そうした憤懣だけが渦巻く重苦しい空気で満たされた会議室に突然現れた上級天使の姿に、一同は声を失った。
「私の招集も無しに緊急会議とはずいぶん熱心だな、諸君」
 皮肉をたっぷりと含ませたよく通る声が、そこにいたすべての古参メンバーを硬直させた。
 教団の最高位を示す白衣と、同じく純白の大きな翼が目を灼く。
 その後ろから続くのは、教団内で上級天使に次ぐ位階を持つ、そして古参の天使からは上級天使と同様に危険視されている、天導天使だ。
「じ……上級天使……!」
 古参の天使の誰かが、突然現れた上級天使の存在感にこの場が支配されるのを阻もうと声を上げる。しかし、その声は滑稽なほど上ずっていた。
 結局、上がった声はそれだけだった。
 上級天使はそれを一瞥し、白い翼がはためく様を見せ付けるかのように部屋の中央へと歩を進め、その場にいる天使たちへ向き直る。
「ふむ……古参の天使たちは全員集っているようだな。丁度いい。報告することがある」
 上級天使の声に、今まさに席を立とうとしていた者さえ夢遊病患者めいたおぼつかない動作で椅子に腰を下ろした。
 全員が沈黙して席に戻ったのを確認すると、上級天使はおもむろに口を開く。
「まず諸君らには説明しておかなければならないな。私が諸君らに自らの行動、そしてその目的を明かすことがなかったのは、私の目的とその手段が諸君らにとっていささか理解に苦しむ事柄であろうと判断したためだ」
 上級天使の言葉に、ざわめきが起こる。ざわめきが収まるのを待って、上級天使は言葉を続けた。
「諸君らも知っての通り、我らが神、創造維持神は、世界の歪みを一手に引き受けそれを修正している。その名の通り世界を創造し維持しているわけだ」
 ここまではマルクト教団員なら、実際に見たことは無くとも最下級の者でさえも知識としては知っていることだ。
 上級天使はさらに続ける。
「が……そこにいる天導天使の協力のお陰で非常に 興味深い事実が発覚した。創造維持神の歪曲修正率が徐々に低減している。さかしまに言えば、歪曲修正率が低減している分、世界の歪みが増加しているということだ」
 会議室内に困惑の色の濃いざわめきが起こる。
 上級天使の口元が、くっ、と嘲笑の形に歪む。
「これがどういうことか分かるだろうか、諸君。我々が今まで崇め、守ってきた神が、その力、その機能、その役割、つまり……その存在意義を失いつつあるということだ」
 ここで上級天使は意図的に一呼吸置いた。周囲の天使たちの反応を窺う。
「ならば……どうするというのだ、上級天使……!」
 最初に口を開いたのは3号だった。
 務めて冷静に振舞おうとはしているが、困惑からか不審からか、語尾が震えているのを隠しきれていない。
 それに上級天使は、嘲笑を伴った沈黙で答えた。
 上級天使の次の言葉は、そこに集まった者を今度こそ絶句させた。
「創造維持神から世界の歪みを正し、創造維持する力がうしなわれ」
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