。その差し出された無垢な信奉を、二会敷は拾うことにした。そっと所の肩に手を添える。その行動だけで、所は安心したように目に涙が滲んでいた。
するとバタバタと公安が追って、二人を取り囲む。所が怯えるのを、二会敷は肩を支える力に手を込めた。
「流王、被疑者が逃げ出すなんて問題があるんじゃない?」
「問題?」
メガネを持ち上げて公安は言う。
「彼はトイレに行くと嘘をついて逃げ出したのですよ。……しかし、これでは我々の落ち度が増えるばかりだ。こうしましょう、気分が悪くなった彼の介抱に二会敷少将。貴方が関与したことに」
「証拠隠滅ってこと? 君も悪くなったね」
「被疑者への配慮です。ここで逃げ出したとなれば、我々から被疑者には処罰を更に加えなければなりませんからね…」
「分かった、そうしよう」
所は怯えながらも、取引めいたものが起きているとは分かった。所が逃げ出したことは事実だが、それを見落とした公安の落ち度を隠すために、所はトイレの後に体調不良になり二会敷が介抱した事になったのだ。
「連れて行きなさい」
公安の一声で、所はもちろん連れていかれたのだが、二会敷によって助けられたのは事実だった。二会敷はほっそりとした肩を思い出す。あれは人間の腕だった、銅矢の主張が初めて正しいところを見たと思った。所の処遇は、日本の友好国のCIAが引き取る事になる。それもEDFの本部内での話だ。あと何度助けられるだろう、と二会敷は考える。
きっとそれは、ほんの僅かな奇跡が起きなければならないだろう。残念ながら、二会敷には所が尋問に耐え切ることしか願うことは出来なかった。
助けてください。
そのまっすぐな瞳で、真っ直ぐに願われたのはいつだろう。弱い言葉なんだよな、と二会敷は思った。
新生R星人との対決で、スパイ疑惑も解けて一件落着する