予報にない雨は苦手だった。
昇降口から外を眺めれば、厚い雲に覆われた空はどんよりと灰色に染まっている。傘を広げた生徒たちは、一人、また一人と屋根の下でたたずむ自分を次々に追い越していった。
迎えが来るまであと十五分。することもなく手元の時計を眺めていると、後ろから聞き覚えのある声に呼ばれて振り向いた。
「ネリネ! 今帰り? ほんと、急な雨って困るわよね」
友人のゼイユは下駄箱で靴を履き替えてくると隣に並び、一緒になって雨空を見上げた。彼女は今日の天気についてひとしきり文句を言うと、気がついたようにこちらを見下ろし、心配そうにつぶやいた。
「もしかして、傘忘れた? 珍しいわね」
「ええ。それで、迎えの車を呼んだところです」
「そっか。じゃあ安心ね」
「はい。少し待ちますが、よければ乗っていきますか? 見たところ、ゼイユも傘がないようですし」
聞けば、予想に反して友人は、ううん、と首を横に振った。
「大丈夫。傘ならあるわ」
にこりと笑う彼女だったが、どうみても鞄以外に持ち物はないし、そこから傘が出てくる様子もない。不思議に思っていると、ゼイユが出てきたひとつ隣の下駄箱から、見知った男が顔を覗かせた。
「オイラのとっておきの置き傘なんだけどなぁ」
こちらの会話が聞こえていたのか、カキツバタはそうぼやきながらやってきた。手元には男物の黒い長傘が握られていた。本当に長い間学校に放置されていたようで、あまり使われている様子がない。その証拠に、カキツバタの傘だというのに、持ち手のビニールが綺麗な状態で残っていた。という風に判断するのは、いささか失礼かもしれないが。
「いいでしょ別に。こういうときのためのものだし。ほら、貸してくれるなら持ってあげるから。感謝しなさい」
ゼイユは奪い取るようにして彼の傘を広げると、二人はさよならを告げて雨の中を歩いて行った。
なるほど。ゼイユの方が上背があるから、彼女が傘を持つのは理にかなっているのだろう。が、濡れないように、ちゃっかり自分の方にばかり傘を引き寄せているせいで、反対側のカキツバタの肩は、少し歩けばもうずぶ濡れになってしまった。それに対して文句の一つでも言ったのか、すぐさま持ち手の奪い合いが始まった。左右に傾いた傘の先から、交互に雫が滴り落ちていく。あの様子では、せっかくの広い傘の下も役に立たないことだろう。
けれど後ろから見えた二人の顔は、どしゃぶりの雨をどこか楽しんでいるようにも見えた。やがて彼らはお互いに傘を持ち合いながら、歩幅を揃えて歩いていった。