まあ例大祭までに全レビュー終わらせるのは厳しい感じですが、できるかぎりやっていきますよ。
・折葉坂文書館〈下〉(折葉坂三番地)
 以前レビューした折葉坂三番地さんの寄稿総集編の下巻です。
 それでは前回と同じく収録作品ごとに感想を。
・あの月に届くまで
 幻想郷への新入りである菫子と鈴仙の出会いのお話。幻想郷の中でも外の世界の実際の歴史との月関連での色濃いつながりを持つ鈴仙というキャラクターが、外の世界と幻想郷を行き来する存在である菫子と出会うのは必然という気もします。ビルのてっぺんに立ってる菫子の姿がとても好きです。
・菫子とはじめての1UP
 東方世界においては得点アイテムやボムアイテムが実際に物体として存在するのは周知の事実ですが、本作は「東方世界における残機と1UPとは?」という部分に切り込んだ作品。こういう「ゲームシステムとして公然と存在するシステムは実際の世界に当てはめるとどうなるのか」というアプローチ好き。スペランカーじゃねえか!!
・1万メートルの宝島
 あやさなです。やはり現人神と言っても「空を飛ぶ」という行為は特別なものなんですねえ。そして人の足では決してたどり着けない上空1万メートルのイマジネーションに満ちた描写がまさに幻想郷(シャングリラ)。
・史読のグルメ
 慧音先生の歴史グルメのコーナー。「書物に記された情報を食べる」という行為がいかなるものかということを主観視点で描くというのがまさに小説媒体でしかできないアイデアで素晴らしい。あとイベント会場で担任の先生に出くわすとか次の日から学校に行けなくなると思います。
・ビールはごはん
 酔っ払っても慧音先生は慧音先生なのだった。二次創作の楽しみのひとつが「原作本編では描写されていないキャラクターの日常」なわけですが、本作はそれを生き生きと、なおかつ強力な説得力で描写しています。慧音先生は酔っ払うと蘊蓄披露が長そう……。
・妖酔港
 「東方酒食合同」に寄稿の一編。個人的にあまり飲食に頓着するイメージのない正邪だからこそ、美味いものを美味そうに食べてる姿が印象的。毒づきながらも美味さには抗えない姿はまさに上の口は正直だなあグヘヘといった感じです。
・夏の夜に君を想う
 今度は紫苑と針妙丸のお話。料理はもとより魚を釣る=食材を調達するところから始まってるのがまた食欲をそそります。これまたあんまり舌が肥えてる印象のない紫苑お姉ちゃんですが、だからこそとにかく素直に美味そうに食べてるのが良いですね。
・絃上の追想
 弁々とチルノというなかなか見ない組み合わせの一編。妖精のレベルから逸脱しつつある存在であることがほのめかされているチルノですが、「死の概念を理解している」という形で表現してるのが新鮮です。
・くだかけの鳴く頃に
 アマノジャク説話合同に収録の一編。主役は当然正邪なわけですが、そうなると当然というかなんというか因幡の白うさぎであるところのてゐが出てくるあたりに、彼女のルーツの古さと深さが伺いしれます。
・あの空を射よ
 各種の神話にはよくあるパターンがありますが、「太陽を射る」というのも頻出パターンのひとつ。本作は前述のアマノジャク説話合同の番外編となる位置づけのお話です。このわちゃわちゃ感が実に東方的。こういう多数のキャラが出てきて大騒ぎというのもなかなか書くのが難しいと思われますが、スムーズに読めるのがすごいです。
・小人族の英雄
 アマノジャクの次は一寸法師で針妙丸。同じおとぎ話出身?のかぐや姫こと輝夜に会えてテンション上がってる針妙丸かわいい。それだけでなく、小人の話につきものの「普通の人間の大きさになる」というお約束に踏み込んだ内容も流石といった感じ。
・誰が招いた太公望
 これまた針妙丸の一本釣りから着想を得た話。そこからまた日本神話メンバーとしてのてゐとその仇敵とも言えるワニザメを持ってくるこの構成がうまい。なお針妙丸VSワニザメのビジュアルはトレマーズでイメージしながら読んでました。
・イサナトリの聲境
 独自の周波数の声を持つクジラの伝説を調査する秘封倶楽部のお話。民間伝承合同に寄稿された作品ですが、こうした話を探すという役割に、そうした話が過去のものとなった未来社会に生きる秘封倶楽部を持ってくるところがまた上手い。
・人魚の御殿に玻璃はなし
 民間伝承としてすでに完成している説話ではなく、これから民間伝承になろうとする海に漂うガラス片「シーグラス」を持ってきて、なおかつそれを秘封倶楽部のふたりに語らせるのが実に東方的……というかSF。天然物信仰にも言及してるあたりも、秘封倶楽部にしかできない役どころといった感じです。
・エスケープ・フロム・アース
 「年が変わる瞬間にジャンプする」というしょうもない遊びも、秘封倶楽部にかかればこれですよ。この辺、秘封倶楽部という東方二次創作の中でも特に扱いの難しい素材を使いこなしてて巧者という感じ。
・ろくろ首十九番の独白
 在庫をテーマにした在庫合同で「ろくろ首の能力で分身した頭の在庫」というアイデアが出た時点で「勝ち」なわけですよ。ところで生首の首の筋ってどこだよ……。
・不死の煙のゆくえ
 もこすみという公式で接点のあるカップリングを、「タバコ・喫煙」という公式に設定のないガジェットで結びつけている一編。こうして見るとこのふたり、喫煙者・非喫煙者、大人・子供、不老不死・定命などさまざまな側面で対象的な組み合わせであることがわかります。菫子の幼い憧れの表現が好き。
・眠れる虎は鼠を離さず
 うーん実にいいナズ星。ただ単にいちゃついてるだけでなく、どうしようもなく捕食者と被捕食者としての関係性と本性が出てしまうのがとても好き。その辺の力関係が絶妙な魅力があるよなナズ星は。
・賢者の贈り物
 「東方顔合わせない合同」は実はイベント当日に手に入れておきながら未読だなんて口が裂けても言えません。とても良い咲マリ。一次二次問わず創作における作品強度とはすなわち説得力なわけですが、咲夜さんは魔理沙に絶対こういうことする。してた。(高強度の説得力による幻覚)
・ルキフェルの輝き
 おぜうは日常的にこういう思いつきでやってそう。そしてリグルはこういう役がほんと良く似合うなあ。そして小悪魔はこういう役がほんと良く似合うなあ。
・夜雀想歌
 東方に詳しい人なら知っている「夜雀という種族は雀ではなく蛾の妖怪とする説がある」というネタをもとにした一編。それだけでは終わらず、蟲の妖怪であるリグルとの関係性に悩むみすちーという関係性に持ってくるのが実に上手い。
・蛍光が彩る宴の話
 サイリウムはつまり蛍の光と同様のものだったんだよ! なんだってーっ!? サイリウム=蛍の光=虫は人間と光でコミュニケーションが可能という発想と展開が好き。しかもこの設定から姫リグルに抵抗なくつながるんだよな。
・二人の影は相依りて
 このサークルさん描かれるところの依神姉妹は、じとっとした重さと湿り気があってとてもいい。あと個人的にキャラ本人はもちろんのこと住んでる家の雰囲気がまたじっとり湿ってて好きなんだよな……。
・女苑ちゃんは姉妹でキスするのが普通だと思ってた話
 良い。(率直)女苑ちゃんは常に場の雰囲気に流されてほしい。あわよくばそのまま紫苑お姉ちゃんと一線をフライハイしてほしい。それだけが俺の望みです。(ひぐらし)
・歴史書発刊に寄せて
 パチュリーが書いたという設定の掌編。こういう「キャラが書いた文章」というのは「キャラの主観視点の小説」とはまた違った難しさがあると思います。たしかにパッチェさんはこういう文章を書きそう。
・突発即興掌編まとめ
 イベント参加中にその場でtwitterに書いたという掌編まとめ。イベント中に突発的に書けるというのも小説の強みですね。各作品ともこの短さで作品として成立してるのがすごい。あとこのサークルさん書かれるところのハイテンション早苗さん好き。
・佐渡旅行旅のしおり
 実際に佐渡旅行に行ったときに制作された旅行のしおり。佐渡に伝わる薪能と鵺の伝説について慧音先生とマミゾウさんが解説します。こういう伝説や史実を、それぞれの伝説に縁深い東方キャラが解説するという構成は半分メタ視点のようなそうでないような不思議な感じです。
・不死鳥は死ぬことにした
 文字通りの「髪は女の命」というお話。そうした意味では輝夜は妹紅のいのちに直接触れられる特別な存在ということなんでしょうかね。東方世界には無数のカップリングがありますが、やはりかぐもこには特別感があります。
・星のフェアリーサークル
 お題+時間制限付きで即興小説を書くという企画で執筆された作品。スターサファイアのキノコ盆栽のお話です。妖精としてのスターの怖さというか、人間にいたずらを仕掛ける妖精の本能のようなものを感じました。
・ソレイユの葬送
 こちらも同じくお題+時間制限付きで即興小説を書く企画で執筆された作品。「宮沢賢治っぽい作品を目指した」とのことですが、直接的な文言や引用をほぼ用いずにこれだけ「っぽい空気感」を出すのは相当難しいのでは。
・切り取られた春の向こうに
 お題と制限時間付きでイラストを描いてその日のうちにコピ本にするという企画の小説版。長編を書くのも難しいものですが、このくらいの短さですっぱりまとめるのはかなり難しいのでは。
・秋霜三尺も紅に緩む
 まえがきにも書いている通り、イラスト映えする題材をビジュアル要素のない小説で書くのは非常に難しいと思います。しかるに本作はうまーく読者のビジュアルイメージを誘導するように書かれている気がします。
・追想は虹の道行きを言祝ぐ
 既存のイラストをもとにした小説作品。公式で出てきたときはかなり驚いたカップリングであるてんしおんですが、今ではすっかり馴染んだ感じです。ほにゃほにゃした感じの紫苑おねえちゃん好き。
・蒼空のパタータドルチェ
 「パタータドルチェ」とはイタリア語でさつまいものことなんだとか。なんだかんだで世話焼きな正邪とやんちゃっ子な針妙丸のやり取りが微笑ましい一編でした。
 今日はここまで。
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