4月が終わるまでに既読のもののレビューは終わらせときたいなあ。
・ムガムビル7(薬味さらい)
深い考察と重層的なストーリー構成、そしてあとがきで全てが台無しになってしまう作風が魅力的なサークルさん、早くも7冊目の総集編です。
それでは収録作品ごとに感想を。
・モリヤさま
「外の世界の早苗」は東方二次創作の古典的なテーマですが、本作は都市伝説的な側面におもいっきり寄せていてゾクゾクします。
「信仰が薄れることで忘れ去られてしまう」というのはたくさんの東方二次創作で描かれてきたことですが、本作ではこの「忘却」が重要なファクターとして扱われています。そもそも「忘れ去られたものがたどり着く場所」である幻想郷でさらに忘れられてしまうということは、東方の世界観的に「根本的な消滅」を意味する恐ろしい現象なんですよね。
終盤、忘れ去られて消滅しかかっていた早苗が霊夢の神降ろしの力によって現人神として復活する流れはコンビ感があってとても好き。そしてあとがきの一発芸が完全にシャレになってなくて笑いました。
・マシュマロスミレコ
実はこのサークルさんの本領はこういうノリなのでは……?
4歳児枠で参加のレミリアちゃんかわいい。
ひたすら菫子ちゃんのかわいそうが堪能できました。あとテーマがテーマだけにルーミアの出番が多くて俺によし。
チーム・ニャンニャンニャンはもはやいるだけで嫌な予感しかしない。
「これをお食べ」といきなり肝を差し出す正義のヒーローモコタンマンはとても公共の電波に乗せられる類のヒーローではない。
……というノリからの、このサークルさんが掲げる大きな東方二次創作のテーマである「食人」を持ってくるこの構成よ。
ここで「菫子が自分の利己や独善を自覚しており、なおかつ幻想郷では食人行為が妖怪にとっては当然のこととして行われている」というところから照準を外していないという点が実に誠実だと思います。
個人的にこの作品、以前の作品「カミナレ」に類する作品だと感じました。「カミナレ」では早苗さんがついに人の肉を口にすることで一線を越え現人神となる流れでしたが、本作では「幻想郷に行き来できる外の世界の人間」という外の世界と幻想郷のはざまに位置するポジションである菫子が、一歩幻想郷側に踏み込みつつももう片足は外の世界に置いているという特殊なポジションを確立したように思いました。
・境界ダンサーズ
東方世界における最重要ワードのひとつである「境界」。このワードをどのように処理するのか。
とか小難しいことを考えてたら最初の魔理沙ちゃんの寝顔で全てが吹っ飛びました。
さておき、原作でも「もともとは普通の人間である」と明記されている里乃と舞の二人の言動がだんだんおかしくなってくる下りはなかなかゾクゾクしました。
本作のタイトルにある「境界」には、いろいろな意味が込められていると思います。例えば、里乃と舞の彼女ら本来の人格と「爾氏田」「丁礼田 」の境界、人間と魔女の境界、外の世界と幻想郷の境界、などなど。
しかし、本作のメインキャラである魔理沙はもうすでにこうした境界を飛び越える存在として完成しているように思えます。だからこそ勘当されたとは言え自分の実家である霧雨商店に火をつけるという揺さぶりにも動揺することがない。
タイトルにある「境界ダンサーズ」とは、数々の境界=しがらみにかつては囚われていたものの、今ではそれら境界の上で踊ることすらできる存在となった魔理沙のことなんじゃないかと感じました。複数形なのは気にしないものとする。
・ハクレィ・グレイル
このシリアスな入りからの怒涛のギャグ展開温度差で風邪引くのでやめてください。
博霊の巫女の(鼻)血を受けた聖杯という名の産業廃棄物を処理すべく、幻想郷の妖怪を統べる重鎮達が奮闘する!
というかこのサークルさん描かれるところの咲夜さんやりたい放題すぎる。
めずらしく霊夢が完全に被害者なお話でした。
このサークルさんの作品ってギャグで入ってもいつシリアスに路線変更するかわかったもんじゃないんですが、本作は徹頭徹尾ギャグでした。……と見せかけておいてあとがきと次の作品「マスカレイム」を読むと本作もただのギャグではない
・マスカレイム
これもまた東方二次創作における古典的テーマである「博麗の巫女という役割」を題材にした作品。
そこに「仮面を被って正体を隠す」仮面舞踏会という要素を持ってくるこの発想よ。
仮面を被って正体を隠すことで、逆説的に「博霊の巫女」としての役割を「脱ぐ」事ができるというのは皮肉というかなんというか。
……というのもつかの間、やはり霊夢は本質的に、どうしようもなく「博麗の巫女」であるというのが明白に示されています。しかしながらそれは果たして一方的に悪いことなのか。「博霊の巫女から博麗の巫女の役割を剥ぎ取るとどうなるか」はすでに作中で示されているわけですし……。
・ヒフウ倶楽部
このサークルさんの総集編の最大の楽しみがこの描き下ろしですよ。
あとがきによれば「既刊の内容や配役は総集編になることを一切考えず描いている」とのことですが、ええ~ほんとにござるかぁ~?
一つ一つの作品の個性が強いというか癖が強いのに、それらを素材としてまとめ上げてさらにひとつの作品にするというのは並大抵のことではないと思います。しかもそれを東方二次創作界隈でもっとも調理の難しく奥深い素材である秘封倶楽部でやるというのはなんかもう魔界と契約でもしてないとできない所業だと思います。それに加えてループものというスタイルを取るというのはもうはっきり言って人間業じゃない。
このサークルさんの総集編の感想を書くときは毎回言ってますが、既刊の内容をうまくまとめ上げたこの描き下ろしが毎回本当に面白いんですよね。
ただ単に既刊に登場したキャラや設定を出しているだけではなく、それらの展開を縦糸と横糸を組み合わせて紡ぐタペストリーのごとく紡ぎあげていく……だけではなく、そこから既刊にはなかったオリジナルの展開を進めていくので新鮮な気持ちで読めます。
タイトルをわざわざカタカナ表記にしているあたりで素直に秘封倶楽部で来るわけ無いと思ってましたが、しかしこの作品は直球の秘封倶楽部作品であるともいえるでしょう。「金髪の魔女」のミスリードにはまんまと引っかかりました。
そしてこの作品、直球の秘封倶楽部作品であると同時に、霊夢と紫のお話でもあるのがまた素晴らしい。メリー=紫説は神主からは明確な答えは出ていないものの多くの東方二次創作作家が信じている説ですが、それなら霊夢は必然的に……という。
紫が霊夢に向ける感情は果たして、親心かそれとも……といった具合に、明確に描かれていない行間を想像させてくれるので無限に楽しめる描き下ろしでした。
今日はここまで。