夏コミ原稿の締切が迫ってくる中、見たい映画が情け容赦なく公開されていくので体と時間が全然足りません。誰か助けて。主に夏コミ原稿の方を。
というわけで今日見てきたのはこの作品!
本作は「音を立てたら即死」というショッキングなキャッチコピーで話題となった「クワイエット・プレイス」の3作目。
タイトルの通り、本作は一連のシリーズの発端となった「最初の日」であるDAY 1の出来事を描いた作品となっています。
実は本作、鑑賞前はそんなに期待してなかったんですよね。なぜなら、本シリーズの中核となる「音を立てたら即死」してしまう理由も、何が原因でそうなったかも、どうすれば事態を解決できるかも前2シリーズですでに明らかになってしまってるから。要はウリの部分がすべてバレてしまってるんですよね。
なので、今さら最初の日をやったところで視聴者に提示できる新しい情報ってないんじゃないか?と思ってたんですよ。
結論としては、確かにシリーズにおける新しい事実や意外性のある展開はありませんでした。起きるべきことが起こっただけ。
しかし本作、予想以上に良かった。というか、予想してなかった方向性でDAY 1を描いていました。これ下手するとシリーズ3作の中でいちばん良かったかも。
主人公であるサミラは、ホスピスに入院しているがん患者で、猫のフロドが唯一の家族。そんな彼女は、有名店のピザを食べるためにニューヨークはマンハッタンを訪れます。しかしそこに、一連の事件の発端となる無數の謎の隕石が落下。そこから現れた怪物の襲撃を受けたマンハッタンはたちまり壊滅状態に。
混乱の中でなんとか生き延びたサミラは、偶然知り合った青年エリックとともに、わずかな音に反応して襲ってくる怪物がはびこるマンハッタンからの脱出を試みます。
いや実際穴や気になるところはあるんですよね。例えば、前2作にも言えることですが「音を立てたら即死」のルールはけっこうあやふや。怪物はわずかな足音や物音に反応するのに、噴水や川の音といった自然音には反応しないし戦闘機の爆音や避難を促すアナウンスも無視してるので、どんな音ならアウトなのか、どのくらいの音ならアウトなのかというルールが3作目でもはっきりしないのはちょっとマイナス。
また、本作のメインエピソードはそもそも「クワイエット・プレイス」シリーズのエピソードゼロとしての必然性があるかと言われればそれも薄い。上記の通りエピソードゼロにふさわしい新情報は全然出てこなかったしな。途中ちょっとだけあった怪物が繭だか何かを食べてるシーンはその名残だったのかも。
しかし本作のメインストーリー自体はかなりよかったです。エピソードゼロなので事態は一切解決しませんし、怪物を撃退することもできません。しかし本作は、突如襲い来た世界の終わりと「声を出せない」というシチュエーションの中で、主人公であるサミラがどのようにして生き抜くかを描いた作品となっているんです。
「突然訪れた世界の終わりや大災害の中で主人公が自分の人生と向き合う」というにはひとつのテンプレートですが、本作の主人公であるサミラは、作中であまり言及はされないもののホスピスに入院しており経皮吸収型の疼痛治療剤を常用していることから、いつ死んでもおかしくないくらい容態だったんじゃないでしょうか。冒頭のサミラのどこか無気力というか厭世的な態度もそのせいのような気がします。しかし彼女もまた、決定的な「終わり」を現実的なものとしては感じきれていなかったのではないでしょうか。
そこに突然のカタストロフが訪れ、彼女は否応なしに「終わり」を意識せざるを得なくなります。また、社会が壊滅したため治療を受けることもできなくなります。そこで彼女が選んだのは、当初の目的であるマンハッタンの有名ピザ店に行くこと。せめてそこにはたどり着きたい一心で、彼女は怪物の跋扈する街の中を進んでいきます。
主人公たる彼女の目的が「世界を救う」でも「事態を解決する」でもなく「ピザ屋に行く」という卑近とも言えるものなのがとてもいい。
本作では「音を立てると襲ってくる怪物」をあくまでもシチュエーションにすることでサミラの生き様をより印象的に浮き彫りにすることに成功しているんですよね。だからこそエピソードゼロ的な新規情報を提示していないにも関わらず味わい深いストーリーに仕上がっているんじゃないでしょうか。
そしてそのサミラの生き様が、彼女の表情や行動、そしてBGMによって雄弁に語られているのも良かった。前述の通り本作は「音を立てたら即死」という制限があるので、必然的に直接的なセリフも非常に少なくなっています。しかし本作はそれを逆手にとって、セリフに頼らずに人物の心情をうまく表現してるんですよね。メインキャラをサミラとエリックのふたりだけに絞っているのもプラスに働いていたと思います。
また、前2作のメインの登場人物たちは家族であったのに対し、本作のメインキャラであるふたりは赤の他人。だからこそ、当初はひとりで行動しようとしていたサミラの利他行動が際立つんですよね。ラストで自分のジャケットをエリックに託して別れるところ、一切セリフがないにも関わらず二人の間でどのような心の交流があったかがわかる。
一方のエリックもまた、最初はなんとなく心細くてサミラについてきただけだったのが、次第に彼女の心情と目的を理解していったのがわかります。そしてあのピザ屋のシーンよ……。エリックに関しては「法律を勉強している」以外のバックボーンは明かされませんが、ここでなんとなくエリックが本来どういう人物かが察せられるんですよね。きっと法律を勉強してるっていうのは見栄で……というような。
本作はパニックホラーではあるんですが、ある種の「奥ゆかしさ」を感じられる作品でした。「クワイエット・プレイス」シリーズとしての「音を立てたら即死」という慎重感は確保しつつ、「言葉によらずに魅せる」という寡黙な良作だったと言えるでしょう。