軽く家出のつもりだった。
だから、途中でお金が足りなくなってしまった。準備不足だったと思う。何もかも。全部、すべて。
未来すらかなぐり捨てるつもりの遠出のつもり。
絵に描いた餅のように脳内計画は頓挫した。金曜日にこれを行ったのも仇となった。明日を思うと嫌になる。これじゃあ日帰り旅行と何にも変わらない。
準備不足を自覚したくないので、その辺の自販機でコーラを買った。百二十円の損失。にもかかわらず、前日から負債を抱えた準備不足は肌からぬぐえなかった。
三月〇日。季節的には春を迎えてもおかしくない。だけど昨今の異常気象だかで知らないほど暑い日になった。春を飛び越えて夏が到来したかのようだった。
田舎のホームは閑古鳥が鳴いていて、暑さの断片が表出していた。僕にはゆがんだ結晶が見えるくらいだった。そこに二両編成の電車が停車中。この駅が終点で、まもなく僕の田舎へ逆戻りする車両。
電車の窓ガラスにはいつの日かのの土砂降りの雨粒の跡が残っている。これはいつのやつなんだろう。いつの異常気象のやつなんだろう。僕の代わりに涙を流したようにこびりついている。
僕は途方に暮れたまま、キセル乗車を平気でする。ホーム側の、窓際のクロスシートに座った。
あとから追いかけるようにプシューとドアが閉まった。ひと呼吸おいて、迷宮入り確定な古めかしい音を立てて景色が動き出す。
山を何度もくぐって、途中長い暗闇に侵された。午前中に見たはずのものを遡っている。見飽きた景色の道程。それでも僕は頬杖をついてトンネル内の暗い車窓を見つめたままになった。
僕はふいとみやった。トンネルで反射する窓にて、かすかに動く影を目撃したからだ。最初に動いたのは青紫色の長い生地。ロングスカートの一部だった。視覚についで嗅覚も反応する。植物特有の青い匂いが影から漂ってきた。
こんな田舎に僕以外の人が?
声をかけてきたほうを見やると、花束を持っている。性別は彼女だった。
紫色の花を持っている。愛嬌のある口角の、片方が上がり、花束のほうもなぜか僕に向けられていた。
「ここ、座っても大丈夫ですか?」
★
彼女は僕のいる車両には似合わないほど軽装だった。
荷物も軽装で、紫色の花束と、大きな日本酒のビン一本。仕事にミスをしてしまってサラリーマンが大酒を食らっていそうなほど大きなビンだった。ラベルは見たことがある。市販品の安酒だ。それ以外にない。旅行バッグの一つも引っ提げていない。
僕たちは対面で座ることになってしばらくが経過した。どちらも二人かけの席の片方を荷物置きとして利用していた。長い長いトンネル。明暗のコントラスト比が調整されている、モノクロの世界。その車窓。時折トンネル内に灯る蛍光灯が、矢のように飛んでくるだけ。それもスローモーションだ。
鉄橋を渡ってもいないのに、車両は大げさにガタンガタンと揺れ、音も反響する。不況の波をもろに反映している。
「ねえ」
と見知らぬ彼女は僕に投げかけた。
「もしかして家出?」
「えっ」
はっきり言って僕はうろたえた。
彼女はにこっと笑みを浮かべながら、「勘。やっぱり当たった」
僕は舌打ちをした。
ようやく電車はトンネルから出た。日差しのまぶしさしか取り柄のない陽光……僕は目を細めた。
「あなた中学生でしょ。家出なんて、何が理由?」
彼女がそう気安く話しかけるものだから、訂正した。
「まだ小学生だよ」
「もういくつ寝ると……っていう意味?」
「今日は卒業式。でも行かなかった」
「知ってる。あなたの姿を見ればね」
僕は制服姿だった。午前中に卒業して、今頃最後の下校に際して実感を噛みしめているのだろう。
「サボった」
「家出という名の、日帰り旅行でも行ってきたのかしら」
「それの……何が悪い?」
「ふふ、生意気なクソガキですこと」
初対面で彼女はそういった。「もらっておけばいいのに、証書」
「あんな紙切れ、もらってきたってただのごみ。意味なんてない」
「そうねえ」
「あんたは?」
「墓参りよ」
「こんな時期に?」
彼女は花束を触った。かさりと薄いプラスチックの音がした。
「そう、こんな時期に」
★
僕が下りた田舎駅に、彼女も下りた。空の時計を見れば、そろろ夕暮れといった頃合いだった。
バスの時刻表をみると、相変わらずのご様子で、次のバスに乗るためには次の朝六時まで待たねばならない。つまり今日の分はもう来ない。
彼女は立ち止まる僕のことなど気にしない様子で歩いていった。彼女のことが気になったが、僕は家路につくことにした。
僕の家につけば、同級生の誰かがチクったのだろう。夕暮れをかち割る雷のような力で、こっぴどく怒られた。お前卒業式をサボったらしいな。どうしてだ、みたいな。親から子へ反省を促すひどう無駄な時間。
そんなことを二時間もやってくるものだから、少し小言を言ってしまった。そうしたらさらに二時間が上乗せされてしまった。後半はもう年末の紅白歌合戦のような泥仕合だった。
もう夜中となってしまった。晩飯抜きだ。今日は反省してろーーという昭和の名残のする躾をされて、僕は家の一番奥にある自室に引っ込んだ。
ベッドに寝転がる。けれども睡眠はおろか食欲すらも全く来ず、どうやら身体のほうは外の空気を吸いたがっていることが分かった。まだ家出を従っている。まだ怒られたいと思っている。そんな反発を感じた。
僕は鬼の居ぬ間に……という風に、リビングでマイナス一人の一家団らんを楽しんでいる雰囲気を尻目に、玄関から靴を持ってきて家から抜け出した。
一転、夜の空気は三月の指標通りの冷たさになっていた。昼の夏の暑さが夢だと思えてしまうほど、極端な寒暖差。
それゆえに僕はどこに行くかもわかっていなかった。こんな田舎だから。駅まで行かなければどうにもならない。車も……運転できなければ意味がない。
だから僕は目を凝らしてしまったのだろうか。見てしまったのだろうか。紫の花が独りでに歩いている光景を。
★
僕は目を奪われかけた。
それゆえに僕は興味の池にとらわれたように、足を踏み出していた。
(少しプロットを練りに行きます 構想中……)
脳内ストーリーでは「胡蝶蘭が主役」になるようにしていきたいと思います。
胡蝶蘭の旬は、初夏:五月~六月。
→初春にしよ。季節外れの感じにしたい。
色は紫。
花言葉は「あなたを愛します」という意味を持ち、男性が女性に胡蝶蘭を贈る時に想いを伝えられるお花。
場面は三つ。電車→家→墓。
あと墓だけ書けばいい感じ。細かいところは明日頑張ればいいや的な感じです。
書きたい場面は墓の場面なので、なんとか墓の場面へと向かう導線は描けた感じがします。
・この配信は、僕が短編カフェでやってた自主企画から短編を作ろうぜという感じのものです。
利用者からユーザーネーム(ペンネームのようなもの。ユザネと訳される)を募集して、そこからインスピレーションをもとに小説を作るという僕にとっては苦行を強いられるタイプのやつです。
募集で集まったユザネについてはこちら。
https://tanpen.net/event/041c88cf-307b-4ca3-b3ab-2f4fdbc721b2/
tanpen.net
・今回書いてやろうというユザネは、「蝶蘭萩」という方にしたいと思います。
・今見たらなかったけど、当時自主企画開催時にはあったと思われます。まあ基本的に僕のインスピレーションから生み出す形になるので、特に問題ありません。
・名前的に胡蝶蘭からとってきた感じがするため、胡蝶蘭を主軸に小説を書いていきたいと思います。
・僕は設定厨ではありませんので、書きながら考えていきます。主人公の設定? 知らん。短編の予定なので、全部後付け設定でやっていきます。
・それでは苦行を強いられる感じの文章を作っていきます。最初の部分を書き出してみて、方向性をつかめたらいいよね的な。
・見てくださる方は、とりあえずハート送ってください。