ランジバード未解決事件。キャンプに向かった大学生グループの行方が五年前の××年××月××日に分からなくなった。SNSの発達した現代においてあえて人里離れる所でキャンプをして、実生活とのメリハリを付けようと言う趣旨のリーダーの先導で森に入った10名の行方が知れなくなったのは三日後の事だった。二日の予定が一日過ぎても帰ってこないと言う親の通報により、捜索が成された。そこで捜索隊が森で発見したのは、男性ばかりの惨殺死体だったという。遺族はその惨状に発狂し、吐き気を催す者もいた。被害者の近くの木々には丁寧に切り落とされた指がーー司法解剖の結果、生きたまま切り落とされたと分かっておりーー葉の付いた枝の上に丁寧に並べられていたと言う。血しぶきは至る所にあるのに、惨たらしい人の手は丁寧で丁寧で丁寧で、これは異常な殺人だと即座に国中にそのニュースは駆け巡った。だが未だに犯人の足取りは掴めていない。またこの事件が国において風化しないのは、グループのうち男性が惨殺されたものの、女性の遺体が一切見当たらなかったからだ。十人のうち四人の娘の行方がくらましたままなのである。娘を持つ親たちは、この残忍さに娘らは殺人鬼に攫われて今ごろどのような目に遭っているか分からないと震え上がった。その点から未だに風化しないばかりか都市伝説じみた現象が起きただの、この太平の世に現れた残忍な事件は、安全な位置からは消費される娯楽となっていた。女が犯人だの、男同士の抗争だの故人の人格を踏みにじるような考察が飛び交い、不愉快な現象の一つである。動画配信サイトではこの話題を持ち出せば視聴数は盛り上がった。遺族はまだ探している。犯人の手がかりと、安全であろう娘たちを。
 ラジオをかちゃかちゃと回しながら、レトロな車だとプラムマンは思った。
 「ラジオが入るのが驚きだな」
 「それは、現代用にリメイクしてるからな。君にとって懐かしいか?」
 からかうようなサタケの声に、プラムマンは少しむっとしたようだ。
 「あいにくそこまで歳じゃない。父親が昔乗っていたかどうかだ。その頃もこんな車は珍しかった」
 「ははは、冗談だよ。これは友人の車でね。傷付けるわけにはいかない」
 「まったく…しかしランジバードか。足を踏み入れるのは初めてだ」
 「トムはキャンプはしないたちかな?」
 「…お前な」
 「ごめんごめん。冗談だ。ここらは上級者でも近付かない森なんだろう、人気も少ないし熊だって出るかもしれない」
 「熊の方が恐ろしいんじゃないか」
 「そうだけど、これも仕事だよ」
 サタケはそう言いながら革張りのハンドルを握り、右へ切る。彼は赤のレザージャケットに白のズボン、カジュアルな格好である。その横に座るプラムマンは黒ずくめだ。その首には大きな十字架が掛かっており、彼が聖職者であることを示している。プラムマンは街を突っ切り、森に向かって行く平原の先を見つめて頬杖をついた。
 「何故私を呼んだ」
 「恋人の頼みが聞けないのかい?」
 「まだ返事をしたつもりはないが。茶化すなリュージ」
 「久しぶりに二人きりじゃないか、私だって浮かれるよ。…そうじゃないか。新たなアプローチが必要だと思ったからさ」
 「私に霊と対話をしろと言うのなら無理だぞ。私は祓うしか出来ん」
 「それがすごいんじゃないか。まあ、でも大まかなところは私が見立てているよ。心配しないで」
 プラムマンはサタケの横顔を見やる。運転に集中している顔だが、どことなく綻んでいるように見えた。プラムマンは司祭である。悪魔祓いの訓練を受けたエクソシストと呼ばれる者だ。サタケは私立探偵である。今回は遺族からの依頼で、ランジバードの森に立ち入る事になる。ランジバードの近くには村があり、そこで聞き込みと宿泊をする予定だ。その手筈は全てサタケが整えて、プラムマンは付き添いのような形になっている。
 「あまり長居は出来ん」
 「そうだな。でも、なるべく早く片を付けてやりたい」
 サタケの顔から笑みが消え失せる。遺族は泣きながら犯人を捕まえてほしい、どんな手段でもいいから捕まえる為の手がかりが欲しい。生きたまま拷問された息子の仇を取りたいと言った。このままでは息子は天国にも行けないだろうと、サタケに訴えた。警察とて捜査に手を抜いたわけではないが、類似事件が起きていない事でグループ内の内輪もめではないかという見方が有力だ。だがそんな事で命を失って、拷問めいた行動を受けて良いはずがないと親心には思うものである。だから第三者の痕跡を探しに、サタケはプラムマンを連れ出したという訳だ。司祭の身であり、遠出の許可が下りるのは困難なのだが、このサタケは要領が良いもので、事あるごとに恩を売っているのかすんなりと許可が下りる事があった。あるいはプラムマンの働きすぎを懸念しているかである。この二人の出会いはよそで語るべきであろうので、ここでは省略とする。だがサタケはプラムマンを気に入っているのか、よくこういった遠出には誘い出した。
 「遺族はもう五年も苦しんでいる。それに、生きているか分からない事に憔悴するのは、あまりにも可哀相だ」
 「…無論だな。まずはどこへ向かう」
 「森へ。問題の現場へ向かってから、村で泊まるよ」
 「同じ部屋じゃないだろうな」
 「同じ部屋だけど?」
 サタケが小首を傾げながらいたずらっぽく笑う。プラムマンは呆れたように息を吐いた。
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