「朝晴殿、すまない。頼みがあるんだが…」
由比が朝晴に珍しく頼み事をした放課後の翌日。朝晴は朝礼前に明のいるクラスへと向かっていた。
「明君」
教室の入り口から朝晴が顔を覗かせると一瞬時が止まったかのように静まり返る。声が上がったのは、そんな時が止まってからすぐだった。
「えっ、朝晴ちゃん!?」
いつもと変わらない明るい声を出して手を振る明が近寄ってくると、朝晴は明を廊下へ呼んだ。
「すみません。私が来るだけでこれだけ騒がしくなってしまうとは思わず…」
明が抜けた教室は朝晴の姿が見えなくなってから一段と騒がしく聞こえる。明は自分が出てきた教室を一暼すると、朝晴に視線を戻した。
「別に気にしなくていいの!で、何かあったの?今日の部活の話ならグループラインでいいのに」
「実は、由比君から明君へのお呼び出しがありまして。」
薄く変わらぬ微笑みを浮かべる朝晴の言葉にうげ、と分かりやすく顔を歪めて嫌がる素振りをする。彼に明が呼ばれることと言えば大体は風紀違反に関しての注意しかない。
しかし、そんな微笑みを浮かべる朝晴は懲りない明と生真面目な由比を普段からコミニュケーションの一種辺りだろう、と生温い目で見ていた。
「それって今日中に来い!ってことでしょ?しかも尊敬信頼崇拝する朝晴ちゃんを使うって何事なのよ〜〜…」
「おや、明君も気が付きましたか?珍しく私を由比君が使ったんですよ」
並々ならぬ言葉を並べて明が事の重大さを表す。
朝晴は物珍しさと余りにも腰が低い由比を慮ってこの話を軽く受けたが、由比の真似をしながら話す明に言われ、口に出してみれば更に珍しさが滲む。
その珍しさは明にとってはマイナスでしか無いが。
「取り敢えず、昼放課に教室行くから待っててって言っておいてくれませんか!」
ぴしっ、と音が聞こえるかのように敬礼して伝言する。それに答える朝晴は変わらぬ笑顔だった。
「勿論。明君にも使われるのは光栄ですね」
「…え?」
数秒遅れで状況を飲み込んだ後、朝晴の顔を見て明は顔がどんどん青ざめていった。朝晴としては普段頼らないFYA’M’の末っ子が頼ってくれたことに純粋に嬉しく思っていただけだったが、明の心臓には良くない顔をしていたのだろう。
「…あっ待ってそんなつもりじゃなかったのよ今の!?待って待って、頼むから命だけは…!!」
「おや、私が明君の命を奪うことなどありませんよ。では、また放課後に。」
ちょうど廊下に始業のチャイムが鳴る。後ろで明の情けない縋るような声が聞こえた気がするが、気にすることなく前に進んだ。
明が戻った教室では、「宗円寺おっかねぇ〜〜」などと聞き耳を立てていた男子生徒が怖がっていたのも知らず。