お互い仕事もあるし、予定が合わないことなんてよくあることだった。だからある程度の日だけを決めて、会えなければリスケ。今日もそのはずだった。
リアスはメッセージにに残された「今日はダメそうです」の一文に一つ、息をつく。一週間ぶりに会えると思っていたが、光ノの方から予定ができてしまったと断られてしまった。まぁそもそも月末は光ノとの予定も合いにくいことが多く、会えるかは五分五分だった為、リアスは気にすること無く「分かった」と短い文を送ってメッセージ画面を閉じた。
光ノにメッセージを送ってからすぐ、ミスタから『飲みに行かないか』と誘いが来た。おおよそ探偵としての仕事愚痴だろうと思いながらも、予定は今さっき空いたため、気まぐれながら了承の返事をした。
夕方から飲み始めて、深夜を回る少し前。酔い潰れたミスタをタクシーに放り込んで、リアスは帰路についていた。夜風に吹かれながら、ふと今通っている道は、光ノの家へと向かう道であるということに気づいた。サプライズなんて柄でもないが、逢えるかもしれないと思うと自然と足は光ノの家へと向かっていた。
酔っ払っているという自覚もある。こんなこと自分らしくないという自覚もある。そんなことを思いながら、インターホンを押した。ピンポーンという間抜けな音の後、暫くの静寂。合鍵は持っているが、光ノに「どうしたんですか」と呆れられながら出てきてほしいと思ってしまい、もう一度インターホンを押す。けれども返事はない。焦れたリアスは一応、と渡されていた合鍵を、お揃いで買ったキーケースの中から取り出し、ガチャリと扉を開けた。
玄関とリビングを繋ぐ扉の向こう、電気はついていた。酔いで浮かれていた頭は少し冷静さを取り戻し、リアスはリビングのトラを開ける。ワンルーム、部屋の隅にあるベッドには小さな山が出来ていた。布団からちらりと覗く黒髪と、小さく唸る声が聞こえて、すぐさま覚めた頭をフル回転させて、病人には何をするのが適切か、深夜だが近くに病院はあったかと頭の中に地図を浮かべる。五月蝿くしないようにベッドへと近づき、黒髪にそっと手を置いた。
「光ノ…?」
声をかけると、もぞもぞと動いて、辛そうに歪んだエメラルドと目が合った。光ノはリアスが自宅にいることに驚き目を見開いたが、すぐさま布団へと潜り込むと、リアスへ手を伸ばし、身体をグイグイと押し退けた。
「どうした?熱か?」
「………」
グイグイ。まるでその手は“出ていけ”と言わんばかりにリアスを押し続ける。いつものわがままなら多少は聞いてやるが、今はそんな訳にはいかない。明らかに体調を崩している恋人を放っておくほど、甲斐性のない恋人をしているつもりはリアスには無かった。
「どうしてほしい?なにがいる?」
リアスが優しい声で聞くが、光ノは答えない。代わりにリアスが出ていくことはないと悟ったのか、布団から伸びていた手は、ゆっくりと布団の中へと戻っていった。暫く待ってみたが、何も答えることのない光ノに、リアスは小さく謝って山になっていた布団を剥いだ。すると微かに鼻につくのは血の匂い。ベッドの上で小さくなっている光ノは腹を抱えるようにして丸まり、青ざめた額には脂汗が滲んでいた。リアスは直ぐに察し、布団を掛け直すとキッチンへと向かう。以前、かなり前だが光ノが薬のストックを置いていた戸棚を探せば痛み止めが見つかった。それと水を持ってベッドの側へと戻る。ローテーブルと引きずって、近くに水と薬を置くと、「冷蔵庫勝手に見るぞ」と声をかけた。光ノは口を噤んで、何も言うことはない。ただ目だけはリアスの動きを追っていた。
暫くして、簡単な軽食を器に盛って、リアスは光ノの側へと腰を下ろす。
「コレ食って薬飲め」
「……すみません」
もそもそと布団から出てきた光ノは、赤くした目元を擦りながら、時折鼻を啜ってリアスが作ってくれた食事をゆっくりと口元へ運んでいく。光ノがちびちびと食べる様子を見ながら、リアスは光ノが生理の時を自分に隠していたと、気付けなかったことを1人反省した。肌を重ねたことは何度もあるが、生理によって中断したことも中止になったこともない。わざわざ起きていないことをピロートークで話すこともない。今までデートの予定はカレンダーに入れてあるため、スマホを確認してみると、やはり月末に予定が合いにくいことは、このせいだったと合点がいった。
光ノの生理が軽いのか、重いのか、知ろうともしなかった。隠されていることを当たり前だと思っていた。いつも1人で痛みに耐えていたのだろうか、あんなにも小さくなって、汗をにじませながら。気を使わせてしまっていたと、リアスは食べ終わり、布団へと潜る光ノの頭を撫でて、小さく謝った。
「すまん」
「どうして、貴方が謝るんですか…」
ぐすぐすと鼻を啜りながら、光ノは「私のほうが迷惑をかけました」と眉を下げて言葉尻を弱くしてそう言った。
「色々勝手した。勝手に家にも入った」
「合鍵でしょう?別にリアスなら気にしません……ただ、コレを知られるのは予想外でしたが…」
光ノはすみません、と小さな体をもっと小さくして言った。
「気にすんな、痛みは?」
「ご飯とお薬で、だいぶマシになりました…」
「ん、なら寝とけ。全部やっとくから」
「そんな訳には…!」
「俺がやりたいから良いんだよ」
起き上がろうとする光ノの方を軽く押さえれば、光ノは諦めたようにしぶしぶ布団を被り直した。食器の擦れる音と、流れる水の音。誰もおらず1人で寂しく過ごしていた空間に、安心できる人がいつの間にかいて、光ノはボウっとリアスの背中を眺めていた。
ふと目が覚めて、いつもより布団が暖かいことに気づく。薬を飲んだのはいつだったか、生理痛は和らいでおり、空腹感もない。寝ぼけた頭で記憶を手繰れば、思い出すのは優しい恋人が来てくれた事。生理の時の寂しさは仕方がないし、それをリアスに知らせて面倒くさい女と思われたくなくて隠していた。けれどそれは簡単にバレて、お世話になってしまった。情けなくて啼いてしまった事もきっとバレている。
光ノが今度リアスとデートをする時、なんと言って謝ろうかと考えながら、寝返りを打てば、目の前には件の恋人の顔。驚き固まって気づくのは、包むように抱きしめられていた。ということ。眠る時、決まって眉間にシワが寄る恋人は、静かに眠り、肩を小さく上下させている。光ノは起こさないように、少しづつ体制を変えて、普段は出来ない、リアスの胸へとピトリとくっついた。とくとくとゆっくりとした心音を聞きながら、リアスの服をきゅっと掴むと、小さく「ありがとう」と呟いた。
後日、自分が辛いときに頼ることをしない光ノに、リアスは光ノに“甘え方”を教え、光ノはかなり照れながらもリアスの言う通りに“甘える”ということを実行した。
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金平糖
ひゃっほう!りあひか!
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向き
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riahika
初公開日: 2023年05月13日
最終更新日: 2023年05月13日
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