#創作NL #創作BL(添える程度)
#オメガバース
「由貴さん」
「七緒くん」
そうやって寄り添いあっている先生と先輩の姿に、私は尊いものを見た気持ちになって拝みたいという謎の欲を抑え込み、手元の課題に目を落とした。
時は夕暮れの放課後。
時計の針は六時を指そうとしていた。
家に帰りたくなくて居座るのは、第二保健室。私の従兄弟にあたる保険医の先生と、此処の卒業生で、先生の恋人である先輩がいる。
…先輩、いつも忍び込んできてるけど、どうして私以外の生徒に気付かれないのだろう。ここがΩの保険医がいる保健室だからだろうか。
「なんだ。今日も居ンのか、瑞佳」
「……ウン」
「課題は?数学か。どこが分かんねえの」
「大丈夫だよ、せんぱい」
正面の椅子を引いて座る先輩。先輩が動くたびに、グレーの作業着から香る機械油の匂いには、すっかりと慣れてしまった。先生に移った煙草の匂いにも、慣れた。
「そういえば、先生と先輩っていつからお付き合いしているの?」
「え?」
先生のシミひとつない綺麗な頬が赤く染まる。先輩は、目を瞬かせて私を見下ろしている。
「純粋な疑問だから、別に答えなくても良いんだけど…。いつか、私にも先生たちみたいな恋人が出来たらいいなあって思って」
トン、と答えをノートに書いてペン先を打ち付けた。秒針の走る音だけが保健室に響く。先生や先輩から、返事はない。別に、良いけれど。
「――時々さ、先輩が私に牽制するじゃん?いや、そもそも私たちは従兄弟だよ。結婚できるって言っても血が近すぎる。それ以前に、私もΩだから…。先輩から、兄さんを奪うつもりなんてないんだよね」
「…は?お前、βって言ってなかったか?」
「うん?あー、この前体調崩してた時に病院に言ったらΩだって診断されて。後天性の変化だって。稀にあるらしいよ」
だから、家がてんわやんわしている。帰りたくない理由はそこにあった。名家といえば名家の生まれで、数多くのαを輩出し栄えてきた所に、直系の私がΩになった。唯一の娘が、である。家中が引っくり返った。
「由貴さん、そんなこと聞いてねえけど…」
「おいそれと言える話じゃないからねえ。唯一の直系の子がβだったのに、それがまさかのΩになった。結構、うちの家はシビアだから、僕以上にこの子の立場は危うい」
「そんな…」
「――僕は、早々に番である君を見つけれたから、比較的自由が利いているし、保険医にもなれた。まだ、正式な番じゃないけどね」
そう続けた先生――兄さんは、酷く悲しそうに笑った。別に、兄さんがそんな顔をしなくたって良いのに。
「んでさ、重要な話が一個あって。うん、今日は先輩に会えて良かった」
「重要な話?これが重要な話じゃねえって言うのか?」
「そうだよ、もっと重要な話があんの」
私はノートをカバンに片付けたあと、正面に居る二人を見た。
「これから先輩は兄さんだけ、兄さんは先輩だけを大事にすればいいよ。これは、うちの一族から言質を取ってある。念書だけじゃない、ボイスレコーダーだって残してある」
「…瑞佳、それはどういう」
「ン?あー…。兄さんのαは先輩だって、一族から正式に認められたってこと。だから、出来るなら早めに籍を入れておくのをお勧めするよ」
なにも出来ないままでいた私が、最初で最後にできたことだ。大事にしてくれた兄さんに、してあげることができる唯一の言葉。大きく目を見開いた兄さんと先輩に、私の視線は机の上に落ちた。
「あの家が、対価なしにそんなことするわけが…。瑞佳、お前は何を対価にしたの?」
遠くで鐘の音が鳴る。カラスの声もしている。ぼんやりと夜が近付いて来るのを感じながら、兄さんの言葉が頭の中でリフレインされる。私が、あの家に差し出した対価。
「――Ωとしての、私自身を」
「な、んで」
「兄さんには幸せになってほしいから。兄さん、先輩と出会って毎日が楽しそうだもん。もう、死んだ魚みたいな目をしてない。生き生きとした目をしてて、声に覇気が戻った」
βだった私でさえも、それは羨ましいものだった。でも、今まで苦労してきた兄さんには幸せになってほしいから。兄さんから私に焦点が変わったことを逆手に取った。
女のΩっていうのは、利用価値があるから。
「御爺様たちは、それで納得した。だからね、多分は私はこれからお見合い祭りなんだー」
つらつらと名前が挙げられているのは、大企業の一族や華族の名前。その中から、何人選ばれるのかは分からない。幸せになれるとも限らない。【運命の番】が居るなんて、端から思ってもいない。
「瑞佳、」
「やになっちゃうよね、ほんと。でも、私は満足してるのよ、兄さん」
兄さんに自由をあげられるのだ。それ以上の誉れはないだろう。これは、自己犠牲で自己満足だ。私は顔を顰める兄さんと先輩を見た。そんなに私を見たって、現実は変わらないよ。
「てなわけで、私は明日から学校休みます」
「え?待って、待って。瑞佳、待って」
「なぁに?」
「明日から休みって…。明日から、お見合いってこと…?」
「んや、明日は一日エステコースだって。だから、お見合いスタートは明後日からかな」
「明後日…。どうして、そんな」
「どうしてって。あんな家に生まれたせいで、疎まれ続けて来た兄さんに、やっと見つけた自由と愛を手放さないでほしいから。ただ、それだけ」
βだったことで宙ぶらりんでいた私を可愛がってくれたのは、この兄だけだった。だから、恩返ししたい。その一心で決めたことだ。
兄さんは顔を覆い隠してしまった。自分を責めないでほしいな、だってこれは私の自己満足なんだし…。なんて、言っても届かないだろうけど。
先輩は未だに難しい顔をしていて、少しの躊躇いのあと口を開いた。
「俺の、兄貴に会ってみるつもりはないか?」
カット
Latest / 31:21
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
月よ星よと、君を思うこと許されば。
初公開日: 2024年09月19日
最終更新日: 2024年09月19日
ブックマーク
スキ!
コメント
NLのオメガバース書きます!
脇でBLもしているメインがNLのオメガバースです
NLでオメガバースの必要あるんか?ってたまにみるけど、
男女同士でも「運命の番」だぞ!私は萌える!!ってだけの話です。