セックスが盛り上がる映画というのはあるかもしれない。作成した監督にそのつもりが無くとも、自然と隣にいる人間に手が伸びる事はある。それがつまらないか駄作だからという事は無い。心を震わす名場面に出会ったその手が、たまたま隣接したぬくもりを求めるのだ。クリムゾンの手も自然とそうしてギガに伸びた。今日は寒いからこたつを出していて、一人掛けのソファーは使わない部屋に押し込めてある。だから手も伸びるし、足も布団の中で絡まる。目の前にあるテレビはラブシーンではないが、ああこの場面を見たから満足した、これを描きたかったのだろうと思う名場面に出会った。だからまあ、性欲を発散しても問題ないだろうという判断である。あと90分は、この場面を超える美しい物は出会えないだろうから。だが万が一にも出会ってしまうといけないから、手が服を脱がしている間も肌を見ずに画面を見つめてはいる。こういう時、第三の目があると便利ではある。二つの目はギガを見やっている中で、額の目だけは窪みからぼこっと浮かびあがり、ちょうどいい目線の高さで浮遊したまま停止した。そのそぞろな動きに、引き倒されてテレビが視界の端にしか捉えられないギガは不満げだ。どちらかにすればいいが、どちらも捨てられないのがクリムゾンの欲張りであろう。結局それ以上の場面には惹かれなかったらしく、映画の終わりにはギガの首にしゃぶりついている間にエンドロールであろう音楽が聞こえてきた。むしゃぶりついてくる顔を押しのけ、終わったのかギガは顔を起こしてテレビを見やった。やはりエンドロールだった。耳で捉えられている情報でしかストーリーが分からなかったが、もう一度見てやろうという気概は浮かばなかった。まあいいかと思える。安アパートの窓や玄関から染み出してくるのか寒気が襲ってきた。汗が滲んだ肌は冷気を吸い込みやすいのだろう。
「もう、終わり。いいだろ」
「まだいける」
そう言いながら垂れている汗を手の甲でぬぐい、もう一度引きずり込もうと手を伸ばすのを見ながらギガは小さく舌打ちしたが、見ていた映画が終わったので付き合ってもいいと思ったらしい。それ以上に手を拒まなかったが、寒いのはごめんだと思ったので不要なまでにクリムゾンにひっつくのだった。
「三本目行くぞ」
何事も無かったかのようにクリムゾンはDVDをセットする。ギガはシャワーを浴びて着替え終わり、厚着に布団を巻き付けてホットココアを飲んでいる。クリムゾンも厚着して、その肌からは湯気が立っていた。
「今度なに」
「温泉シャークだな」
「なんでこれでシなかったんだよ?」
「新作だから」
クリムゾンは真っすぐな目でこちらを見て言った。その真っすぐな瞳が澄んだ青色で、新作への期待と羨望が多大に含まれている。その期待を先程の作品に向けてやればよかったが、たまたまあの映画はセックスが捗る作品だった。だからといってそれを広めようとも思わない。そのタイミングは、見る人間の体調や環境によるからだ。あの作品は、今日はそういうタイミングだっただけだ。何の罪もない。そして視聴者の自分にも罪はない。自由だからだ。B級映画の新作への期待が充たされた顔が隣に座る。くだらないんだろうなともう一度ココアを飲んだ。どこにでもあるような粉末状のインスタントだ、マグカップの底にはきっと甘みが沈殿しているだろう。だが混ぜる気力も無くて、ただ飲み干す。そうこうしている間に映画は始まっていった。時刻はもう0時を回っている事だろう。どこかのバイクが走る音が聞こえた。