サクッと完成させっぞ
一人称僕に変えようかな
検索置換機能がうまく作動しないので手元のやつでちょっとやってくる
いややはり俺なのか……? うーーーん
結びの言葉もうちょいなんとかならねえかな~~~
そして最終話にもチェインを出したいんだけどどこにどうしようかな~~
これでいいのかわかんなくなってきたな~~
ハーメルンに投稿処理しようかな、もう勢いのままにやっとかないと……
外部サイトで作業中のため画面は動かないかも!!!!!!
サブタイトルについて何も考えてなかった
これ全何話構成だ
邪神ぽいのになったけど頑張って人間のフリするゾイ!
死んだ後、たぶん人間じゃない何かに生まれ変わった自分は、宇宙を漂い彷徨っていた。
いろんな銀河の創成を眺めながら幾星霜、数多の時間を過ごしても意外と発狂しねんだなワハハと呑気に構えていたが、かつて人間であった記憶がある以上耐えがたい欲求に悩まされ続けた。
つまり、暇! なのである。
退屈なのだ。ここには自分しか意識を持った生命体がおらず、会話をすることもできない。
そこで俺は宇宙を自分の意志で漂えるように自己改造を施し、かつての故郷・地球を探す旅に出た。
時間の感覚をとうに失っていたため、その発見にどれほどの時間がかかったのかはわからないが、俺は地球そっくりの惑星を発見した。多分本物の地球だと思う。かつての人生では家に地球儀があるタイプのご家庭ではなかったため、大陸の位置の細かいところまで覚えていないが、遠い記憶の上ではこの通りであったように思う。
とにかく地球を見つけて大歓喜した俺だったが、見つけた瞬間に問題があることに気がついた。
今の俺、全然人間じゃねえ! ということである。
悠久の時を過ごし始めた序盤、そこにあるものが己の体しかなかったため、その時に観察しつくしてしまったからこそ、ここにくるまで改めて思考に登らなかった。
かつて人間だった頃の俺が今の俺を見たら、モンスターとかクリーチャーとか、そういう類の分類をするであろう醜い姿なのである。邪神とか言われそうな風体なのだ。宇宙から来てるし、クトゥルーな感じの、見たらSAN値が1d10/1d100で失われそうな、平易に言えば視界に入れた瞬間正気を一瞬で失う可能性のある、非常にやっべえ感じの異形なのである。
しかしやっぱり今の自分は人間ではないので、人間にはできないことができる。
つまり身体改造、人間に見た目を寄せるのだ。
人間そのものにもなれそうな万能感、それだけはあった。
俺は相変わらず時間感覚というものを失っていたので、何秒何時間何千年かけたのかは一向に不明だが、こうして人間に擬態する能力を手に入れたというわけである。
今にして思えば、地球にはかつての俺が知っている人間の形をした生命体が暮らしているのかとか、言語はどういうものなのかとか、そういったことを調べてからやったほうがよかっただろ、とは思うのだが、何せ俺は時間感覚を失っていた。
時間感覚を失うということはつまり、効率について考える力を失うということに等しい。
そうした方が早いじゃん、という思考はないのだ。やれるからとりあえずやっておくのだ。
人間に完全に擬態した俺は、とりあえずかなり人口密度が多そうな地域にひょいと降り立った。
もちろん人間はサイヤ人のように宇宙からきゅいーんと飛来しないことは覚えていたので、誰もいない路地裏に瞬間移動してきた。サイヤ人のように。見られなければサイヤ人であることはバレねんだ。
俺は生粋の日本人であったので、そこが日本でないことはすぐに思い出せた。
何か多分……アメリカ! アメリカっぽい! 海外といえばアメリカだからだ。
俺は自分が本当にちゃんと人間になれているか若干不安だったが、そんな不安を持っていることがバレたら当然普通の人間には見えないので、全然普通なフリをしてその辺を練り歩いた。
そうして歩くうちに、やっぱりここはアメリカ、そしてニューヨーク(めっちゃ聞いたことがあるので俺は安心した)であることを理解した。
これは通行人が話しているのが英語であることがわかり、そのうえで英語という言語を覚えたからだ。
前世では外国語を話せるような勤勉な人間ではなかったが、今の俺は人間じゃないので覚えが異様にいいのだ。
人間だったら天才と言われるやつだ。人間じゃないので化け物とか言われるやつだった。
人間についてよく観察し、自分の人間らしさをさらに磨こう、社会体制とか勉強しなおそう、と道行く人々の会話から学習していた最中のことである。
俺が人間だった頃の常識にあわせて考えた場合、ありえないことが起きた。
これはのちにNY大崩落と呼ばれる未曽有の災害であったことが判明するのだが、当時の俺はあまりピンと来ていなかった。
人々が叫び逃げまどい、建物が崩壊しては宙を飛び交い、霧がどんどんと濃くなり続ける中、人間の真似をしておくかという浅い考えで、とりあえず真顔で走っていたくらいだ。どこに走ればよいかもわからなかったが、周囲の人間たちもわかっていなかったので、俺だけわかるわけにもいかなかった。
そうして一晩が経ち、覚えたての街の様子が著しく変わり、人間ではないものがすっかりなじんで生活しているのを目の当たりにして、ようやく俺はこの状況に既視感を覚えたのである。
なんか、漫画で読んだことあるかもォ……。タイトルは血界戦線だったかもォ……。
今生きている世界が、かつての生で紙面上に描かれていようが、些末なことであった。
本気を出せば未来予知とかもできちゃいそうな今の俺にとっては。まあそんなこともあるかという程度のことである。
人間とそうでないものが入り混じる街は、俺にとってメリットとデメリットが両方あった。
人間でないものが当然存在している街で、己が人間でないことがバレてもそこまで問題がない、というのがメリットだとすれば、デメリットは、人々が人間でないものを見慣れているせいで、己が人間でないとすぐに看破されてしまうということである。
しかし俺は強い子であるので、デメリットもすぐにメリットに変えることができた。
つまり、俺は学べるのである。こういうふるまいは人間でないと思われる行為だということを。
というわけで俺がこのNY――今は名を変えヘルサレムズ・ロット――に降り立ってからたったの数年(一年を数えることができるようになった、この進歩を見てほしい)で、この俺はもうすっかり人間としての立ち振る舞いを完璧なものにしていた。
完璧なものにしていたはずなのであった。
「はい、いつもの」
「ありがとう」
いつもの、で通じるメニューを受け取る。
俺はいつも来ているダイアンズダイナーというカフェで食事をとっていた。
すっかり人間的な振る舞いを習得していた俺だが――一番最初の記憶は人間であった頃なので、人間的な振る舞いを思い出してきたと言った方が正確なのかもしれない――食事のたびに妙な感動を覚えていた。
これほど頻繁に食事をとらなければ死んでしまう生物たちが毎日しっかり生をつないでいることへの感動とか、別に食わなくても死なないんだけどこの食事を楽しいと思えている自分に対する感動とか、そういうものである。
「相変わらずおいしそうに食べてますね、J(ジェイ)」
ハンバーガーにかぶりついていたところ、馴染の声か聞こえたので、俺はハンバーガーを持ったまま振り向いた。ちなみにJというのは今の俺のニックネームである。これが結構気に入っているのだ。
「うん、ふぁいふぇいふぇんえ」
「食べ終わってからにしろよ汚ぇな」
俺はこのカフェの常連だが、彼らもそうと言って差し支えない。
いつも丁寧な物腰のツェッドと、いつもチンピラのような振る舞いのザップである。
見るたびに面白い組み合わせだなあと思うのだが、彼らの交友関係がどのようなものから始まったのかについては未だ聞いていない。
今のJという人間としては、勤勉・素直を心掛けているため、言われたとおりにハンバーガーを咀嚼して飲み込んでからもう一度言った。
「うん、おいしいからね」
「オレも同じの」
「はいよ」
「今日はレオはいないのかい?」
「後から来ますよ」
レオ――レオナルド・ウォッチは彼らと同じくこのカフェの常連で、彼らの友人、あるいは同僚である。
「借りていたゲームの感想を話そうかと思っていたんだ。それならよかった」
そして俺自身の友人でもある。
俺が今のJという人間を気に入っているのは、交友関係がうまくいっているという自負があるからでもあるのかもしれない。レオやツェッド、ザップに限らず、結構友人が多いように思う。少なくとも前回の人間のフリよりは。
「オタクくんどものグルーミングに俺を巻き込むんじゃねえぞ」
ザップがオエーっという顔をしながらそう言ったのに対し、俺とツェッドが返事をしようとする前に、ダイアンズダイナーのドアが開いた。
開いたというのは適切ではなかった。正しくはドカンという大きな音とともに蹴破られたのである。
「強盗だー!!!!」
急展開、というわけでもなかった。
カフェの中でキャー、という悲鳴を上げたのが数名、他ほとんどの客はまたか、という顔をしている。これは常連に限らず、つまりHLの住民であれば、食事時に「強盗だ!」とドアが蹴破られるような体験は何度もしてきているという証明であった。
ツェッドは席から立ち上がろうとしたが、俺は「まあまあ」と彼を席に戻した。代わりに俺が強盗の元へ行く。
「なんだあんちゃん、正義の味方でも気取るつもりか?」
「いやいや、そんなつもりは毛頭なく」
威嚇してくる強盗に対し、笑って手を振る。
正義の味方をやるつもりなら、先のツェッドを止めはしないだろう。
「欲しいのはお金?」
「あたりまえのことを聞くのがブームなのか?」
「いや、欲しいのは命だって言われたら、大人しく悲鳴を上げて逃げるつもりだっただけだよ」
そういうタイプの殺人者も結構この街には多いのだ。そうでなくてよかった。
「このくらいでどうだろう」
俺はポケットから札束を取り出して、強盗の手にポンと乗せた。
強盗は一瞬ひるんだが、再び口を開こうとしたのが見えたので、俺はさらに札束を一束乗せた。
「どうだ」
ここらで客席の方からザワついた雰囲気を感じる。
こういうのはアレだ、ちょうどオークション会場なんかで感じるような空気感である。
強盗が再び口を開こうとしたので、俺はその前に、もう一束札束を乗せた。
「どう?」
強盗が再び口を開こうとしたので、俺は札束をもう一つ乗せようとポケットに手を突っ込んだところで、後ろからの奇襲を受けた。
「アホがァ! こんなヤローに渡すならオレに寄越せよ!」
ザップである。
日本の漫才師がやるように頭部をぴしゃりと叩かれたので、俺は札束を持ったままの手で殴られた自分の頭を押さえた。
「いつも奢ってあげているじゃないか」
「それでハンバーガー何個買えんのか計算してんのか!?」
「ザップ、そういう計算ができないとね、これだけの札束を稼げないんだよ」
「おかしいこと言ってんのはオレか?」
ザップが客席を煽る。客たちはザップの剣幕に押されたのか、皆一様に首を振った。
ザップは振り返って、強盗に再び同じことを聞いた。
「オレはおかしいこと言ってんのかって聞いてんだよ、ア!?」
「俺ェ!?」
急に絡まれた強盗は素っ頓狂な声を上げた。
「強盗だっつってこんなに札束が出てきたことあんのかオメー」
「いや銀行だったらあるけどよ」
「そういうこと聞いてんじゃねえだろ!」
「すんません!」
強盗が恐喝されている。ちょっと可哀想だ。
「つーわけでJちゃんよ、オレが強盗を退けたらこの札束をオレにくれるっつー話はどうだ」
俺が口を開こうとしたところで、ドアに向かって強盗が吹っ飛んでいった。
振り向けば、俺が座らせたツェッドが、先ほどまで持っていなかったトライデントを構えて憤慨している。
「駄目に決まっているでしょう」
「おい邪魔すんな、あと一秒あればこいつはうんかああを言ってただろうが」
「ツェッドさんナイス!」
ツェッドを褒めたのは、いつの間にかダイアンズダイナーの崩壊したドアから顔を出していたレオである。
俺は彼に会えたのがうれしくて、札束をパタパタと振った。
「レオ、こんにちは」
「普通に挨拶してる場合か?」
このツッコミはダイアンズダイナーの看板娘、ビビアンから飛んできたものである。
俺は確かに、と頷いて、強盗が落としていった札束の一つをビビアンに積んだ。
「ドアはこれで直すと良い」
「あのさ、やっぱアンタ数を数えられないんじゃないの? ドアの値段はこんなに高くないって」
しっかり者のビビアンは、札束から数枚の紙幣を抜いてから俺に返した。
俺としても行きつけのカフェのドアがいつまでも解放されていては困るので、これに納得して札束を受け取る。
カフェの常連客は事態の解決におざなりな拍手をして、「よっJ!」「金持ちのボンボン!」「俺にも金くれー!」と適当なヤジを飛ばした。俺はそれに応えようとして札束を手に取ったが、レオに手を叩かれて「コラァッ!」と言われた。
「貨幣制度が壊れるでしょうが!」
凄い突っ込みだったので俺は感心して、大人しく札束を懐にしまった。
席に戻り、食べかけのハンバーガーを持ってテーブル席に移動する。
レオを隣に招待すると、ザップとツェッドも向かいに座った。
「レオ、君を待ってたんだ。こないだ借りたゲームの感想を言いたくて……」
「その前に改めて、どうしてそういう金銭感覚で生きてこれたのか聞いていいですか?」
「本当に欲しいものには値段がつかないからだよ、レオ」
俺が適当なことを言ったので、レオはあきらめてビビアンに「いつもの!」と常連の注文をした。
一足先に、俺と同じメニューが運ばれてきたザップはそれにかぶりつきながら言った。
「カツアゲされてもなくならねえ資金っつーのは想像もできねえけどよ、想像したら最高だよな」
「それカツアゲをする側で考えていますよね?」
「ふぁんふぁふぁふぁい」
「さっきまで口にハンバーガー入ってても流暢に喋っていたでしょう」
相変わらず漫才みたいなやり取りをしているザップとツェッドに、俺は言う。
「実際体験しているから想像するまでもないんじゃないのかい?」
「コラッ! カツアゲされてるなら言いなさい!」
「冗談だよ、レオ」
ということにしておいた。
俺が適当に濁したのがわかったのか、レオは深いため息をついた。
「それだけお金があったらゲームを借りる必要もない気がするんすけど」
「まったく君は何もわかっていないな」
ゲームを借りられる友達がいるという尊さとか、プレイした感想を同じ熱量で語り合えるかけがえのない時間についてとか、そういう話をしようかと思ったが、ちょっとクサすぎるかなと思い直して、俺はやっぱり適当なことを言った。
「好きなものにはたくさんお金を使いたいけれど、ゲームソフトを買い占めるとみんながプレイできなくなってしまうから、ソフト開発会社の株を買い占めているんだよ」
「規模が違ェー!」
実際株主総会には出席しているので、そう適当なことというわけでもなかった。
今のJという人物において、俺は考えすぎないことを意識している。
前回の人間のフリでは、あんまり普通であることを意識しすぎたせいで、うっかり生存率70%の道路を渡って死んだ。こうして生きている以上、死んだふりをしたというのが正しいわけだが、人間だったら確実に人生を終えていたわけである。
そして前々回の人間のフリでは、あんまり貧乏だったせいで、うっかり医療費が支払えなくて死んだ。もちろん同じく死んだフリだが、お金って結構あった方がいいっぽいなというわけで、今回の人生ではお金を稼ぐことにちょっと集中してみたわけなのだ。しかし俺は人間初心者なので、ちょっとやりすぎた。資産家のランキングに載ってしまう程度には稼げてしまった。
人間に出来ることしかしなかったはずなのにおかしいな……しかし資産家は全員人間(異界人も含む)であるため、このくらいは俺的に許容範囲だ。ギネスに載りそうになったら世界的な能力上限にひっかかるためやばいと思おう。
俺はダイアンズダイナーの常連だが、他にも当然行きつけの店がある。
ホッピンポップドーナツのイートインスペースで、もちもちのドーナツと、サクサクのパイを交互に食べながらカフェオレを嗜んでいると、向かいの椅子に男が座った。
この店は相席を採用していないので、こういったことは初めてである。
「純・城ケ崎だな?」
「Jって呼んでよ。気に入ってるんだ、この呼び名」
Jは友人が多いが、この男は見覚えがなかった。仕事上でも見た覚えがない。
記憶力の良い人間程度には記憶容量を持っているはずなので、少なくとも今までに会話をしたことはない、とはっきり言える。
俺の本名は彼が言った通り城ケ崎純で、これは英語圏の人間には非常に記憶しにくく、発音もしにくいらしい。ジョンとかジェーンとか間違って呼ばれることが多いし、ジョウガサキは全然違う発音に化けがちだ。俺はそういった問題から、じゃあJって呼んでくれよ、と己でこのあだ名を考えたわけだ。アルファベット一文字はどんな種族からでも比較的呼びやすいようで、これが浸透している。
そんな中久々に本名をしっかりと正しく発音されたので、彼は俺のことをしっかりとリサーチしてから来てくれたようだ。俺もしっかり対応しなければ、と襟を正す。
「それで何の用?」
「サザンアイランドコーポレーションの株を買え」
「めちゃくちゃインサイダーかも。犯罪に手を染めない方針で人生を運用しているからお断りなんだけど、そういう返事は想定済みかい?」
返事は、銃口を向けられることで返ってきた。
どうすっかな、とひとまずカフェオレの入ったマグを持ち上げたが、マグは無残にも男に撃ち抜かれて粉々に割れてしまった。
音に驚いた人々がこちらを振り返るが、「失礼」と俺が言うと、皆ショーケースの中のドーナツに視線を戻した。
「次は額だ」
「まいったな。ドーナツは好きだけど、ドーナツになりたいと思ってたのはエレメンタリースクールまでなんだ」
「サザンアイランドコーポレーションの株を」
割れたマグを見て、店員が「お怪我はありませんか?」と慌てて駆け寄ってきた。
大丈夫と返すより先に、男の銃口が店員に向こうとしたので、俺はわかったよと言おうとした。
言う前に、目の前の男の頭が蹴られた。
男が椅子から転がり落ちる最中、拳銃が暴発し、天井に向かって銃弾が放たれる。
男の両腕を後ろに回して確保しながら、「とっとと応援寄越せ!」と無線にがなるダニエル・ロウ警部を見て、銃声に振り返った人々は、やっぱりショーケースの中のドーナツに視線を戻した。
目を白黒させる店員に、俺は「ちりとりを貸してくれるかい? 自分で掃除するよ」と提案した。
「一応聞いといてやるが、怪我は」
「ないよ。ああいや待って……やっぱりない。血じゃなくてトマトソースだ」
俺が食べていたパイはミートパイだったので、一瞬血に見えてしまった。
紙ナプキンで手を拭きながら、顔なじみの警部に礼を言った。
「いつもありがとう。お金いる?」
「毅然と犯罪者に立ち向かった口で賄賂の提案してんじゃねえ」
「そうか、警察って大変だな……」
公務員にはお金を渡せないらしい。
俺はロウ警部に報いる方法を考えた。
なにしろ命を救ってもらったのは今日だけの話ではないのである。
HLでは貧乏も金持ちも等しく命の危機にさらされるものだが、金持ちの方が比較的救いの手が間に合う場合の方が多いという体感だ。
「なにか君にお礼をしたいんだけど……」
「いらねえよ。囮になってくれてるだけで十分だ」
「おお。なった覚えはなかったけれど、役に立てていたようならなによりだよ」
「皮肉だアホが! 狙われすぎなんだよ犯罪者に! 暇なときはお前のところに張っといたら犯罪者が釣れるって噂が立つくらいだ!」
「それは褒められている? それともたしなめられている?」
「どっちもだ。金があんなら警備を雇え」
「うーん、仕事中には警備がいるんだけど。プライベートまで常にだれかがいると息が詰まりそうでね。だが警察に迷惑をかけたいわけではないし、検討しておくよ」
店員がちりとりを持ってきたので借りようとしたが、手際よくマグの破片は片付けられてしまった。チップを渡すと店員はにこやかに業務に戻って行った。
ロウ警部は頭をがしがしとかきながら言い直した。
「あー、別に警備はいい。新人の点数稼ぎの役に立ってるしな」
「そうかい?」
「即死さえしねえなら」
「それはHLにすむ全生命体にとって不可能だろう」
このHLでの生存率すべてに言えることだが、ほとんど運が良いか悪いかで決定する。
だが、運以外の要素もしっかり整っていなければ運命の女神は微笑んではくれない。そしてその運以外の要素、というのに彼らHLPDは大きく寄与している。
日々市民の安全を守ってくれているHLPDには感謝が耐えないし、その中でもめっぽう迷惑をかけているロウ警部になにかできること、と俺はしばし考えた。
「いいこと思いついた」
俺はレジの一番前に「失礼」と言って割り込んだ。当然並んでいた人には文句を言われるが、構わずレジに札束をポンと置いた。
「俺がこの店のドーナツ全部買うから、ここにいるみんなにおごるよ!」
途端文句は消え、大喝采が巻き起こった。
ドーナツは世界を平和にする。
「警察も市民ではあるんだし、みんなのうちに入る分なら賄賂じゃない。詭弁チックだが見逃してくれる?」
「あのな、そういうことしてっから犯罪に巻き込まれんだぞ」
「ドーナツとインサイダー取引に関係があるかな」
とはいえ、犯人の確保にやってきたロウの部下はドーナツに諸手を上げて喜んでいたため、強く言うつもりはないようだ。
「手を煩わせんな。品行方正にしてろ」
「してないように見えるのかい?」
「ちげえな。ほどほどに悪いことしてろ」
「おお。それは難しいお願いだが、君のためなら努力しよう。ちょうどやろうと思ってたし、悪いこと」
「……一応聞いとくが、犯罪じゃねえだろうな」
「バーで飲酒」
ロウは煙草をくわえ直して、俺にしっしと手を振った。
事情聴取は免除してくれるらしい。あるいは後から聞かれるのかな。
「いつか君とも、被害者としてでなく喋ってみたいんだけどね」
「手錠かけられんのが趣味なら風俗街に行けよ」
「いや当然、犯罪者側として喋ってみたいというわけではない」
「HLPDはいつでも新人募集中だ」
同僚、というか部下としてなら喋ってくれるということか。
そういうわけで言ったわけでも当然なかったわけだが。
「俺ってそういうの案外本気にするよ」
「せめて一日署長とかにしとけよ」
あるいは上司としてなら喋ってくれるということなわけか。面白そう。
「ハイ、待った?」
「全然」
待ち合わせのバーに到着すると、すでにカウンター席でチェイン・皇が酒を飲んでいた。
俺はよく酒場にいる。お酒を飲んでいる人間を観察するのは中々飽きないからだ。
彼女とはお互い一人で飲みに来ていた時に出会い、それから何度か別のバーで出会っている。3度目に偶然出会った時に、ここまでくるともうずっとどこかで会うだろうから、と連絡先を交換したのだ。
それからは、予定が会えば一緒に飲んでいるというわけである。
「おいおいあんちゃんよ、オレが目に入ってねえのか」
「もちろん見えているとも。視力検査は間に合っているよ、健康診断の結果はオールAだ」
俺の確かな視力によれば、チェインはナンパされていた。
彼女にはこういった事態を単独で解決する力があることは十分承知の上だが、俺は彼女を守るためにチェインと男の間に入ったのである。
なにしろ悪いのはチェインを待たせた俺だ。例え待ち合わせの時間はまだ過ぎていないとはいっても、チェインが稀代の美女であることを考慮すれば、彼女を1人にしないように俺はもっと早くここにいなければならなかった。
ガラの悪い男はチェインと俺を見比べると、鼻で笑った。
「ハッ。HL有数の資産家とあっちゃ、こんだけの美人を侍らせることもできるってわけか。ゴシップが怖くねえのか?」
俺のことはご存知のようである。
見かけによらず経済新聞やニュースをしっかり見ているのかもしれない。感心だ。
「大丈夫だよ。ゴシップ雑誌が一番売れた時よりも高い値段を俺が記者に払うから。そうすると不思議なことに、俺の写真が載った記事は掲載されないんだ。それで、君もお金が欲しいの?」
男はくそったれ、と吐き捨てて店を出ていった。
お金が貰えるチャンスを自ら不意にする人間は珍しい。
彼の背を眺めながら、チェインの隣に座った。
「変わった人だったねえ」
「君ほどじゃないよ、J」
チェインとは飲み友達だ。
お互い日系だし、それなりの酒豪という共通点もある。
「悪いね。もっと早く着く予定だったんだけど、ドーナツ屋でドーナツにされかけるハプニングに遭って」
「面白そう。その話もっと聞かせて」
「ご期待に沿えるかわからないけど」
一日署長の話あたりでチェインは大笑いした。
「予定が立ったら絶対に教えてね。翌日のニュース番組全部予約しておく」
「それなら期待に沿えそうだ。マネージャーに頼んでおこう」
HLPDの一日署長になるべく、スマホのメッセージアプリを開く。
チェインとするのはいつも取り留めのない話だ。
仕事について詳しく話せるほど俺と同じ職種ではないようだし、お互いに恋人なしの一人暮らしで家庭環境について話すことも特にない。
彼女と話していて心地よいのは、踏み込まない会話ができるからだ。
チェインがふと思い出したように話す。
「プロスフェアーできる?」
「苦手だ。友達にボコボコにされたことあるから」
「プレイできるだけ優秀だね。ちょっと本読んでみたけどルールはさっぱり」
「練習相手を探しているなら協力できるよ。負けるのなら得意だからね」
「どうかな。アプリで出来る?」
「できるとも。今やってみようか? 酒のつまみにいいかもね」
「負けてもお酒のせいにできるし?」
「おっと。俺はプロスフェアーで負けることより、酒に飲まれた方が恥だと思うタイプだよ」
「奇遇だね、私も」
アプリをダウンロードして操作を確認し、ルールを確認しつつプロスフェアーを打ち始める。
「Jって無性愛者(アセクシャル)なの?」
「考えたことがないな。ということは、そういったことに興味がないってことなのかもしれない。名乗ったつもりはないが、君がそう思うのならそうなのかもね」
「へえ、意外だよ。君は何事にも哲学があるタイプだと思ってた」
「それこそ意外だ、俺が哲学者に思われていたとは。それよりチェイン、男女で恋愛の話はしない方が身のためだって聞いたのだが。友情が崩壊する一歩目らしい」
「その心は?」
「恋愛の話を始めた方が相手に気があるって」
「J、それって今までのジョークで一番面白い」
男女の友情は続きそうで何よりだ。
「長年友人のいない人生を送ってきてね。友達を作る方法をいくつか試したんだが、今のところ最も効果があったのを実践してる」
「ふむ。参考にしたいね、なに?」
「つまりこれさ」
俺は人差し指と親指の指先を擦り合わせるジェスチャーをした。
「お金があると人が寄ってくるんだ」
「良い奴より悪い奴の方が寄ってくるんじゃないの?」
「それが意外にそうでもない。あるいは俺が良い人に甘いから、悪い人も良い人の振りをしてくれるんだよ。俺に金のある限りはね。善人のフリをする悪人は、バレない限り善人だ」
人のフリをする俺が、バレない限り人であるのと同じことである。
「恐ろしくはない? 自分からお金がなくなった時のことを想像したら」
「死ぬのは恐ろしいか、と聞いているのと同じかもね。失うのは誰でも怖いだろう。金を失えば友人も同じだけ失うかもしれないが、その時になってみなければわからない。なにしろ金はまだいっぱいある」
「羨ましい話だね。J、もし君がホームレスになったら、記念に一杯奢ってあげるよ」
「ではその時を楽しみにして、明日も稼ごう」
俺とチェインは軽くグラスをあわせ、同時に杯を煽った。
「いつも通り、帰りのエスコートは必要ないのかい?」
「タクシーに乗ったら吐きそうだもの」
それから俺がプロスフェアーでボコボコに負けるなどして、宴もたけなわとなったところで解散の流れとなった。
この程度の飲酒量でチェインが嘔吐するほど酔っぱらうわけがないので、彼女なりのジョークだった。
「家に着いたら連絡してくれ。俺と飲んだ後事件に巻き込まれでもしたら一生のトラウマになる」
「君が今日の帰り道で事件に巻き込まれるほうが可能性ありそうだけど」
「うん。それは当然、そうだね」
「既読がつかなかったら通報しといてあげるよ」
「ありがとう。俺がこのあと事件に巻き込まれてもまた飲んでくれるかい」
「それでトラウマになるほど繊細じゃないからね」
それでこそチェイン・皇であった。
俺はレオやツェッド、ザップと友人である、と思っていたが、彼らの生活のすべてに踏み込むことはしなかった。
なんとなく、結構大変そうなことをしていそうだなという雰囲気は感じ取っていたが――そして、この俺が本当は人間ではないことを利用すれば、その詳細のすべてを理解してしまうことも容易であったが――改めて、彼らが何者であるかを知ることはしなかった。
それは彼らに配慮したわけではない。俺が、人間であることを優先したからだ。
この地球に降り立とうと決めた時から、俺の指針はぶれていない。
人間らしく振る舞って、人間のように、人間と仲良くしようという、そういう自己満足からスタートして、ずっとそのままだ。
なぜこんなことになったのか、ふと思い返すと、そんな暇はないことに気がつく。
俺は人間を模すことに心血を注いでいるので、人間の知覚とそれ以外をわけている。
普段はできる限り、人には感知できない感覚については考えないようにしているのだが、やはり俺も未熟である故、完全に考えないようにするのは無理だった。
あえて人間の感覚に落とし込むのなら、それは背骨がバチバチと電気であぶられるような感覚。
これは処理してはいけない、人類の感覚に存在しないことを理解するより先に、隣にいたレオの首根っこを掴んで、Jとして想定していたはずの筋力を大幅に上回る腕力で、彼を放り投げた。
人間の知覚の中だけでの話をすると――俺は一瞬にして瓦礫にまみれていた。
この瓦礫がかつてダイアンズダイナーだったことはすぐに想像できた。
だが、その瓦礫の下に埋まってしまったかもしれない友人たちのことは想像したくない。
ただ模しているだけの心臓が早くなる。
俺は人間のフリがうまいなあと、自画自賛なのだか自虐なのだかわからない感覚を覚えながら、自分の体の上に乗っていた瓦礫をうんとこしょと除けて立ち上がる。
たぶん、脳みそが揺れすぎて使い物にならなくなっていたか、あるいは鼓膜が破けていたか、そういうことだったのだろうけれど、当時の俺は人間のフリに執心していたので、実際のところ自分の体がどうなっていたのかはわからない。
ただ、瓦礫を除けて現れた自分の体を見て、ああこのままでは死ぬんだろうなということだけは理解できた。なにしろ人間の体というのは非常に脆いのだ。
腹の皮が破れ、内臓のどれかがこぼれている。
いつの間にか目の前にいたレオが、俺に向かって、何かを必死に叫んでいるが、聞こえない。
俺があんまりぼんやりしているからか、レオが俺の腹を両手で抑え込んだ。血は止まらない。俺の体は完璧に人間を模しているから、きっとこのままでは死ぬのだろう。
一度結構平気かと思って立ち上がってしまってそのままなのだが、出血量とレオのリアクションを見るに自分は死にそうなので、今倒れておいたほうが良いんだろうか、とあまり人間らしくないことを考えていた。
それもいい。それでいい。
人のまま死ねるならそれでいい。
俺はふとそう思った。
ここを終わりにするのが良いのかもしれない。
今までの俺は、ずっと学習を続けるつもりでいた。
いかにして人間らしく、人間のようでいられるかを研究して、実践を続けることをいわゆる生きがいにしてきていた。
それを突き詰めたら最終的に、人間らしく死ぬ、というところに行きつくのはわかっていた。
いや、今わかったのだ。
もし俺が本当に人間だったのなら、その仮定に基づくのならば、俺は今ここで死ぬのだ。
俺がどうして、何によって死ぬのか、そんなことはなにもわかっていない。
だがもし俺が人間だとするのなら、そのまま、何もわからないままに死ぬのが正解だ。
なんというか、友達に死を惜しまれているのだけはわかるし、このまま死んでもいいかなあ、と俺は今度こそ人間らしくぼんやり考えていたのだ。
だが、俺はレオの背に迫る、刃を見た。
どうせ死にかけているのなら、視界もなくしてしまえばよかったのに。――いや、やはり失くしていなかったからこそよかったのか、それはもうわからない。
このままではレオの首が、間違いなくその刃によって切断されてしまうのだろうと、見てわかってしまった。
俺は手を伸ばしたが、その刃は人智を超えたスピードだった。
人類では止めることのできない必殺だった。
到底間に合わないことを悟って、そのうえで、俺はあきらめた。
つまり、人間でいることを、あきらめた。
「自らに課した約束も守れないこの俺を、どうか嫌いになってくれ」
それを言ったか言ってないかでさえ、人間か人間でないかもわからない俺にはわからなかった。
人間でいることをやめた俺は、この街でなにが起きているかを正確に把握することにした。
はいはい、ああそう、それは俺がかつてこの街について、そういえば漫画で読んでいたなあということを思い出す手助けにもなった。
ブラッドブリードという種族がここには存在するのだった。
あんまり詳しく理解したところで、今の俺には関係がない。
だから大雑把に言えば、人間を大きく上回る力を持った種族だ。
それを殺す手段を今の人類は知らず、ただ名を知ることができれば、封印することができるかもしれない、そのくらいの対処法しか存在しない、人類が対処するには理知外に強すぎる種族。
なんつーか、そういうのが普段行ってるカフェに攻めてくる確率ってどんくらいなわけよ。
札束の数は数えられても、そういう確率を数えるのはかったりいんですけど。
だがどちらにせよ、現実に起きてしまっているのだから、今更数えたところで何も変わらない。
この地球に来てから、戦おうと思ったことなど一度もなかった。
人間の中に戦うタイプの人間がいることは知っていたけれど、そういうタイプに擬態しようと思ったことがなかった。ありていに言ってしまうと、怖かったからだ。
例えばどのくらいの力の強さで殴れば人を殺さずに済むのかとか、殺されそうになった時に人がどの程度怖がるのかとか、そういうことを真剣に考えること自体が恐ろしかった。
だが、正直言って今の俺は結構、ヤケになっていたので、もうあんまり考えなくていいかなと、あきらめた。
先に感じたのは、いわゆる殺気とか、そういう類の感覚だったのだろう。
ダイアンズダイナーが崩壊する直前、俺はレオを安全な場所に移動しなければと、大丈夫そうな場所に放り投げた。
だが、レオの首が今まさに刈られようとしていたのを見たその時に、いやこれレオを放り投げるんじゃなくて、レオを殺そうとしているやつを放り投げたほうがよくね? とようやく気づいたのである。
人外生活が長いとあんまり常識かわからなくなるから嫌よね。人間のフリをし続けて長いはずだが、人外であった時間の方が圧倒的に長いのだ。
レオの首を刈ろうとしている生き物を分析した結果ブラッドブリードだとわかったので、首根っこ掴んで引きはがした後、自分の体を変形させて俺の手から抜け出そうとしたのもすぐに納得できた。
なにしろ自己改造というのは俺にとっても十八番である。
自分を好きな形にできるというのは上位存在にとっては当たり前のことだ。
だから俺も自分の腕を好きな形に変形させて、ブラッドブリードの動きを封じようとした。
あ~も~これ全然人間じゃねえ、というあきらめにより俺の顔がどんどん真顔になっていく。
このHLという街はとてつもなく愉快なので、俺が腕の形を網のように変形させても、まあそういう人間もいるか……で納得してくれる人々も多いのかもしれない。
だが、人間とは一線を画し、より高位なことを知覚できる彼らブラッドブリードにとっては、そういうのもいるか、では済まなかったようだ。
「お前、何だ」
人以外についての研究は遅々として進んでいないため、彼がその言葉に込めた感情は理解できなかった。その質問に誠心誠意答えてあげようという親切心も沸いてはこなかった。
俺はただぼやくように、いつものように適当なことを言った。
「俺は人間が好きなんだ。こんなに本気で人間のフリをして、人間のフリしたまま、人間みたいに死のうって思う程度には大好きなんだ」
ようやく取り戻してきたはずの時間感覚において、数億万年の時間を過ごしたこの生を、この場で手放してしまおうと思う程度には、この一瞬を愛していた。
「俺みたいな人間の偽物より、やっぱり本物の人間の方が好きなんだ。だからこうして、とてつもなく嫌なのに、こんな姿を晒している」
自分で言っているけれど、適当を言っている感覚はあるので、自分でも納得できなかった。
だからとか言ったけど、今俺が恥を晒している理由についてうまく説明できないというか。
「なあ、レオナルドは俺の友達さ。そこの瓦礫につぶれされかかっているクリスティアーノも、お前がさっき風圧で飛ばしたケイコも、ディーンも、みんな俺の友達だ」
もやもやとしていた自分の思考が、徐々に形になっていくのを感じる。
「死ぬのを黙って見ていられないよ。自分の意志薄弱さに反吐が出る。なんとかできるからって、なんとかしちゃわないようにしようって思っていたんだけれどな」
それは俺が人間のフリを始めた最初の頃に、自分自身に約束したことだ。
己が人間でない以上、人間より多くのことができるけれど、それをしては人間ではなくなるから。
だからやめようと、そう決めていたはずなのに。
「俺が人間みたいにあっさり死ぬのは受け入れたくせに。人間が人間みたいにあっさり死ぬのを、どうしてか許せない。ただ、俺の友達だからって理由だけでさ」
言葉にしてようやく、ああそうだったのかと納得できた。
理由と言うのはそれだけなのかもしれない。理論が通っているかは関係がない。
そう、人間というのは、理論が一番大事ではないと俺は学んでいるから。
「上位存在ってのはみんなイカレてるが、お前はとびきりだ」
手のひらの中でブラッドブリードが俺に言う。
「ありがとう。お前はずっと正気だね。だからその程度のままなのかい」
それが彼にとっての堪忍袋の緒だったらしい。
額の付近にビキビキとひっ勘が浮き出るのが見える。
わかりやすい怒りのサイン、まるで人間のようだ。――羨ましい。
「殺す」
「やれるならやってくれよ。死んでやってもいい気分だったんだし」
彼がレオを殺そうとしなければ、そうなっていたかもしれない未来だ。
だがそうはならなかった。
俺は死ねず、レオは死なず、俺は恥を晒し続けている。
理論なんかはどうでもいいな、というのが、人間のフリを長く続けて思ったことだ。
これがこうしてこうなって、というのはあんまり深く突き詰めてはいけない。
多くの人間たちが、物理だとか科学だとか、なんなら四則演算でさえ、きちんと認識していなくとも生きていっていることから学んだ。
あんまりすべてを知っていると人間らしくない。人類は全知全能ではないからだ。
だから俺は何をどうなっているか深くは考えないまま、ブラッドブリードを己の体の中に溶かした。
これは人間に例えれば消化というやつだが、俺は人間ではないので詳しくはわからない。
わからない方が人間らしいので、わからないでいいかという気分だ。
「クソッ、クソッ、クソォッ」
悪態をつきながらもう何もできない彼に、Jとしてのいつもの癖で、わかっているような適当なことを言った。
「君らブラッドブリードが死ねないというのは欠点じゃないか? 上位存在だからって皆が不老不死ってわけじゃないんだよ。終わりを設定した方が存在としての格が上がる場合について考えてみたことはある?」
人のフリをあきらめた今となっては、本当にわかってしまうこともできただろうけれど、それはやめた。
「まあいいか。せめておやすみ。死を失った君にとって、せめてもの安寧は、なにも考えないことでしか与えられないだろう」
ともかく、このHLで暴れるブラッドブリードがいなければ解決するはずだ。
ブラッドブリードをひとまず消し去ってしまってから、俺はこれからどうするか考えた。
なんつーかさ……まず瓦礫をどかして下にいるかもしれない生存者を捜して……とかを考えなきゃいけないのかもしれないし、それより先に、俺が来るまでブラッドブリードと戦っていた人たちに対してかける言葉を考えなきゃいけないのかもしれない。
俺は未練深く、Jであったときのように、あまり常識というやつを考えない振る舞いをした。
つまり、ちょっと呆然と、あるいは俺を大層警戒している人たちに向かって、親指を立てた。
「おつかれ!!」
ついでにウインクもした。
ウエストコートを着た紳士だけが、ぺこりとお辞儀を返してくれた。
「お疲れ様です」
「おい!? いや、おいでいいのか……?」
向こうも混乱しているようだ。俺も混乱しているのでおあいこだ。
人間のフリができなくなったのだから一刻も早くこの場を去るべきだと考える己と、どうせバレてしまったのだからできる限りのことをしてからでもいいんじゃないかと考える己がいる。
わからない。とにかく今にでも瞬間移動して消えてしまいたい気持ちがあって、俺にはそれを実行する能力があるから、今にそうしてしまっても後悔しないように、これだけは言っておかなければ。
「友達でいられて本当に良かった、レオナルド」
「何、言ってんすか。過去形じゃないでしょ」
「だが……」
思いのほかすぐに返ってきた言葉に、俺はやっぱり困惑して、続きを言えなかった。
ヤジが飛んでくる。
「アホかオメー、どうみてもその辺の異界人とは格が違ェ邪神クラスのクソヤバ概念だろうが、とっとと逃げろや陰毛野郎」
「アホなのはあなたですよ、レオくんの覚悟を少しは想像したらどうですか」
どっちも言っていることは最もなので、最もだったので、俺はやっぱり困惑した。
「ええと、俺が今まで学んできたところによると、嘘というのは嫌われるもので、俺は君にずっと嘘をついてきたということになると思うのだけれど」
「俺がアンタに一度でも人間ですかって聞きました?」
「聞かれてないなあ……」
「じゃあ俺は嘘つかれてないですよね?」
「ついてないかもォ……」
「じゃあそういうことっすよね?」
「そういうことかもォ……?」
かなり適当なことを言われているような気がするが、これは俺がJとして、ずっと適当なことを言ってきたことへの意趣返しだろうか。
「それなら私も、不可視の人狼だって話をしなかったから嘘つきになるよ」
「チェイン」
存在希釈でその場に現れたチェインに、俺は両手をあげて降参した。
友人を嘘つきと糾弾するのは心が痛む。つまり彼らもそうだという話だ。
俺はレオの顔をむんずと掴んだ。
人に出来る限界くらいのスピードで、ザップとツェッド、それからウエストコートの紳士と、顔に傷のある紳士が戦闘態勢を取る。遠くでスナイパーライフルの銃口がこちらに向いたのもわかった。
このリアクションは正しい。
手のひらから人間を食べるとか、やろうと思えば普通にできるし。
いや、やっぱり正しくないかもしれない。
俺への対処として正しいのは、戦闘の意思を見せることではなく、真っ先に逃げ出すことな気がする。
もちろんレオを食べちゃったりしない。ちょっと人外仕草すぎるし。
さっきブラッドブリードを食ったやつが言っても説得力がないので、やっぱり戦闘態勢を取られるのが普通だ。
片手でレオのほっぺを両側から掴み、目をのぞき込む。
「君、人間にしては視えすぎているから、他の人より俺のことがずっと恐ろしいんじゃないのかなと、人間初心者の俺は愚考するわけなんだ」
「ニュービーくんに教えてあげますけどね、人間ってのは友達相手にビビったりしないんすよ」
俺は人間についてよく勉強してきたからわかる。
筋肉のこわばり、体の震え、血圧、そういったものから判断して、間違いなくレオナルド・ウォッチは今現在恐怖を感じている。
だが、俺は彼を嘘つきだとは思わなかった。
彼は恐怖を感じてなどいないと、俺に信じてほしいのだ。
「ちょっとグロいことするから無事でいたくて素直な人は一瞬だけ目を瞑っててね~」
俺はそう言ってから、指パッチンをした。
目を瞑っていて欲しい目安の時間としててそうした。
つまり、俺が指をパチンと鳴らし終えるくらいの時間で事は済んだ。
瞬く間に、瓦礫になっていたダイアンズダイナーは元に戻り、削れていた道路は平らになり、瓦礫の下で死んでいたクリスティアーノとジェーン、ケイコが息を吹き返した。
その最中は、とっても名状しがたい過程を踏んで、まさしく邪神的な行いであった。目が良ければ触手とか見えたかもしれない。つまり俺の本体の体の一部などが露出したりした。
建物の修復はともかく、命の再生はとても繊細な作業なので、俺も利き手じゃないとうまくできないのだ。
「ま、マジで何も視えなかったんすけど……?」
「リガ=エル=メヌヒュトの施術は見事だが、悪趣味だ。覗き見ているやつらはもっとね」
神々の義眼について言及すると、レオは息を呑んだ。
視覚に関して全能ともいえる神々の義眼であっても、一時的に何も見えなくすることくらいなら俺にもできるのである。
この場で面白いことが起きているということには同意するし、見たいと思うのも共感するが、己の目で見るべきだ。
しかし俺のような存在がホイホイとHLに現れては混乱が起きるってのもわかるので、悩みどころである。
素直でなく、動体視力の良かった数名が、俺がこの場を元通りに復元した様を見て「もうだめだ世界は終わりだ……」「窓に、窓に!」「おかあちゃーん!」と発狂しているのが聞こえる。
たぶん一時的発狂だろう、数時間もすれば多少は正気に戻るだろうから放置した。
「君と君の妹の目をどうにかすることもできるけど、俺は君が目をどうにかしたいと思っていることを知ろうとしなかった」
俺は人ではないので、知ろうと思えばすべてを知ることができる。だがそうしなかった。
「死にゆくすべての人を救うことができるし、ブラッドブリードを消し去ることもできる。だがそれをしなかったのは、俺がただの人間みたいになりたかったからという、つまらない理由からだ」
「つまらなくないでしょ。人間って楽しいですよ」
「うん」
心からそう思っていたので、俺はレオにそう言われて素直に頷いた。
「まだ人間でいたいんすよね」
「うん」
そう思っていることに言われて初めて気づいたので、俺は素直に頷いた。
「友達の嫌がることはしないもんっすよ」
例えば――例えば俺が人として以外の力を存分に使用すれば、レオの本来の目を取り戻し、レオの妹に視力を取り戻すことができるかもしれない。
レオがこの街に来てから、ずっと追い求めてきた解決の糸口が、俺という形になって目の前にあるのだ。だが彼は、俺が人間でいたいと思っていることを優先しようとしている。
それでいいのかな、と俺は疑問なわけだ。
レオの目の問題を俺を解決するとしたら、まあ俺は確実に、人間としてこの場に居続けることはできなくなるだろう。もしかすると他の上位存在と喧嘩になって、もう二度とここには戻ってこれなくなるかもしれない。それでもいいか、と思ったくらいには、俺は彼に友情を感じているわけなのだが。俺は最後に言った。
「困っているのを助けるのも、友達ってもんじゃないかい?」
「自分の問題は、自分で何とかするんで。これまでと何も変わらない」
簡単に言えるわけがないのに、レオは言ってのけた。
それでも俺と友達でいたいと思ってくれているのなら。
俺は自分のやりたいことをやるのをあきらめた。
もっとうまく人間に擬態するために、バレるまで人間のフリを続けるのは、しばらくの間お預けだ。
これからは、人間でないとバレたうえで、どこまで人間のフリができるかという、新しく面白そうなことをやってみよう。無茶な気もするけど、人間っていつでも無茶なことをしているし。
明日はHLPDの一日署長になる予定で、リスケも申し訳ないしな。