ほとんど雑談や愚痴の場と化した定例会だったが、さすがにその日の話題は数週間前に歴史遡行軍からの襲撃を受けてほぼ壊滅状態となった本丸についての真面目なものになっていた。
「初期刀を含む八割は折れたらしい」
「襲撃は夜だったらしい」
「結界にほころびはなかった。どこから侵入されたかはまだ分からないらしい」
「審神者本人に怪我はないが、精神的ショックが大きく、まだ入院中らしい」
等々、伝聞が多いものの、互いに把握している被害状況の情報を共有し、結局この日の定例会までに政府から何の知らせもないことに対する憤りを各自が口にしている。そもそもこの定例会の目的も、大事な情報をさっさと共有しない政府が信用ならない、ということで相模区域管轄の審神者達が情報共有用に立ち上げたものだった。政府が方針を示さない内は、各本丸でしばらくは守りを固くするしかあるまい、という結論に至る。それから、話は件の本丸への見舞いの話になった。何となくお互い出方を窺うような沈黙が漂ったが、
「うちからは依頼札と手伝い札、100枚ずつ送ろうと思う。資材も他が送る分で足りなければ追加する」
こういう時に口火を切るのは、相模区域管轄の中でも古株の男だった。愚痴大会にはあまり参加せず、無口な男だったが、決断が早いのでその存在のおかげで定例会は脱線しすぎずに済む。
「いいのか? 結構な数だけど」
「別にいい。あいつには昔うちがごたついた時に世話になったから」
それきり、男は黙ったので、「じゃあ俺のところからは玉鋼を」「お守りもいくらか消費しただろう。うちのを少し送ろう」と各方面から声があがった。
パソコンの前に座り、資材在庫のデータに目を通していた、やはり相模のとある区域管轄の審神者も、確認を終えて発言する。
「うちは砥石に余裕があるから10万送るよ」
「それで大体、満遍なく資材は揃いそうだな」
「では、各自手配しておくということで」
「また次の定例会で」
誰かの発言で、次々に会議室に表示されていたアイコンが消えていく。対面ではない分、解散はあっという間だった。誰が仕切るというわけでもなく、そもそも同じ区域管轄だからと連絡先を交換しているだけの仲なので、互いに顔と担当区域もはっきり一致しないが、それでも情報共有するようになっていくらか本丸の運営はスムーズになったと審神者は感じている。政府の動きが遅い以上、審神者同士で情報交換しなければならないのは面倒といえば面倒だが、生き残るためと思えば仕方のないことだった。襲撃されたのは、自分の本丸でもおかしくなかった。
「長谷部」
「はい」
会議中、後ろに控えていた近侍に声をかける。会議の内容によっては今日のように手配が必要な場合もあるので、伝え直すよりは、と控えさせておくのはいつものことだった。
「聞いてた通り。砥石、まだ余裕あるよな?」
「はい。先月の任務達成報酬のおかげで」
「じゃあそこから10万、この座標に送っておいて。内容は『応援物資』送り主は『相模一同』で」
「はっ」
余裕があるとはいえ、何かあった時の為に備蓄はあればあるほど良い。送った分の補充をどうするか、政府からの任務一覧を眺めながら考えるが、ふと、背後にまだ気配が残っていることに気付いた。普段は言いつければ次の瞬間には動いている彼にしては珍しく、もの言いたげな顔つきでその場に残っている。
「どうかした?」
「あ、」
長谷部の方に向き直り、きちんと会話する姿勢になる。こういう時、気付かないふりをすれば後で後悔すると経験上分かっていた。
「先程の、本丸襲撃の話ですが……」
「ああ、聞こえてたよね。先々週……もっと前かな? ほとんど壊滅状態だったみたいだから、復帰には時間がかかりそうで……まあ、資材があればいいってものでもないけど、ないよりいいだろ」
「確か、半年程前にも物資での支援をしましたよね」
「あー、あったね。結局審神者が自殺しちゃって、返ってきたけど」
「……」
「……不安? 大丈夫、とは俺も胸を張って言えないけど、そうならないように色々情報集めてるし、何か思うところがあれば――」
「いえ、そうではなくて、俺が、聞きたいのは……」
「……?」
視線が彷徨い、やがて意を決したように審神者に向く。
「有事の際、やはり、主の傍にいるのは、初期刀であるべき、なのかと……」
「うん……?」
確かに、先々月襲撃を受けて折れた歌仙兼定はその本丸の初期刀であったし、その初期刀と懇意であったからこそ、審神者の精神的負担は大きく、政府や有志による支援などがあったものの、自ら命を絶ったという話だった。あれは後追い自殺だよな、と定例会でも話した記憶がある。今回物資での支援が決まった本丸も、審神者を庇って折れた陸奥守吉行は初期刀である。
「あるべき、ってことはないんじゃない? うちもそうだけど、近侍の機会が多いのはやっぱり初期刀だし、初期刀は大体審神者の傍に控えてるし、だから襲撃の時傍にいたのも初期刀だったって感じだと思うけど。なんていうか、確率の問だ、あ、あ~、待って、分かった」
長谷部の表情が晴れないのを見て、審神者は言葉を止めて、その代わり座っていた椅子ごと長谷部の方へ更に近付いた。手持ち無沙汰にしていた手を握って軽く引き寄せる。
「お前、もしかして、うちの本丸に何かあった時にも、お前じゃなくて初期刀が傍にいるべきなのか、ってとこに悩んでる?」
「は、いえ、あの……そう、です」
「あ~、そういうことか……」
握った手を、そっと撫でると、長谷部の方も遠慮がちに指先を絡ませた。仕事中はなるべく線を引くようにはしているが、長谷部と深い仲になったのは数年前からのことだった。
「俺、鈍いしさ、仕事中だと余計に、頭が仕事脳になってるっていうか……」
「っ、も、申し訳ありません……私情を」
「いや、いいんだけど。俺が気付かない時は、はっきり言ってくれると助かるかな」
「はい……」
「で?」
「え?」
絡ませた指をすり、と撫でると、長谷部の肩は小さく揺れた。互いに、仕事中の顔ではなくなっている。
「はっきり言ってよ。長谷部の口から、ちゃんと聞いておきたい」
「っ、主は、時々、意地が悪い……」
「自覚はあるよ。意地悪だし、鈍いけど、そんな俺のことを好きでいてくれるやつがいるから、多分治らないだろうな」
「……」
はあ、と溜息を零して、それでも長谷部は楽しそうに微笑んでいる審神者の目を真っ直ぐに見て、言った。
「もし、何かあっても、俺は、貴方の傍にいたいです。最後まで……加州清光でもなく、五虎退でもなく、俺が、貴方の傍にいて、貴方を守りたい……我儘でしょうか」
「いや?」
途切れ途切れで、か細い声で紡がれた思いを聞いて、それでもまだ審神者は眩しそうに長谷部を見上げている。
「お前に言われなくても、俺は最後まで、初期刀じゃなくて、お前と一緒だよ。おいで」
長谷部が答える前に、ぐ、と軽い力で引き寄せると、されるがままの体を屈ませて、ちゅ、と軽い音を立てて口付けた。
「あ、」
「続きは後で、な」
それでもう、長谷部は何も言えなかった。
*
「あーるじ、今いい?」
「清光か、いいよ」
「言われた通り、石切丸達と結界の点検したけど、異常なしだって。あと、点検頻度については増やしても構わないって。やっぱ最近物騒だしね」
「了解。まあ少なくとも直近2件の襲撃詳細が分からないと気が抜けないよなあ」
やれやれ、と疲れた溜息を零す審神者に、そういえば、と清光は思い出したように部屋の戸の方を振り返った。
「さっき長谷部とすれ違ったけど、なんかすごい機嫌よかったよ。何かあった? あ、仕事中にイチャイチャしてたとか?」
「……」
半分程図星だったので審神者は何も言い返せない。こういう意地悪なところ、もしかしたら自分から清光にもうつったのか、とも思っている。
「あー、でも、少し話をしたから、それもあるかもな」
イチャイチャしていただけだと思われても不名誉なので簡単に経緯を話すと、清光は複雑そうな表情で「あー、なるほどね」と歯切れの悪い返事をした。
「あいつ、俺が二振り目だって知らないんだっけ」
この本丸の初期刀は加州清光だ。けれど、京都への出陣で折れてしまった。幸いというべきなのか、折れた直後の戦力補充のための鍛刀ですぐに二振り目の加州清光を顕現させ、京都攻略は成されたので、以降この本丸の一員となったものはその事実を知らないというだけの話だった。長谷部も、その内の一振りだ。
初期刀と最後まで共にいることを、この本丸の審神者はもう選ばないし、選べない。嘘はついていない。『初期刀』でも『加州清光』でも、初めて鍛刀した『五虎退』でもなく、近侍で恋人のへし切長谷部に最期まで傍にいて欲しいのは審神者の本心だ。
「……伝えないの?」
「うん……まあ、わざわざ言うことでもないし、俺が初期刀折った無能なのがバレちゃうし……狡いかな?」
「狡いとか……っていうか! 無能とかも、そんなの、誰も思わないでしょ。ひと振り目の俺だって」
「そうかな。そうだといいけど」
審神者はまたへらりと笑って、話は再び襲撃への対策の話に戻る。無意識にか、審神者は話を続けながら机の上にいつも置かれている小箱をそっと撫でた。鍵のかかったその小箱に折れた加州清光の鍔がしまわれているのを、二振り目の加州清光だけが知っているのだった。
おわり
全然プロット通りにいかんやん…
プロット
初期刀はもう折れている
壊滅した本丸(生き残り数割)の話を聞いて、応援物資送っといてーって軽く言う審神者
よその本丸は初期刀や初鍛刀と一緒に最期を待つもしくは一緒にいるみたいなところが多くて不安な長谷部
審神者は笑って、俺の最後は初期刀じゃなくてお前と一緒だよって笑う(イチャイチャ)
ご機嫌で出ていく長谷部
入れ違いで入る清光
あいつ機嫌よかったけどなんか言ったの?
軽く話す審神者
ああそっか、あいつ京都に出陣した時はまだいなかったから、俺が2振り目だって知らないんだね
審神者の引き出しには折れた清光の鍔が大事に大事にしまわれている
初期刀を最後に選ばないんじゃなくて選べない審神者