3. 跡部に虫がくっついているのを取ってあげるジロー。
夏。天下の氷帝学園と言えども、部室に虫の一匹や二匹は現れる時期である。
灼熱のコートから帰還し、部室で涼む氷帝部員たちの中から、「うわっ」という小さな悲鳴が上がった。
「何だこの虫。気持ち悪いな」
窓側の縁に一匹の大きめな羽虫。宍戸が呟くと、向日もそれを見て「うぇっ」と漏らした。
「早く外出してやろうぜ。誰かラケット貸せよ」
その一言に、部内全体が静まり返る。誰も虫を追い出すために自分のラケットを使って欲しい人間などいない。
「俺もちょっと……嫌です」
控えめに鳳が主張する。
「何だよ、誰も外に出してやんねーのかよ」
宍戸が率先して自らのラケットを手にして窓辺の方へ歩いて行く。
ちょうどその時、部室の扉が開いた。跡部が室内へと足を踏み入れるところだった。
「今日の練習はこれで一旦終了だ」
室内の部員たちに一声かけると、冷気を逃すまいとすぐさま扉を閉めた。
ふわりと羽の付いた節足動物が宙に浮かび、跡部の方に向かって飛んで行く。
「あ、跡部」
部員たちの視線が一箇所に集まる。
「うわっ」
がたん、と大きな音を立てて跡部が体勢を崩す。近くのロッカーに力無くもたれかかった。
一瞬、その場に静寂が訪れる。「今の、跡部の声か?」
「聞いたことないほどの悲鳴だったけど……景吾くん、大丈夫?」
滝が膝立ちしている跡部に声をかける。顔色が幾分か悪く見えた。
「これは……」
「跡部ってもしかして……」
「虫、苦手なのかよ〜!初めて知ったぜ」
豪快に笑い飛ばして向日がバシバシと跡部の背中を叩く。
「い、いや、そんなことは」
体勢を立て直した跡部の肩に、羽虫が舞い降りる。
「ッ⁈」声にならない悲鳴を上げた。
再び、部室の扉が開く音がする。
「うえーまた寝ちゃってた、おはよ〜」
のんびりとした声の主がやってきた。暑い中寝てしまっていたらしく、額には汗の粒が光っている。
「ジロー、お前また練習もせずに寝てたのかよ」
「よう飽きもせず寝られるなあ」忍足が感嘆する。
「暑くても寒くても、俺の眠気は変わらないもんね」
ふわあ〜と大きな欠伸を一つすると、その視線の先は窓辺へと向けられた。
「跡部、固まっちゃってどーしたの?」
一言も発せずにいる跡部の近くにジローがにじり寄る。
無言で跡部が自分の肩を指差すと、ジローは「ああ」と合点がいったように頷いた。
「跡部って虫嫌いだったっけ?」わはは、と一人でに笑った。
「跡部にも怖えモンあるんだね〜」つんつんと虫を突いている。
「何これでっけー虫!こいつ取ってやればEーの?」
小学生のようにはしゃぐジローを尻目に、跡部は「早く取れ」と目で合図をする。
「よいしょ……っと、ばいばーい」
跡部の身体から虫をひょいと退けてやり、窓を開けて外へ放った。ブーン、という羽音を残してそれは何処かへ旅立って行った。
信じられない物を見たような表情をした跡部が大きく手を振るジローを見た。
「これでダイジョーブだよ!」
「ジロー」
「ん〜?」
「ありがとな」
「お礼に何かくれたりする?」
「いいぜ、何がいい?」
「じゃあ、ポッキー一ヶ月分ちょーだい!」
「どの味だ?」
誰もポッキー一ヶ月分という部分には触れもしなかったので、忍足もこれ以上は何も言うまいと思ったのだった。
「いちご味だあ?待ってろ、今ミカエルに頼んでやる」
ポケットから携帯を取り出した跡部を見て、「やっぱり自分ジローのこと大好きやん」と忍足は唸った。
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03:33
ななし@612204
すげー!!
03:55
およ蔵
ハートありがとうございます〜〜!
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向き
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