【夢中になれること】
 楽しい時間はすぐに終わってしまう。本番までたくさんの準備期間があって、たくさんの人が関わって、俺たちを支えてくれる。ファンのために俺たちと一緒に作ってくれる。そんな特別な時間、特別な空間はアンコール曲が終わるとともに終わりを告げた。
「っ、はっ、?」
「大和さん?」
ステージを降りるとそれまでとは違う息苦しさを覚える。吸っても、吸っても、水の中にいるみたいに息ができなくて…あれ?息って…
「っ、は、はひゅ、はっ、…っ、ひゅ、」
「大和さん!」
ミツ?なんか言ってる…けど、上手く聞き取れない。あ、もしかしてこれ過呼吸か?なんだっけ、前に教えて貰ったの。あぁそうだ、吸うんじゃなくて吐くんだ。
「っ、、ふっ、はっ…ふ、ぅ」
「そう、大和さん上手、ゆっくりな。」
少しずつ聞こえてきた声はミツだけじゃなくて他のメンバーもいるんだろう。ライブ終わりに水を差すようなことしちゃって悪かったな。なんて思ってももう遅い。
「みつ、も…大丈夫。」
どのくらい時間が経ったのか分からないけど、震える腕でミツを押す。
「大丈夫ったってな…、あんた酸素まわり切ってないだろ?もう少ししたら環かナギが戻ってくるはずだから動くなって。」
「ぃや、ほんと…、だいじょうぶ、っだから」
「大和さん。」
ミツが譲らないのは分かってたけどこのまま運ばれるのは勘弁してほしくてそのままの体勢で押し問答を繰り返すうちにナギが戻ってきて決着が付いた。
「ナギ、大和さん楽屋まで運んでくれ。」
「OK~…、Oh…大和、少し軽くなりましたね?」
「ライブの後だからじゃないか?」
「…もしかして大和さん、だから抱えられたくなかったんだろ。帰ったら食育し直しか?」
「遠慮します」
___
「で、今日体調悪かったのか?」
あの後、打ち上げが別日になったため帰りに食事を済ませ寮に戻ってきた。各々が早々に部屋に戻り俺も自室に戻ろうとしたところでミツに捕まり今に至る。
「いや、全然。ほんとに、隠してたとかじゃなくて…」
どれだけ弁明しようが前科が多すぎてきっと信じて貰えないだろうと思うと言葉がしりすぼみになっていく。
「…はぁ、ほんとに何でもないんだな?」
「うん…あれは急に、ごめん」
「大和さん、顔上げて?別に謝って欲しいわけじゃないよ。心配した。また無理してたんじゃないか、また隠してたんじゃないかって、俺たちじゃまだ頼りないのかなって。」
「っ、違う!ちがう、ミツたちが頼りないとかじゃない。」
「そっか」
ミツは安心したみたいな、嬉しそうな目だった。
「まぁ、食事の件に関しては明日、万理さんも同席の上で話し合いだからな。」
「え、聞いてない。」
「今言ったもん。」
「ぅう…」
「…にしても、なんで急に過呼吸になったんだろうな。あんた何かに過集中したときくらいだろ?」
「うん、まぁ…、」
「?」
これはバレたら笑われるか各所にバラされる気がするから何としても隠し通したい。
あの楽しい時間に夢中だったから、余韻に浸ってたから呼吸の仕方を忘れたなんて、
「まぁ、いいじゃん?今日はありがとな、おやすみ」
「え、あ、おやすみ」
 数日後、ミツがこのことをユキさんに話して真実にたどり着くことをこの時の俺はまだ知らなかった。
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初公開日: 2024年03月09日
最終更新日: 2024年03月09日
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