学校にはいろいろオカルト話が集まるんですよ。みんな多かれ少なかれそういうのが好きですし、ほら、田舎だったからほかに娯楽がろくになかったっていうのもあります。
でもまあ、そういうオカルト話はたいていネットで拾ってきた嘘くさいのだったり、ウケ狙いで適当にでっちあげた作り話が大半で。そういうのも私たちにとっては貴重な娯楽だったんですよね。昼休みとか放課後とか、みんなしてそういう話をして騒いでました。
でも……。
それだけたくさんのオカルト話が集まってくると、たまにあるんですよね……「本物」が。
あ、その顔信じてませんね? ホントなんですって。だって、この事件って結局解決してないんですよ。見つかってないんです、ひとりも。行方不明になった女の子たち。
まあ……話自体は実際よくあるパターンですから信じられないのも無理ないと思いますよ? 毎年ひとりかふたりくらいのペースで、決まって高校生くらいの若い女の子が行方不明になるなんて、別に珍しいオカルト話じゃないですから。でも、さっきも言いましたけどこの話はホントなんです。
それで、行方不明になった子たちには若い女の子って以外にもひとつ共通点があって。
妖怪に出会ってるって言うんですよ。
その妖怪は、川とか沼とか、とにかく水辺近くに出てくるって話で。大きなふたつの目玉の怪物なんだそうです。水辺をひとり歩きしてる女の子がいると、長い舌を伸ばして女の子を捕まえて、大きな口でひと飲みにしちゃうんだとか。
こういう話には尾ひれが付きがちですから、その妖怪の姿や正体はいろいろ想像されてきました。めちゃくちゃ大きなヘビで女の子を丸呑みにするとかね。
妖怪の正体についてはいろんな考察や噂話がありましたけど、どれもはっきりしないものばかりでした。当然ですよね、その妖怪に出会った子はみんな行方不明になってるんですから、目撃証言なんてないんです。
そしてこれも当然なんですが、じゃあその妖怪の正体を確かめてみようってバカなことやり始める子たちが出てくるわけですよ。みんなそういう刺激に飢えてたんですね。
じゃあどうやってその妖怪の正体を確かめるのかって話になるんですが、これは簡単でした。
エサを用意すればいいんですよ。
さっきも言った通り、私が通ってた学校は田舎で、それでまあ閉鎖的な環境で。そんな中で回りと少しでも違う子がいれば、それだけで爪弾きにされていじめのターゲットにされる理由としては十分です。
妖怪の正体を確かめるって息巻いてたクラスの中心グループがそのためのエサに選んだのは、当時クラスに馴染めずに浮いていたひとりの女の子でした。え? 別に特別な理由なんてありませんよ。田舎のいじめなんてそんなもんです。まわりとちょっと違うってだけで十分なんですよ。
で、そのかわいそうな女の子はいじめっ子グループから脅されて、放課後、ずっと怖くて避けてた近くの川のそばをたったひとりで歩かされてました。もう陽も低くなってて、あたりは暗くて。女の子は泣きながら川辺を歩いてました。妖怪なんかでなくても十分怖いシチュエーションですよ。
もちろん都会みたいに街灯なんかありません。女の子は暗い川の側を、灯りもなしにとぼとぼ歩いてました。ただでさえもとから怖がりで臆病だった女の子は、もう草むらから聞こえてくるカエルの鳴き声も怖くて、でもこのまま逃げたら明日から学校でなにをされるかわからないから歩いていくしかありませんでした。
それで……どれくらい歩いのか、袖で涙を拭っていたときに女の子が気づいたんです。だれか……ううん、なにかいるって。
灯りのない暗闇の中なのに、川のほとりになにかがいるのがわかりました。女の子は怖すぎてそこから一歩も動けなくなってました。全身が金縛りにあったみたいにこわばって、怖いのに顔を逸らすことも目をつぶることもできません。
だから女の子は、見ちゃったんです。それを。
丸くて大きな目玉がふたつ、女の子のほうを見てたんです。
怖くて怖くて意識が飛びそうになる中、妖怪だって、女の子は思いました。この妖怪が神隠しの犯人なんだって。
ほら、「蛇に睨まれた蛙」って言葉があるじゃないですか。あれです。女の子は完全に動けなくなってて、叫び声も上げられませんでした。
そのとき、女の子の後ろの方から物音がしました。女の子のあとを、いじめっ子グループがつけてきてたんです。女の子を笑い者にするため、逃げないように監視するため、あとはまあ、怖いもの見たさだったんでしょうね。
隠れていたいじめっ子グループにもその妖怪の姿は見えてたんでしょうね。動けなくなってる女の子を置いて、いじめっ子グループは悲鳴を上げて逃げていきました。その後ろを、なにかがものすごい勢いで追いかけるのを女の子は見ました。
獲物を追いかけるヘビみたいに見えたそれは……真っ赤な長い舌に女の子には見えました。
その赤い舌は逃げていったいじめっ子グループのほうに向かってどこまでも伸びていって……そして、ものすごいスピードで戻ってきました。いじめっ子グループ全員を巻き取って。
そこで女の子は見たんです。大きな目玉を持ったその妖怪が大きな口を開けたのを。真っ赤な舌と同じ、歯が一本も生えてない真っ赤な口。妖怪はその口で、捕まえたいじめっ子グループをひと飲みにしちゃったんです。
その口が閉じるのを見て、女の子は「ああ、次は私が食べられるんだ」って思いました。でも、妖怪はそのまま、大きなふたつの目玉で女の子をじっと見ているだけで、襲ってきません。
どのくらいの時間が経ったのか、女の子は川のほとりにひとりで立ち尽くしてました。いじめっ子グループも妖怪の姿もどこにも見当たりません。金縛りがようやく解けた女の子は、魂が抜けたみたいになってふらふら歩いて、家に帰りました。
次の日はもう大騒ぎで。もちろんいきなり行方不明になった生徒のことでです。特に女の子はいじめっ子グループが行方不明になる直前に一緒にいたってことで、教師や警察から質問攻めにされて、生徒たちからも槍玉に上げられて、あとはお決まりの登校拒否。