街の雑踏は、いつも通りだ。いつもの風景。いつもの街並み。
 もうそこには、あの黒い少女たちの姿はない。そして、これからも現れることもないだろう。
 アイドルグループ「Prophet」解散の報から数ヶ月、すでにネットニュース上ではその名前は新しい、そしてなんでもないニュースに押し流され、最初からなかったかのように消えていった。
 食材の入った買い物袋を抱えて街を歩いていると、否応なしに「日常」というものの分厚さを感じさせられる。
 フィクションの世界では簡単に崩れ去る「日常」というやつは、現実ではあれだけの事件をも覆い隠し、始めからなかったかのような街並みを再構成している。まあ、その「日常」とやらも、裏方でせっせと隠蔽工作に励んでいる連中のお陰で成り立っている側面もあるだろうが。
 客観的に見れば、今回の一連の事件は私が作ったバロックによって集結したという形になるだろう。私は文字通り、世界じゅうにあのバロックが延焼していくの食い止めたことで世界を救ったのだ。
 では、私は世界中から称賛を受けているかと言えばそうではない。食うには困っていないものの、相変わらずバロック屋をやっている。そもそもあの事件は政府、そしてその裏で糸を引いていたであろう謎の教団によって隠蔽され、裏ネットにすらその情報は流れていない。おそらく私の使用しているIDも表裏ともにチェックされ、私が知らないところで知らない誰かが四六時中私の行動を監視していることだろう。
 ……結局、世界は何も変わってはいない。世界には相変わらずバロックが蔓延し、歪んだ妄想に取りつかれて宙に浮いた淡い虹彩の若者たちがバロック屋の元に訪れる。天からは未だ救済のはしごは降りてこず、すべてを消し去る世界の終末も訪れてはいない。
 そして――。
「あ、おかえりキツネ。お邪魔してるよ」
 こいつもやはり、相変わらずだ。
カット
Latest / 30:44
カットモードOFF