己の姿とはまったく異なるその威容に、「それ」の内部に発生したばかりの自意識にあまりにも多くの感情が発火した。恐怖、興味、警戒、攻撃衝動、逃避衝動……そのほかにもさまざまな感情が「それ」の自意識の中で次々に生まれ、大量の情報が未成熟な竜骨(スパイン)を駆け巡る。処理しきれなくなった情報がパルスに変換され、視界の端々でノイズを散らした。
『私はレーヴァテイン』
 その聲(こえ)は、「それ」の感覚機ではなく、自意識ですらなく、そのもっとも深層部分に直接届くかのように響いた。
 その場から去ることも近づくこともできない「それ」に、「レーヴァテイン」と名乗ったその存在が両腕部を伸ばす。初めての、攻撃意図や害意、破壊的手段を伴わない他者からの接触。
『落とし子よ。この宇宙に産み落とされた子よ』
 多様な情報に過剰に活性化していた竜骨(スパイン)と神経網が、ゆっくりと活動レベルを下げていくのが自覚できた。同時にノイズが走っていた視界がクリアになり、「それ」は正面からレーヴァティンと向き合う。
 敵意や害意は感じられない。そこにはそれ以外の、なにか巨大で、今の「それ」には理解しえない複雑な構造を持った意思があった。その意志が、まっすぐに向けられている。
『何者でもないあなたに、名と力を与えましょう』
 名と力。どちらも「それ」が持たないものであり、持つ可能性もなかったものだった。それをこのレーヴァティンとなる巨大な存在は、与えようとしている。そして実際、レーヴァティンは消滅を待つだけだった「それ」にエネルギーを分け与えた。
 「それ」にはそこにどんな意思や意図があるのか、理解できなかった。しかし、命を救われた。それは事実だった。
 レーヴァティンの両腕部が、自律航行もままならない「それ」を把持した。その巨体が加速し、何処かへと飛行していく。経験したことのない加速度に耐えながらも、「それ」の自意識の中核には輪郭の明瞭でない安堵が根付いていた。
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