そんなリリーの笑顔を見ていると、負けて悔しい気持ちよりももっとこの弾幕ダンスバトルを楽しみたいという気持ちのほうが大きくなってきました。胸の中で、やる気がぐんぐん大きくなって行くのを感じます。
「よーし、もっかいやるぞーっ!」
 元気に空中に飛び上がったチルノを歓迎するかのように、リリーは降り注ぐ花びらとともに濃密な弾幕を放ってきました。チルノも負けじと氷弾で応戦します。
 春と氷、対照的なふたりの戦いのせいで、魔法の森の一角には降り注ぐ氷やあられと咲き乱れる桜の花びらで同時に覆い尽くされるという不思議な光景が広がっていました。一匹、また一匹とふたりのまわりには騒がしい場所を好む妖精たちが集まってきます。その数はだんだん増えてきて、いまやふたりのまわりは妖精たちに囲まれたダンスステージのよう。
 ピーカンの青空の上で氷の粒と桜の花びらが舞い散るその光景は、普通なら決して見られないものでした。普通なら同時には存在しないはずの季節が入り混じっているかのようなその光景を、幻想郷で起きてきた数々の事件を知るものが見たらこう思うかもしれません。
 これは「異変」だと。
 しかし、当の本人たちはそんなことにはお構いなしに、空中をくるくる踊りながら弾幕を撃ち合っています。チルノとリリーは、いつのまにか魔法の森を通り抜けてしまっていました。ふたりの後を追うように、妖精たちもまた列をなして群がっています。
「うーん、最高に調子がいいですよーっ! 今ならこのまま幻想郷じゅうを春にしちゃえるかもですよーっ!」
 魔法の森でチルノに出会ってからずっと踊りながら弾幕ごっこをしているにも関わらず、リリーには疲れたようすがまったくありません。それどころか、ますます元気を増しているようです。
 しかし、対するチルノも負けてはいません。動きを封じるように下側から放たれたほとんど春度のかたまりのような弾幕に向かって、強烈な冷気を叩きつけます。リリーの放った弾幕は冷気に覆われたかと思うとたちまち凍りつき、動きを止めました。
 そのときにはすでにチルノの両手には冷気が集中し、巨大な氷のハンマーを作り出していました。凍りついた弾幕ごとハンマーを振るって、大量の氷の弾幕を打ち返す構えです。
「くら……」
 くらえ!と声を上げてハンマーをフルスイングしようとしたチルノの目の前で、驚くべきことが起こりました。凍りついていたはずのリリーの弾幕が、内側から氷を溶かしています!
「んなっ!?」
 凍りついていたはずの弾幕は濃い春気をまとっており、その濃さは桜の花びらと同じピンク色の光として目に見えるほど。その春気が氷を内側から溶かしているのです!
 チルノがとっさに氷のハンマーを盾代わりに目の前に構えるのと、凍りついていた弾幕が完全に溶けてしまうのはほぼ同時でした。氷を溶かした弾幕は発射されたときの勢いを思い出したかのようにチルノめがけてまっすぐ襲いかかります。
 氷のハンマーに弾幕が突き刺さったかと思うと、その強烈な春気でハンマーはたちまち溶かされて穴だらけになってしまいました。慌ててのけぞったチルノの鼻先を、桜の香りがする弾幕がかすめていきます。
 これにはいつも自信満々のチルノも驚きを隠せませんでした。まさか凍らせた弾幕を溶かされるなんて。
「あ……あんた、なかなかやるじゃない! あたいの氷を溶かすなんて!」
「そーですよー! 今のわたしは絶好調! こんなの初めてでわたしもおどろきですよーっ!」
 楽しそうに笑いながら、リリーはなおも猛攻を仕掛けてきました。太陽を背にしてリズミカルに、そして激しく踊るように攻撃を仕掛けてくるリリーの姿は、なるほど確かにおちもおっとりしている彼女の姿からは想像もできない、初めてのものでした。そしてなにより、こんなに濃い春気こそ初めて――。
 あれ? とチルノは必死にリズムに置いていかれないようにステップを刻みながら、頭のすみっこの方で思いました。
 なんかこれ、前にもなかった(傍点)?
 リリーとこうして弾幕ごっこをすることではありません。今のリリーのまとっている濃い春気に、チルノはなんだか覚えがある気がしたのです。けれど、なかなか思い出せません。
 そして、考え事をしている場合でもありません。まだまだやる気は尽きていないとはいえ、チルノはすでに1回被弾してしまっています。ここで負けてしまうようなら、とても大妖精とのリベンジマッチは挑めません。
 チルノは考えるのをやめて、リリーとの弾幕ダンスバトルに意識を向けます。
 とはいえ、凍らせた弾幕をも溶かしてしまうほどの春気をまとったリリーに勝つのは、自称最強の妖精にとっても簡単なことではありません。どうにか活路を見出さなければ、もう後がないのです。
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