ジョー。ジョー・オル××××(プライバシー保護のため)。サタケの依頼人の息子であり、ランジバード未解決事件の被害者の一人で、キャンプのリーダーであった男性である。
 「ジョーの事を離せばいいのね。そうね、何からお伝えすればいいのかしら…」
 「思い付く限りで構いませんよ」
 サタケはにこやかにそう言うと、手帳を開いた。黒の手帳を慣れたように広げると、そこにペンを挟み、片手でメモを取る準備をした。
 「そうね。ジョーは小さい頃はちょっと風邪をひきやすい子で…病弱という訳じゃないんだけど、ちょっと細い子だったの」
 「はい」
 「でも身長は高くて、子供の頃からバスケットボールをやっていました。背の高さは…」
 息子の成長を語る彼女は、続きを傾聴しているサタケと目が合うと、「貴方程じゃないわ…」と母親の顔から真実を告げる顔になった。
 「キンダーガーデンまではバスケ部のキャプテンだったの。でも、なかなかハイスクールまでは伸び悩んで…わたしがあんまりでしょう。もしかして私に似たのかと思って、反抗期にはそれを責められもしたわ…」
 息子を亡くした母親の思い出話は少々長くなりそうであったが、依頼人の話を聞くのも探偵の仕事である。サタケは要所をメモし、続きを促すように目線を送った。
 「それでハイスクールの時は二軍だったみたいなの。でも、でもね。当時のコーチが、「おたくの息子さんは物静かだが彼のサポート無くしては試合が出来なかった。優秀な子でした」と言ってくれてね」
 要は、二軍で物静かで戦力ではなかったということをオブラートに包んでくれたのだろう。殺害されたとなれば、周囲の人々はジョーについて都合の悪い情報は隠し、あの子は良かったと賛辞する者である。それが人間としての気遣いだ。バスケットボールが好きだったとサタケはメモした。
 「ボランティアも積極的に行う子だったわ。確か、月に一回は近所の生活困窮者の団体支援のために出掛けてて…それで、カレッジでは社会福祉を専攻したの。生活困窮者の支援とか、色々調べた時に何が足りないのか、ちゃんと知りたいと言って」
 「それは、素晴らしい事ですね」
 「ええ。そこでサークルを立ち上げたみたい。そこで、今回の子たちと出会って…うう…」
 「すみません。お辛い事を思い出させてしまって」
 母親は鼻をすする。手元にあったハンカチで涙をぬぐった。ここはサタケの探偵事務所ではなく、ジョーの自宅に来訪させてもらっている状態である。家の中であるが、彼女は絹に見えるハンカチで涙をぬぐっていた。身なりは当然整えて客人を出迎えているから、サタケは裕福な家なのかもしれないと思う。母親はしばらくハンカチで顔を押し当てていたが、何か決意したように顔を上げた。その目と鼻は赤い。
 「いえ、いいんです。ただ、まだ犯人が捕まっていないことがどうしても気がかりで…。ジョーは一人息子でしたし、」
 「ご兄弟は?」
 「なかなか恵まれなくて。だから私、どうしても犯人を捕まえてもらいたいんです!」
 母親は突然いきりたつ。唐突な剣幕だが、サタケは冷静にただ呟く。
 「分かりました。それで、何か心当たりは改めてありませんか。警察に言った事でも、なんでも構いません。思い出した些細な事でも」
 「それが…サークルのお友達は私達親は知らないんです。この事件があって、はじめて被害者遺族の方と連絡先を知ったくらいで。…でも」
 「でも?」
 「あ、いえ。大丈夫です。つまらない事ですので」
 母親はそう言って口を噤む。サタケは職業柄そのわずかなものが気に掛かるものの、口を割らせるのが今の彼の仕事ではない。他に思い出したことがあれば、と言づけてその場は帰ることにした。
 「もう大丈夫なんでしょうか?」
 濃い昔話を聞かせただけなのに、と母親は何の役に立ったのかきょとんとしている。サタケはあくまでにこやかであった。
 「いいんです。お人柄と行動範囲を知りたかったので…素敵な息子さんだったんですね」
 「ええ! ええ……わたし、犯人を見つけたら…きっと八つ裂きにしてしまうわ」
 「心中お察しします。全力を尽くしますので、よろしくお願いいたします」
 「よろしくお願い致します」
 母親はまた目に涙を浮かべると、ハンカチを握りしめながら深々とサタケに頭を下げるのだった。
 サタケは手帳を見返していた。ランジバードの森にて、殺害現場を見たからこそ何かが掴めるかと思ったのだ。写真も見返してみるが、何の変哲もない森の写真である。「魔女」は食卓とキッチンを忙しなく行き来しており、手帳を眺めているサタケに声を掛けるのだった。
 「手伝いなさい、そこのティーン」
 「あ、すみません。あとティーンじゃないです」
 ふっとサタケが顔を見上げると、プラムマンは既に「魔女」の横で皿に料理を盛りつけていた。
 「神父さんに手伝ってもらうのは恐縮だけど、若い男は人一倍働かないと」
 「はいはい。ただいま向かいます」
 サタケは手帳を胸元に仕舞うと、ランジバードの森についての思考を一旦振り落とした。サタケには背負った大義はあるが、日常は目の前に転がっているのだ。ジョーの無念を晴らすことはひとまず置いておいて、食事をせねばならない。ただじっと見つめて来るような舐めるような視線を森から感じる気がしたが、葉擦れの向こうにある暗闇の影響だろうか。暗い森には魔力がある。身を縮める魔力があるのだ。
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11月22日書くよ(エクソシストプラサタ)
初公開日: 2024年11月22日
最終更新日: 2024年11月22日
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