コサメちゃんの『よりみち』聴いてます
「デーシューゾ!」
「トリック、アンド、トリート!」
カボチャのコスプレ……分かるだろうか、こう、フワッとした布製のカボチャから頭と手足だけ生やした手のひらサイズの小さなウサギ、と、頭から白い布を被って、長い耳と目鼻だけ覗かせたウサギ風な何か、こっちは元康なんだが、とにかく説明は省かせてもらう。
チマッとしたのが二匹、チタチタッと駆け寄ってきた。
今日はハロウィンだからな。
この展開はある程度予想がついていた。
にしてもだ、元康、お前は仮装しなくていいだろ。その姿が既に仮装みたいなものなんだし。
「は?」
「オカシ!」
ちっちゃいカボチャがピョンと跳ねる。
「ください!」
耳の長いオバケが俺へ向かってにゅっと両手を伸ばした。
「そしてイタズラもしますぞ!」
「随分な欲張りセットできたな」
「ですぞ、なんと言ってもハロウィンですからな!」
「デシュゾッ」
「なるほど、だったらこっちもトリック&トリートだ」
途端に耳長オバケは両手を引っ込め「むむむっ」と唸る。
隣で小さなカボチャも真似しようとするが、仮装のせいで上手く腕を組めないらしい。
何度か試して、結局諦めたように両手を下ろしてピョンと跳ねた。
「デシュッ」
うん、可愛い。
二人とも百点満点の愛くるしさだ。
「どうした、お菓子がないのか?」
「むっ」
「無いならイタズラ倍アップだぞ」
「尚文はお菓子あるんですかな?」
あるに決まってる。
「あるよ、ほら」
「あッ手作り!」
「デシュゾッ!」
驚いたようだな。
今日は特に何も―――お前たちがくり抜きまくったカボチャランタンの中身を消費する以外は―――台所に立っていなかったからな。
だが、こうなることを予想して、事前に作っておいたんだ。
カボチャくり抜き大惨事の傍らで、カボチャ……を使った菓子だと泣き出しそうだったから、サツマイモとクリのクッキー、チョコチップも入れてみた。
「う、うまそうですぞ」
「デシュゾォ」
「そうだろうとも、実際美味かったぞ、味見もちゃんとしたからな」
「ずるい! ですぞ!」
「デシュゾッ」
「何でだよ」
そんなことよりお前たちのトリートだ、どうなんだ、出せないのか。
「さて、お前たちはどうなんだ?」
耳長オバケはまた腕組みして「むむむッ」と唸る。
カボチャもまた真似しようとして、出来なかったことを思い出したのか、ピョンピョンと何度か飛び跳ねた。そのたびにカボチャがもにょもにょと歪む。
「あ、ありますぞ」
「へえ」
「チビ!」
呼ばれたカボチャが「アイ!」と元気よく返事してどこかへ走っていく。
見送って暫く待っていたら、また元気に駆け戻ってきて、俺達のところへ辿り着く直前でステンと転んだ。
「あッ!」
「大丈夫か、チビ!」
咄嗟に元康と慌てるが、チビはむくりと起き上がり、またテテテッと駆けて俺に「ドウジョ!」と抱えていた小さな包みと細長い箱を渡してくる。
「何だこれ」
「あぁッ!」
また元康、いや、耳長オバケがデカい声を上げる。
一つは、あれ、これって確か、チビがちょっとずつ大事に食べている金平糖じゃ。
「チビ、お前これ」
「ドウジョ」
ニコニコと笑うチビに、何とも言えない気持ちが湧きおこる。
「大事な物だろ?」
「ドージョ」
「いいのか?」
「アイ!」
「そうか」
でもなあ、流石にこれは、受け取っても食べられそうにない。
とにかく「有難う」とチビの頭を撫でると、嬉しそうにキャッキャとはしゃぐ。
こういう所が可愛い。
金平糖は半分こにするか。
そして、もう一つの箱だが。
「元康」
「な、なんですかな?」
こいつ、さっきから妙に慌てているが、なんだ?
「こっちはもしかしてお前のか?」
「ななっ、なんのことですかな?」
「見たところチョコレートみたいだが」
「そっ、そうですな、ですが俺はいい大人なので、隠れてこっそりチョコなど食べませんぞ!」
まあ確かにそうだな。
美味いチョコを買ってきた時なんか、俺とチビに嬉々として分けてくれるもんな。
感想を聞きたがって、伝えると食ってもないのにはしゃいで喜ぶ。
俺達が嬉しいのが嬉しいって様子に毎度ほっこりさせられているのは秘密だ。伝えたら多分調子に乗って鬱陶しいだろう。まあ、逆に調子に乗らせて美味いものを色々買わせるって手もあるが、小遣いせいで毎月やりくりしているこいつに集るのは流石に気が引ける。
しかし、恐らくこれは元康秘蔵のチョコレート。
小さいカボチャがキョトンとして首を傾げる横で、耳長オバケが固まったまま俺を凝視している。
多分、今はすっかり小さくなっているあの頭でこれをどう言い訳して取り戻そうかと必死に考えているんだろうが、残念ながらその姿になったお前は若干小動物じみて思考も姿に寄りがちだ。
取り敢えず箱を観察してみようと、洒落た外観に書かれている英文や、成分表などあちこち眺めて―――待て、気になる一文がある。
『こちら、あくまでジョークグッズですので、効果の程には個人差があります』だと?
待て待て、英文の箇所、単語くらいしか読み取れないが、いやらしいことが書かれてないか?
ちょっと待て、日本語の文章もある。
「性欲増進大人のチョコレート、是非夜のお供に?」
「ぴッ!」
耳長オバケがビクッとなってちょっと跳ねる。
それを見ていた小さなカボチャもピョンと跳ねて「デシュゾッ」と両手を大きく広げた。
「元康」
「ひ、ひえ」
「なんだこれ」
「チョコだと、思いますぞ」
「この文章なんだ」
「お、俺は、今の俺はウサギですので、難しいことはよく分かんないんですぞ!」
「デシュゾッ」
「チビも分かんないですな?」
「アイ!」
まあチビは分からないだろう。
取り敢えず長い耳をむんずと掴んで持ち上げると、オバケは手足をばたつかせながら「ひえ~おたすけぇ~!」と騒ぐ。
その様子を見上げていた小さなカボチャが、慌てた様子で俺の周りをグルグル駆け回りながら「オカシャン! オカシャン!」と必死に訴えてくる。
「元康」
「ま、まだ一度しか食べさせたことないですぞ!」
「おい待て、まさか俺に喰わせたことがあるのか!」
「ななないですぞッ、尚文が気をやっている隙に口に入れたりなんてことしてませんぞ!」
「したんだな!」
「してないですぞッ、おたすけぇ~ッ!」
「オカシャン! オカシャァン!」
くそ、元康め。
こんな訳の分からない怪しげなものを俺に断りもなく食わせやがって、お前は倍トリックの刑だ!
「オカシャァンッ」
だが今は半べそになっているチビの手前、仕方なく耳長オバケを開放してやる。
そして俺もため息交じりにソファに腰を下ろした。
何なんだ、無駄に疲れた。
「オトシャン、デシュゾ?」
「だ、大丈夫ですぞ、ちょっとお耳が痛かったくらいですぞ」
「オトシャン」
「仕方ないんですぞ、今回はパパのやらかしですぞ、男らしく謝りますぞ」
ぐったりする俺の膝に、耳長オバケがピョンと飛び乗ってきた。
後から小さなカボチャもピョンと乗ってくる。
「尚文、ごめんですぞ、悪気はなかったんですぞ」
「ああそう」
「安全性は俺が先に食べて確認しておきましたし、それに」
「何だよ」
「その、エッチな尚文が見たかったんですぞ♡」
取り敢えず鼻先を指でパチンと弾く。
「あいたぁッ!」
「オトシャン!」
「今回はこれで勘弁してやる、二度とするな」
「はい、申し訳ありません」
やれやれ、取り合えず元康のいかがわしいチョコレートは没収だ。
改めてテーブルに置きっぱなしの、俺が焼いたクッキーを手に取る。
「ほら」
それぞれ手渡すと、二匹の小さい奴らは受け取った包みを持って「やりましたぞ!」「デシュゾッ」と喜んで俺の膝の上でピョンピョン跳ねる。
「チビ」
「デシュゾ?」
「さっきの金平糖は皆で食べよう、あんな美味しいの、俺一人で食べたんじゃもったいない」
「デシュゾォ!」
「チビのとっておきですな、俺もご相伴に預かりますぞ」
「デシュッ、デーシュゾー!」
嬉しそうなチビを元康と二人で撫でる。
―――さて。
「じゃ、トリックもするぞ」
「おっ!」
「デシュッ」
「それっ、コチョコチョだ~ッ」
カボチャの脇に指を入れてコチョコチョすると、くすぐったそうに体を捩ってキャッキャとはしゃぐ。
それを見て「俺もですぞ、俺も!」と騒ぐオバケは捕まえてそこらじゅう揉みまくってやった。フワフワのモフモフだ。
「あふんっ、尚文大胆過ぎますぞ、あッ、そこは、だめぇッ」
「デシュッ?」
「おい、妙な声を出すな、子供の前だぞ」
「はぁはぁ、たまらんですぞ、もっと揉んで欲しいですぞ、特にこの辺りを」
「お前のトリートはさっきの続きにしようか、耳を縛って吊るすってのはどうだ」
「ひっ! そ、それは、嫌ですぞ」
本当にすぐ調子に乗るな、こいつは。
「では俺とチビからもトリックですぞ、尚文、覚悟ぉッ!」
「デシュゾ―ッ!」
言うが早いか、オバケとカボチャは俺に飛び掛かってくる。
そして―――
「あははッ!」
「ぺろぺろッ、ぺろぺろぺろ~ッ」
「デシュゾッ」
「どうですかな! ぺロペロとモフモフのイタズラですぞッ」
「く、くすぐったい! やめろ、アハハッ」
「デシュッ、デシュゾッ」
「チビこらっ、の、喉ッ、ふふッ、ははッ!」
「俺はこっちですぞ!」
「わぁッ、どさくさに紛れて服に入るな、どこ舐めてるんだ、おい!」
「ペロペロ~ッ」
「やっぱり耳を縛ってやろうか、この野郎ッ」
「ひえッ、おたすけぇ~ッ!」
俺の服から飛び出して走って逃げる耳長オバケを追いかける。
後から小さなカボチャも「デシュゾ―ッ」と着いてきた。
結局今年もこんな感じか、毎年何だかんだで賑やかになるよな。
「捕まえた!」
「チビーッ」
「オトーシャン!」
廊下で腹ばいになって元康を捕まえた俺に、チビが飛び乗ってきてまたペロペロされる。
くすぐったくて笑ったら、元康も笑いだした。
チビも笑う。
「はぁ、なあ、喉乾いただろ、実はレモネードがあるんだが」
「なんと!」
「デシュ!」
「飲むか」
「飲みますぞーッ」
「アーイ!」
起き上がってふう、と息を吐いた。
クッキーもまだたくさんある、お茶にしよう。
そういえば俺だけ仮装していないのも何だから、去年使ったオオカミの耳でも被っておくか。
ハッピーハロウィン。
俺の作ったクッキーと、チビのとっておきの金平糖、そしてレモネードで乾杯しよう。
―――元康のチョコレートも、チビが寝た後でなら、ちょっとだけなら食べてやらないこともない。
おしまい!
お疲れさまでした!
あと一分か……同率一位ということで、まあ纏まったんじゃないかと。
後ほど軽く手直ししてTLにあげます
お付き合い有難うございました!