数日前、風邪を引いた。
そこそこの熱が出て、身体がダルいなどの平均的な風邪の症状は出たが龍二くんの献身的な看病により今は治っている。
俺はそんな頻繁に体調を崩すわけじゃないがまあ人並みに病気になるわけなんだが…。
同棲を始めたばっかの頃は龍二くんも看病するのに慣れてなくて慌てふためいてたのが記憶に新しい。
血まみれのりんごウサギや2人用の土鍋ギッチギチに作られたお粥、逆に病人用にしてもだいぶ度を越えた十分粥――もはやお湯――を俺は忘れない。
それが3年も経てば病人をはらはらさせない程に成長した。
だがそんな甲斐甲斐しい看病も虚しく喉の痛みが残り、現在声が出ない。
全く出ないわけではないが、出てもダミ声。そしてそのまましゃべり続けると段々声が出なくなっていく始末。
まあ、そんなわけで終始こんなもんだから仕事になるわけもなくプラスで2・3日、療養のため休んでいる。
さらに今日は龍二くんも仕事が休みのため、家事などのすべてを彼に任せている。
と、いうか龍二くんがやると言って聞かなかった、が正しい。
風邪自体は治ってるのにね。
しかも声を出すなとのお達しだ。
過保護にもほどがあるし、ソレでどうやって意思疎通をするのだと聞くと「アンタ、意外と顔に出るんで」と言われた。
自慢じゃないが、お前はもう少し表情筋を動かせ。と友人たちに言われるほど俺は感情が顔に出ない。
にもかかわらず「顔に出る」と言い放った龍二くんに少しだけときめいたのは内緒だ。
そんなわけで、今もソファでゴロゴロしながら昼飯後の皿洗いをする龍二くんを眺めている。
たった数年でそんなできすぎ彼氏に育ってしまった龍二くんに面白くないやら、腹立つやら…。
やっぱ腐っても攻めは攻めなんだなぁと思いつつ…。付き合い始めたばっかりの頃、俺のやることなすこと全部に顔を真っ赤にしてた龍二くんが懐かしい。
そう思っているとふと最近は鳴りを潜めていた俺のイタズラ心が顔を出す。
呆れられるか、赤くなるか……、それか別の反応か…。
BL漫画の世界の普通が通じない龍二くんは果たしてどんな反応をするのか。楽しみだ。
ソファから起き上がり龍二くんのいるキッチンに移動する。
そして龍二くんの肩を指で叩く。
「? なんですか?」
皿を持ったまま手を止めて龍二くんが振り返る。
そして――
「あ"やくノド、なお"るょうに、よ"る、ちゅうしゃ、してくれない?」
普段の高さでしゃべるとダミ声になってしまうが、余所行き声で話せばそこそこ長く話せる。
とは言ってもこちらもそんなに続かないが…。
俺の言ったことの意味がまだわかってないみたいで龍二くんの整った眉が少し上がる。
ソレを見てから口の端だけ上げて微笑んで俺から近い方の龍二くんの耳に顔を近づける。
「ベッドで」
「――ッ!?」
少し下からガシャンと大きな音がした。
どうやら龍二くんが皿をシンクに落としたらしい。
龍二くんから離れてシンクを覗く。
割れて、は…ないな。
そのまま視線を横にスライドさせて龍二くんを見る。
シンクの縁に手を付いて項垂れてる。
顔が伏せられてるので表情がわからない。
顔、上げてくれないかな…。
「………ぉ、」
お?
少しすると小さく声を漏らした。
そして体勢を変えず、片目だけが俺の方に向けられる。
「……オッサン、かよ……」
とノドの奥から絞り出したようなセリフが聞こえた。
目元と耳を赤く染めたまま睨まれてもなんも怖くない。
それに――
人差し指を立てて龍二くんを指差すと龍二くんが顔を起こした。
自分の口元にも指を差してまた龍二くんへと戻す。
――俺の言ったことを寸分たがわず汲み取った君も、大概でしょう?
そう言うと龍二くんはちゃんと汲み取ったようで口をへの字に曲げた。
ふふん、と鼻で笑うとまたソファに戻った。
正直、風邪引いてから今までソッチはご無沙汰なのだ。
日数にして約1週間。
そりゃ俺だって溜まりますよ。
でも過保護な俺の彼氏は手を出してこない。ただノドが痛いだけなのに。
だったら全部お世話してもらわなきゃ。
………ねぇ?
次の日、全く声が出くなった。