夏 陶器を買いにきたイソップと付き添いのイライ(現パロ!)
すれ違う人々の年代はさまざまだ。高齢の夫婦、カメラを構える若者、女性2人で楽しそうに声を上げる旅行客。傾斜のある細道を登り、夏の日差しが落ちる草むらをかき分けて、煉瓦の煙突や無人の工房を通り抜ける。別にこれといって目的がある訳ではなかった。いや、あるにはある。イソップは汗を拭いながら地図を見た。
「ふう……目的のお店はこのへんかな?」
「別に特定の工房を目指してる訳ではないので、入りやすかったら、まあ」
「うんうん、イソップの求める器と出会えるよう祈ってるよ!」
イライは朗らかに笑う。自分は好きでもないのに器を選びにきたイソップにくっ付いてきた物好きな男だ。この地域は歴史的にも古い陶芸の街で2人が住んでいる場所とは遠く離れている。旅行気分の同行者を尻目にイソップは地図を鞄にしまった。
何かのしるべを辿って欲しいものを得る、それはイライの言ったように器もそうであるし、どこまでも着いてきてくれるこの友人の真意もそうだ。本当に欲しいものは地図なんかには書いていなくて、運命的に偶然出会うことになるのだと、イソップは知ることになる。
「あそこに休憩所があるよ」
「少し休みますか」
坂を登り切った先に小屋があった。大きな鉢にはメダカとカエルの置物があり、敷居をまたぐと三和土の先に畳やちゃぶ台が見える。この地域の風景を描いたスケッチが飾られていて、風鈴の音と共に腰の曲がった女性が現れた。にっこりと笑うと紙コップに麦茶を注いで渡してくれたので甘んじて頂いた。
「おいしいです!」
「ありがとう、どこから来たの?」
恒例の質問だ。イライが答えてくれている間に端に置かれた小物を見にいく。小皿、急須、箸置き、値札とデザインを比べながら眺めていくと角のほうに一輪挿しがあった。丸みを帯びた筒が円を描いて、ドーナツ状になった穴の部分に親指ほどのサイズのフクロウがいる。木の幹を模した軸はざらざらとした質感を残したまま、シンプルに白一色で塗られていた。どこか幻想的ながらも質実剛健な見た目に惹かれて手を取ると、その白フクロウは片目を閉じていた。他にも目を開けているものや翼を広げたものもあったが、薄いベールを纏ったかのような神秘性に目を奪われてしまったのかもしれない。
一度その一輪挿しを置いて他のものを物色したが、結局はあのフクロウを手にしていた。
「イライ」
「うん」
「これを見て何か思うところはある?」
いつの間にかそばに来ていた友人に片目を瞑ったフクロウの一輪挿しを差し出した。彼は頭を左右に振ってから困ったように笑う。
「……運命の出会い、しちゃった?」
「……まぁ、イライの言葉を借りると、そうかも。でも、なんとなく、僕よりあなたの方が似合うと思う」
「そうかな、少なくとも私はこの子を選んでない。君はこの子を選んだ。そうでしょう?」
「……買ってくる」
イソップは軽い調子のイライにため息をついてから老婆の方へ歩いていく。その後ろ姿を眺めながらイライもまたため息をついた。
「私は……君に選ばれる日がくるのかな」
イソップに選ばれたあのフクロウの一輪挿しが少しだけ憎らしい。イライは子どもめいた感情をすこしだけ呟いて、それから笑顔を取り繕う。あのイソップが行きたい場所だなんてどんな所なのだろうと思っていたけれど、この街を歩きながらどこか納得している自分がいたのだ。一つに向かって真剣に誠実に生きる人たちと、それらから生まれた真面目な作品たち、自分の知るイソップにそっくりだった。
「会計をしてたらおまけで貰ったのであげます」
イソップの声で我に帰ると、手のひらに落ちてきたのはどんぐりの形をした箸置きだった。
「……貰っていいの?」
「今日付き合ってもらったから、そのお礼、みたいな……」
「ありがとうイソップ」
手のひらに馴染む小さな箸置きを握りしめて、どんぐりの笠の溝をなぞった。うれしい、という4文字がその溝から染み出すような心地がした。無理やり付いてきてよかった、そう噛み締めながら鞄にしまった。
「次はどこ行こうか」
「イライの行きたいところに行こう
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ノ〜ウラが旅行してる話
初公開日: 2024年09月12日
最終更新日: 2024年09月12日
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思いつくままに、夏