今日も塚口。明日も塚口。一生塚口。
というわけで上映スケジュールについていくためには平行世界から己を256人連れてこないと間に合わない状況ですがそんなことをすると時空連続体が崩壊するので仕事のスケジュールを崩壊させたほうがなんぼかマシ。
今日見てきたのはこれ!
「あわれなる者たち」「ロブスター」のヨルゴス・ランティモス監督の作品。ランティモス監督の作品は難解というか何層にも折り重なったヴェールの向こうに核となる部分が隠れているタイプの作品なので解釈が難しいですが、そういうのが好きな人にはたまらん作品となっています。
主人公である心臓外科医スティーブンは、娘のキム、息子のボブ、妻のアナと順風満帆な暮らしをしています。そんなスティーブンは、マーティンという時々会っている少年がいました。ある日スティーブンはマーティンを家に招き入れますが、その日を境にボブやキムが突然足が麻痺して歩けなくなるという事態に襲われます。平和な過程を襲った奇妙な出来事に翻弄されるスティーブンは、やがて自分がかつて犯した罪との退治を余儀なくされ……。
本作で強烈な印象をもたらすのがその雰囲気。重々しく不気味なBGMと無機質なカメラアングルは「恐怖」や「不穏」というよりは、ひたすら「居心地の悪さ」を感じさせられるというべきでしょうか。
スティーブンの家族に異常が起きたあとはもちろんのこと、起きる前からBGMというか空気感が重く、一見平和に見えるスティーブンの家族の根底にはなんらかの泥濘があることを嫌が応にも感じさせます。言い換えれば、本作では序盤からずーっと「この先必ずなにか嫌なことが起こる」という空気が流れているとも言えるでしょうか。
その「この先必ずなにか嫌なことが起こる空気」の象徴とも言えるのが本作のキーパーソンであるマーティン。本作における一連の事件の元凶がこのマーティンなんですが、その表情や話し方がなんというかどこか神経症的というかうまく言語化できない「嫌な予感」がするんですよね。
前述の通り、スティーブンは自宅に招いて家族を紹介するほどマーティンと親しくしており、時計をプレゼントするなどかなり親密な様子。しかしマーティンの言動はどこか挑発的、攻撃的で、スティーブンから控えるように言われていたのに勤務先の病院に電話をかけてくるなどどこかおかしい行動が目立ちます。
マーティンがおかしいのはその行動だけでなく表情も。これまた言語化が難しいですが、表情が不自然に硬いというかあんまり人間的な表情を見せないんですよね。他人に対してもあまり共感している様子が感じられないし、自分と他人との間に絶対的な断絶を抱えている感じがありました。この表情はぜひとも実際に見てたしかみてみろ!
一連の事件の真相は、実はかつてスティーブンは酒を飲んだ状態でマーティンの父親の手術を行い失敗しており彼は死亡、マーティンは父を殺したスティーブンに復習するために近づいてきたというものでした。
劇中ではマーティンが具体的にどのようにしてボブやキムに異常事態を引き起こしたのかは描かれませんが、そこはこの一連の事件の重要なポイントではないでしょう。
本作はこのマーティンという「異物」をうっかり家庭という安全地帯に招き入れてしまったがために隠していた秘密が暴かれるという、一種のホーム・インベージョン作品だと感じました。もっと内面的な部分で言えば、冒頭では心臓外科医という高い社会的地位を持ち理想的な家庭を築いているかに見えたスティーブンが、妻にも隠していた罪を暴かれ、最終的に己の手でボブ、キム、アナのいずれかを殺すという形でマーティンの父を殺した償いをさせられるというシンプルな因果応報の物語でもあったと言えるでしょう。