あのひとのことを好きになったきっかけと言えば、思い出すのも難しいほど他愛もないことである。
 キングは瞼を閉じていた。ひゅうひゅうと声高に泣く風の音を、夜半に滔々と聴いている。時刻にして、午前四時半ば頃のことだ。昏く落ち込んだ灰色の空には、明朝を白む夜明けの気配が薄っすらと差し込み始めていた。からからと花びらを散らすように、雪はしずやかと降り落ちている。
 ぱちん。ふと、背中に炎の奔る慣れた音。錆びついた空気を切り裂いて、微温い温度がキングの冴えた頬を濡らした。一昨日から積み重ねられた報告書の山を、漸く片付け終えたところである。赤々と済の字を画いて、未だに乾ききらない朱印が紙面を真新しく濡らしている。鉄製の洋燈(ランプ)はとうに蝋の溶け切って、硝子の中を死んだ油が白っぽく固まって浮いていた。先ほどまで取り落としていた明るげなどは嘘のよう、存外無機質な横顔である。どうにも、長時間に及ぶ酷使にすっかり参ってしまったらしいのだ。こちらの不眠など露も知らず、しんと温度のない寝息を転がしていた。
 指先を仄かに濡らす、橙の炎。頼りのない灯りさえ死を伏せて、薄暗い執務室を細い火の粉がちかちかと、時折まひるのように照らし出す。隙間のひとつなく、黒々と鈍くひかる窓枠の色。霜を張る窓ガラスは薄っすらと汗を掻いていて、その度ぬるい水気を端々に滲ませた。四隅を揃えて積み上げたましろは橙の炎に照らされて、黄色い光をにわかに反射する。──瞳を開いた。押し上げた視界の片隅を銀色の睫毛が微かに滲ませて、けれどやはり、一面を塗り潰す雪景色は昨夜と僅かにも変わらないらしいのだ。
 この国にあのひとと足を踏み入れてから、早いもので二十年。黒煙を吐き澄んだ空を濁らせる武器工場も、数年前を境に目につく反逆を諦めた侍たちも。悪政から必死に目を背け目先の明日に息を殺して呼吸する、ひとつ海境の民の姿ももうずっと、あれから変わることはない。予言も伝説も端からすべて、人が泥濘を生き延びるための耳触りの良いお伽噺にしか過ぎないのだ。待ち望んだところで現れない神のことを、キングはとうに知っている。普遍を、変わらない支配を、衝動的に行方を晦ませて、どうにか死に損なって帰ってきてくれるあのひとのことを。いつだって、ずっとそれだけを願っていた。
 鬼ヶ島は永遠の冬島だ。一年中、その大抵を灰色の雪景色がすっかり島中覆い隠している。降りそめく氷雪の隙間を縫い取るようにして、真冬まなかを冷え込む風はひゅうひゅうと、時折高くそらを切りつけていた。もうじき朝の昇る頃だというのに、降り落ちた夜はあれっきり白む気配のとんと見えないのだ。銀糸の睫毛がもういっとき、視界の半ばを緩慢に瞬いて、やがて映した無機質の秒針はいやに赤茶けている。洋燈も、この錆びた時計も、もうじきに寿命を迎えるのだろう。まだ獣がふたりきりだったときのこと。強奪した船で偶然見つけて、それから何となくここまで添い遂げてきた物たちだ。
 ふつふつと潮風に錆びついた外装、たまに居眠りする中枢機関。時折、一人の夜を迎えると考え込むことがあった。これが止まってしまった瞬間が、ふたりぼっちだった二人を知るものが誰もいなくなるときなのである。それが寂しいことなのか、それとも待ち望むべき朝(あした)への一歩になるのかは、はたしてわからない。けれど、カイドウさんとあ!!!!!!!充電ない!!!!!!!!おしまいです カス 中途半端おじさん…………
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原稿ちょっとだけ
初公開日: 2024年09月11日
最終更新日: 2024年09月11日
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コメント
機能の確認がてらお試し原稿進捗おじさんです。こんな深夜に書くな
もんけま♀ちょっとだけ書く
もんけま♀書きたすぎる欲望と久々にテキライやりてェ〜〜〜〜の欲望が拮抗したのでやりました おれは弱い…
あらわ
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