毎週木曜はサンサン劇場への滑り込みの日。
 というわけで紅楼夢原稿もあるのに余裕ぶっこいて2本見てきました。厳密にはどちらの作品も短編映画2本が併映だったので合計で6本ということになります。
 まず1本目はこちら!
 サンサン劇場では「ソング・オブ・ザ・シー」「ウルフウォーカー」を製作したスタジオ「カートゥーン・サルーン」25周年記念ということで、同スタジオが製作した4作品を上映しています。
 このうち「ソング・オブ・ザ・シー」「ウルフウォーカー」は見ているので、今回は未見の2作品を見てみることに。そして本作は短編映画「アマゾンの森から来たモンスター」「レイト・アフタヌーン」が併映となっていたので、まずはそちらの感想から。
 「アマゾンの森から来たモンスター」、マンションの一室に住む男の子が、夜中に謎のモンスターに遭遇する。ヘビのような尻尾と鋭い爪を持ったそのモンスターの正体は……?
 10分にも満たないごく短い作品ですが、そこには増大する食肉生産の飼料確保のために焼き払われるアマゾンの森林を助けようというメッセージが込められています。
 個人的にはこういう方向性のメッセージが直球で込められた作品はあまり得意ではありませんが、カートゥーン・サルーンの特徴であるまるで絵本がそのまま動いているかのような精緻かつ朴訥なアニメーションで、不気味なモンスターの正体がアマゾンで住処を追われたジャガーであることが判明する、という流れはよかったです。
 「レイト・アフタヌーン」、こちらは同じくマンションの一室を舞台とした、認知症と思しき老婆・エミリーと、その世話をしている女性・ケイトのお話。記憶がおぼつかなくなっているエミリーは、お茶の時間にふとしたことから昔の記憶を思い出していきます。
 カンの良い人なら冒頭だけでエミリーはケイトの母であり、認知症のためにそれを忘れてしまっていることが察せられると思います。「アマゾンの森から来たモンスター」と本作は2回ずつ見たわけですが、1回目を見たあとでふたたび冒頭のエミリーの「あら、はじめまして」を見るとなんとも悲しい。
 しかし、本作でエミリーが徐々に記憶を思い出していく過程は、その幻想的なアニメーションもあって、なんだか優しい気持ちになれました。本作のグラフィックは緻密・写実的なものではなく、それこそ幼児向けの絵本のようなシンプルなもの。だからこそエミリーがまるで夢を見る子どものように自身の記憶をたどっていくさまが非常にファンタジックでした。そしてその記憶をたどっていった先にあったのが、かつての幼い自分がそうしたように砂浜に書かれたケイトの名前という流れが、あまりにも美しい……。「砂浜に書いた文字」という波の前にいずれ消えてしまうものが、それでもふたりをふたたび結びつける、というストーリーを、驚くほど言葉少なに語っている作品でした。
 そして「ブレンダンとケルズの秘密」。本作はアイルランドのダブリンにあるという装飾写本「ケルズの書」を題材とした作品です。
 主人公・ブレンダンはケルズ修道院に仕える見習い僧侶。院長であるケルアッハは彼を厳しくしつけながら、外界からのバイキングの襲来に備えた砦の建設に勤しんでいました。
 そんなある日、ケルズ修道院を高僧エイダンが訪れます。彼は、バイキングによって滅ぼされたアイオナ島から聖なる書物を携えて逃げてきたのです。ブレンダンは彼を手伝って未完成の書物を完成させる手伝いをすることにしました。
 インクの原料である樹の実を探して修道院の外にある森に足を踏み入れるブレンダン。そこでブレンダンは、不思議な少女・アシュリンと出会います。アシュリンの協力を得て書物の完成に近づくブレンダンですが、修道院にはバイキングの魔の手が迫ろうとしていたのでした……。
 本作はこのように直球のファンタジックな世界観を持つ作品です。そしてその世界観とカートゥーン・サルーンの描くグラフィックが、本作に神秘的な印象を与えています。特に森の中の描写は、言語化が難しいですがアニメーションでしかなし得ない森の木々、虫、動物たちの姿が描かれており、まさに「人間の手が届かない幻想の世界」といった感じで無限に見ていられます。見た人には分かると思いますが、あの大量の蝶が飛び立つシーンの美しさよ。
 そもそもアニメーションというのは「絵が動く」ものではありますが、カートゥーン・サルーンの作り出す映像は前述の通り「絵本の絵がそのまま動いている」という表現がぴったりの、唯一無二のグラフィックとなっています。なんというか、自分が子どものときに絵本を読みながら頭の中で想像していた映像がそのままアニメーションになってスクリーンに映し出されているとでも言えるような感慨がありました。
 そしてストーリーなんですが、ブレンダンをはじめとするケルズ修道院の人々はそれぞれ個性的に描かれているのに対し、侵略者たるバイキングの姿はみな画一的に同じ姿をしており、徹底して非人間的、被個性的な描写をされています。セリフも彼らが求める宝物である「黄金」ただ一言。
 本作ではこのバイキングは侵略という概念そのものとして描かれていると感じました。で、あれば、土地を蹂躙し家屋を荒らし回る彼らの侵略対象は「文化そのもの」と言えるでしょう。
 そしてこの文化の象徴と言えるのが、ブレンダンが必死になって完成させようとしていた「ケルズの書」そのものだと思います。Wiki調べですが、このケルズの書は「新約聖書の4つの福音書を含む、ラテン語の装飾写本」とのことですが、それ以前にこの書物は、厳密に言えば「書物という形態」は「物語の姿にコンバートされた文化」であり、「文化を後世に引き継ぐための外部記憶媒体」として扱われていると感じました。
 そもそもこの書物を完成させるために、ブレンダンはインク=文字の原料となる樹の実を探しに行くし、終盤でバイキングが修道院を襲撃したときの起死回生の一手となるのもこのインク。空白のページに物語を書き込んでいくのもまたインク=文字。
 さらにラスト、バイキングに襲われた修道院を脱出して大人になったブレンダンは、エイダンの遺志を継いで完成させたケルズの書を持って再建した修道院に戻ります。文化=物語の再生ですよね。
 本作に限らず、カートゥーン・サルーンの作品はしばしば「『物語』の物語」だと感じることが多くあるんですが、この「『物語』の物語」という構造は、次の作品である「ブレッドウィナー」でも少々形を変えて出てきたように思います。
 2本目である「ブレッドウィナー」は、これまでのカートゥーン・サルーンのファンタジックな世界観の作品とは打って変わって、時代は2001年、場所はタリバン政権下のアフガニスタン。
 主人公の少女・パヴァーナは、女性が顔を出して歩くことすらできない苛烈な弾圧のもと、父と母、姉と幼い弟と懸命に生きていました。しかしある日のこと、父親が無辜の罪で遠く離れた刑務所に捕らえられてしまいます。父を欠いた家族を助けようとするパヴァーナですが、女性であるためにその行動は大きく制限され、食べ物を買うことすらできません。パヴァーナはついに自らの長い髪を切り、男装することでなんとか日々の生活を維持していきます。そしてパヴァーナは刑務所に囚われている父を救い出そうとするのですが、戦争の影はすぐそこまで迫っており……。
 本作では、男装して懸命に生きていこうとするパヴァーヌとその家族の姿とともに、母から子であるパヴァーヌに、そしてパヴァーヌから幼い弟へと昔話が語り継がれるシーンが頻繁に登場します。しかし、当初はこの物語とパヴァーヌとの関連性は薄く、なぜこのふたつがセットとして描かれているんだろうと疑問に思いながら見ていました。
 その疑問は中盤あたりでだんだんと解けてきます。実はパヴァーヌにはすでに死んでしまった兄がおり、彼女はいつしか物語の主人公をその兄に重ね合わせていました。そして彼女は過酷で家族とのふれあい以外にはほとんど安らぎのない日常生活の中の唯一の安らぎを、その物語の中に見出していたのです。
 物語、つまりフィクションを絵空事だとか現実逃避だとかいう〇〇〇〇(※このブログは小さいお子さんも安心して読めるよう、過激な罵倒語をフィルタリングしています。大人の方はお好きな罵倒語を代入してお楽しみください)がしばしばいますが、フィクションや物語というのはいわば避難場所であるわけです。しかるにパヴァーヌは、辛いときにこの物語を思い出し、語って聞かせることで現実の痛みや辛さを一時的にせよ和らげていると感じました。
 さらには、「ブレンダンとケルズの秘密」がそうであったように、本作でも物語の構成要素である文字がさまざまな役割を果たしています。父から教えられたおかげで文字の読み書きができるパヴァーヌは、手紙の代筆・代読を行っています。言うまでもなく、これは文字の力ですよね。そしてその仕事のおかげで彼女は父を刑務所から救い出す協力者を得ることができます。
 そして終盤、ついにパヴァーヌは家族の反対を押し切って父のいる刑務所に向かいます。しかしその頃には戦争はさらに激しいものとなっており、刑務所も戦闘状態に。その中でパヴァーヌがすがったのは、やはりというべきか「物語」の力でした。彼女は恐怖でうずくまりそうになりながらも物語の中に生き生きと存在する兄の姿を頼りに、勇気を振り絞って父を助けるわけです。
 今回は同じ制作元の作品を2作品続けて鑑賞しましたが、前述の通りこのカートゥーン・サルーンの作品は「物語の力」を非常に偉大なものとして描いている、大仰な言い方をすれば信仰しているとも言えると思いました。「人間は虚構を信じられる唯一の存在である」とは「グリッドマンユニバース」での言葉ですが、両作品ともにまさにその言葉を体現したかのような作品だと感じました。
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塚口サンサン劇場「ブレンダンとケルズの秘密」「ブレッドウィナー」見てきました!
初公開日: 2024年09月19日
最終更新日: 2024年09月20日
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