反復・継続・丁寧は心地がいい。俺、北信介は今までずっとちゃんとやってきた。それが一番自分に合ってるのも、日々の継続によって自分がしくじらないと言うことを分かっている。周りもそれを理解して、信頼をしてくれている。恵まれていると思う。
2年生に上がって後輩ができた。すごいやつが沢山が入ってきた。圧倒的な才ですぐにスタメンに入った。なにも知らない奴らは、自分のことを可哀想と言う。なにも知らない奴らになにを言われたところでどうとも思わない。頑張っているのに可哀想だ、そう囁かれているのに気づかないわけはなかったが、そいつらの言う才能や優秀は所詮表面的なものだ。彼らはそう言われるまでに凡人の何倍もの努力を重ねてきてるのだ。それを自分は分かっているからこそ、近くで見ているからこそ、悔しいだとか自分が可哀想だとか思うわけがないのだ。
「北さん!」
大型犬のような人懐っこさで、寄ってくるこの男こそ件の才能ある後輩、宮侑である。悔しさ、羨ましさはあるわけではないが、そう言われてる男に尊敬の眼差しを向けられて優越感が完全に湧かないわけがなかった。
「なんや侑、掃除くらい真面目にやれんのか?」
「辛辣すぎやないですか?!仲良うなりたいと思ってるだけやのに」
唇を尖らせてモップに顎を乗せて拗ねるその姿がさらに大型犬感を助長させる。
「そないに話したいんやったら早く掃除終わらせえ」
可愛いな、ついそんなことを思ってしまった。今までこの性格のおかげで、後輩にこんな懐かれると言う経験をしてこなかったからか、侑といるといつも新鮮な気持ちだ。
「ほーい」
そう言ってダルそうにだがテキパキ掃除を済ませて行く。
何故だかこの男から目が離せない。自分の意思とは関係なく目が奪われて離せない、こんな経験は初めてだ。自分にはこの気持ちがなんなのか、この時は知る由もなかった。
自分は恵まれていると思う。小学校の時にバレーに出会って、双子の兄弟にも癪だがいてくれて良かったとも思う。バレーボールの才能だって恵まれていると思う。今はバレーをしている時が本当に楽しいし、もっともっと上手くなりたい。充実していると思う。
そういった相手にだって困ったことはないし、自分で言うのもあれだがモテる方だとは思う。
でもずっとなにかが足りない、そう感じている。心のどこかにぽかんと穴が空いているような感覚。そんなことを思っていた矢先、どうしても手に入れたいものができた。
「やっぱ好きなんかなぁ…」
さっき購買で買った焼きそばパンを片手に、そう呟く。
「なんやねんいきなし、気持ち悪いわあ」
自分のその言葉に、同じ顔の男宮治が眉間に皺を寄せながら言ってくる。
机の上の弁当箱はすでに空で、追加の菓子パンに手を伸ばそうとした手を止める。
「てか、なんでいっつもこっちの教室で食うん。自分の教室で食えや」
「やってぇ…」
「友達おらんの…?可哀想やな」
「思ってもないこと言うなや、元カノと気まずいねん。」
はぁ、と机に突っ伏す。
「あーあの、胸おっきい子でしょ。ほんと侑っておっぱい星人だよね」
そう言ってスマホ片手に話に入ってきたのは、同じくバレーボール部で治と同じクラスである角名倫太郎である。
「胸は関係ないことあらへんねんけどさ、有る事無い事クラスで言うし、俺んこと見て涙ぐむから周りの女に睨まれるねん。せやからクラスのおるの気まずいねん」
「自業自得やろ、どうせ」
「なに?またバレーと私どっちが大事なの系?」
こういうゴシップが好きなのか角名は近くにある椅子を移動までさせてニヤニヤしながら問いかけてくる。
「…一緒に帰る言われてたのに、自主練して追いて帰ってん」
「あー…何回?」
「5回、くらい?」
「付き合ってどんくらいだっけ?」
「3ヶ月」
「最低」
「な?自業自得やろ?早よ戻れや邪魔やから」
しっしっと手を払われる。
こいつら、人を労わるってことを知らないんだな。
「そんで?さっきの気色悪い独り言、北さんのことやろ」
「は……? え? なん、え……?」
突然意中の人物の名前を言われて思わず言葉が詰まってしまう。隣では角名がウケるその顔と言いながら写真を撮っている。いつもだったら即キレているのだがそれどころではない、頭が追いつかない。
「お前わかりやすいねん。な?角名?」
「あーうん。気づいてないの、北さんくらいじゃない?」
本人に気付かれてないならまあ、となるわけがない。全員に気付かれていたなんて、恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。
「……そないにわかりやすかった?」
「掃除嫌いなくせに、一生懸命やってたり」
やったな。
「勉強なんて死んでもやらんって言っとたのに、北さんが図書室で勉強してるって聞いて図書室通いだすし」
「あー、もうそのくらいにしてや!わかったから!」
耳をふさいであーあーと聞こえないようにする。けらけらと笑っていいるのが指の間から抜けて、耳に入り込んでくる。顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。
「