ルーミアは、そのまま黒いスカートをひるがえしてくるんと体を回転させると上空に飛び上がり、妖気弾を放ってきました。
「……っ!」
対する魔理沙は、その動きを見ただけで異変を察知しました。魔理沙も霊夢と同じく、数々の異変で数々の人妖と渡り合ってきた経験があります。その経験が、魔理沙の脳裏に警鐘を鳴らしていました。
最初こそ小手調べの気持ちでいた魔理沙ですが、すぐに頭を切り替えました。素早く懐に手を伸ばして、魔力の結晶を封じ込めた瓶を取り出します。瓶を地面に投げつけると、割れた瓶から虹色の魔力の固まりがほとばしり、星のような輝きを撒き散らしながら魔理沙の周囲を回り始めました。
「わー、きれい! お星さまだー!」
ルーミアはそんなのんきなことを言っていますが、そのお星さまから放たれる弾幕は、今まで戦っていた妖精や妖怪のものとは桁違いの密度と正確さです。さらに魔理沙本人も、構えた八卦炉から魔力光線を撃ってきました。
星弾とレーザーの波状攻撃の前に、ルーミアは少しずつ逃げ場を失っていきます。
(コイツの動き、あまりにもいつもと違うぞ……!? なんだ!?)
ルーミアを追い詰めながらも、魔理沙は油断なく目の前の宵闇の妖怪の動きに注目していました。
魔理沙は、普段は表に出しませんがたいへんな努力家です。その努力の一端が、「相手の弾幕ごっこのクセを覚えること」です。これによって魔理沙は、本人はあくまで普通の人間であるにも関わらず、自分よりはるかに強力な力を持つ人妖にも打ち勝ってきました。
ルーミアは魔理沙に懐いていて、よく弾幕ごっこにも付き合ってあげています。そのため、魔理沙にとってはルーミアは弾幕ごっこのクセを本人以上に把握している相手と言っていいでしょう。しかし、今のルーミアの動き、身のこなしは今まで魔理沙が見たことのないものでした。
劇的に妖力が上がっているわけでも、新しい能力を身に着けているわけでもありません。ただ、その動き、踊るようなその動きが魔理沙を幻惑しているのです。その動きは、まるで――。
(なにかに、操られている……?)
強力な力を持つ妖怪の中には、式を打つ、魂を支配する、魔法の糸で自由を奪うなど、さまざまな方法でほかの人妖を意のままに操ることができるものもいます。しかし、ルーミアの様子は魔理沙が知るどのケースにも当てはまりませんでした。
戦いながら、魔理沙の脳裏についさっきのルーミアの言葉を思い出していました。
『なんだか体がうずうずしちゃって! 弾幕勝負がしたくてたまらないの!』
ルーミアはべつに好戦的な性格ではありません。魔理沙がよくつきあわされる弾幕ごっこも、あくまで遊びというか、子どもがじゃれついてきているようなものです。しかし、今のルーミアはなにか抗いがたい衝動に突き動かされているような気がする――魔理沙は直感的にそう感じました。
その直感が、魔理沙の頭の中に芋づる式にさまざまな仮定を引き出します。
霊夢にも話した、妖精たちが妙にはしゃいでいるという状況。頻発する妖精や妖怪による弾幕ごっこ。そして、ルーミアのこの今まで見たことのない強さと踊るような身のこなし。
――これは、何者かが何らかの方法で介入して、妖精たちに力を与えているんじゃないだろうか。始まりこそたわいない変化だったものの、この状況はすでに異変の中なのではないだろうか。
魔理沙のその考えが、魔理沙自身の手足の動きを一瞬鈍らせます。その瞬間には、すでにルーミアの放った妖気弾が目の前に迫っていました。
「あいってーっ!」
考え事にふけっていた魔理沙に、その攻撃を避ける余裕はありませんでした。魔理沙は顔面にまともに攻撃を食らってひっくり返ってしまいます。
「いっててて……くっそー、私としたことが油断したぜ……」
草むらのうえに大の字になって寝っ転がっていた魔理沙ですが、すぐに跳ね起きて八卦炉を構え直します。しかし、対するルーミアは魔理沙から1本取ったというのに何故か不満顔。
「何だよルーミア。私から1本取れたんだからもっと喜んだらどうだ?」
「むー……だって魔理沙、なんかぼーっとしてたんだもん。あんなの簡単に当てられるよぅ」