「踊りながら全部かわされてしまうとは……くそう、かなり不覚を取った」
悔しそうに体を起こす魔理沙に、ルーミアは得意げに話しかけます。
「ねえ魔理沙、ちょうどよかった、なにかごはん作ってよ!」
「ごはん……?」
「弾幕ごっこで負けた方は、勝った方の言うこと聞くんだよ?」
「……仕方ないな、たしかに、負けは負けだ。……といっても今はご飯とキノコくらいしかないんだが」
「キノコ料理! やったあ!」
嬉しそうにはしゃいでいるルーミアに苦笑しながら、魔理沙は小さくつぶやきます。
「さて……あとで反省会だな……」
取り出したおにぎりとキノコを受け取っておいしそうに頬張っているルーミアを眺めながら、魔理沙は考えていました。
(それにしても……このルーミアの感じはこの間の異変を思い出すな)
ルーミアはというと、いつものようにのんきな顔でおにぎりとキノコに夢中な様子。その姿は、魔理沙のよく知るいつものルーミアでした。
……だからこそ、戦いの中で覚えた違和感がますます大きくなっていくのを、魔理沙は感じました。
明らかに何かがおかしい、なにかが起こっているのに、その正体がつかめない。魔理沙はこういうときがいちばん危険だと経験を通して知っています。なぜなら、こういうときの異変の正体がわかったときには、すでに手遅れ――そうなっていることが少なくないからです。誰の目にも明らかな大火事よりも、人目につかない場所で起こった小火の方が危険なのです。
「んー? どしたの魔理沙?」
じーっと見ていると、ルーミアは不思議そうに小首をかしげました。その様子には何の危険の感じられません。だからこそ――。
「……なんでもないぜ」
そう言って魔理沙は、ルーミアの頭を撫でてやりました。
魔理沙の「反省会」は、その日の深夜にまで及びました。
やたらとテンションの高い妖精たち。
いきなり強くなったルーミア。
違和感の残る弾幕ごっこの感触。
ついこの間終わったはずの異変との類似。
「うーーーーーん、わからん!」
怪しい点や調べなくてはいけないことが考えれば考えるほど湧いてきて、魔理沙は床と言わず机と言わず広げっぱなしの本や資料の上に体を投げ出しました。
怪しいことは山ほどあるものの、なにをとっかかりにすればいいかわかりません。魔理沙は手当たり次第に自宅の資料をひっくり返して見たのですが……結果はこの有様です。結局、ただでさえごちゃごちゃになっていた家の中をさらにごちゃごちゃにしただけでした。
「なんか……なんかあるはずなんだけどなー……」
天井で揺れているランプの灯りをぼんやり見つめながら、魔理沙は今日のルーミアとの弾幕ごっこを思い出します。
明らかな違和感を覚えたのは、やはりその動き、身のこなしでした。
リズムに乗ってダンスを踊るようなあの動き。ルーミアのその動きにつられて、いつものペースを乱されてしまった……そんな気がします。
「踊り、ねえ……」
何かしら浮かれるようなことがあって踊りだしたくなるということは誰にでもあるものです。まだ原因はわかりませんが、妖精たちが何らかの理由で浮かれてはしゃいでいるのを見て、自分もついついテンションが上がって……ということは、ルーミアのような子供っぽい性格の妖怪なら別に不可解なことではありません。しかし……。
「踊りながらってだけで、あんなにいきなり弾幕ごっこが強くなったりするもんか……?」
確かに、弾幕ごっこで相手の弾幕を避けるときにはリズムが大事です。また、逆に相手が動くリズムを崩すように弾幕を撃つというのは攻め手の基本とも言えるテクニックであることは、数々の弾幕ごっこを経験してきた魔理沙にとっては当たり前のことでした。
事実、今までになかったルーミアの攻撃のリズムに惑わされたことが、今回の予想外の敗北に繋がったと言っていいでしょう。それに、今回のルーミアとの弾幕ごっこは、魔理沙が今まで経験してきたどんな弾幕ごっことも異なっていました。まったくルールが違うとかそういうことではなく、まるで、今までの弾幕ごっこに新しいシステムが組み込まれたような――。(傍点)
「……」
魔理沙の脳裏に、なにかひらめくものがありました。まだ輪郭のはっきりしないそのひらめきに導かれるようにして、魔理沙はたくさんの魔導書の山の中から一冊の分厚い本を引き抜きました。雪崩のように崩れる本の山に見向きもせずに、魔理沙はその本を開きます。
「とりあえずこれをとっかかりにしてみるか……」
魔理沙が取り出したのは、百科事典でした。かすかに湿ったページをめくっていた手が、目当てのページで止まりました。
そのページは「舞踊」。魔理沙は今回の違和感の正体に、どうも「踊り」というキーワードが深く関わっている気がしていました。それなら、ということで、まずは「踊りとはなんぞや」というところからスタートしてみることにしたのです。
「なになに……『舞踊は、「舞」「踊り」「振り」の3つから構成されている』……」
魔理沙は手元にランプを引き寄せて、百科事典のページに顔を近づけます。
百科事典の「舞踊」の項目には、こう書いてありました。
「舞」とは、写実を離れた悠長な動き。
「踊り」とは、写実を離れてはいるが四肢を跳躍させる活発な動き。
そして、「振り」とは……。
「『事物の模倣』……か」
模倣。真似をすること。