ヒノモトは先日職場でフィンランドから誘われたので、共にサウナに来ていた。
ここはフィンランドの行きつけの場所だという。
日本の一般的なそれとは違う雰囲気のサウナに、ヒノモトは若干ビクつきながらも恐る恐る座っていた。
フィンランドはのんびりとした口調ながらも澱みなく喋り続ける。
ヒノモトは暫く黙って耳を傾けていたのだが、ふと、ずっと聞きたかったことを聞く良い機会なのではと思い口を開いた。
「フィンランドさんって社の幸福度ランキング五年連続一位ですよね。俺、いっつもストレスチェックで引っかかっちゃうんでお聞きしたいんですけど」
「なに?」
「フィンランドさんは幸せってなんだと思いますか?」
フィンランドは少し思案するように顎に手を当てたものの、大して時間をかけずに答えた。
「愛する誰かがいて、自分を愛してくれる誰かがいて、満ち足りていると感じることかな」
簡潔ながらも深い言葉だ。
ヒノモトは頷く。
「なるほど」
フィンランドは不思議そうに首を傾げた。
「ヒノモトは幸せじゃないのか?アメリカと付き合ってるんだろう?」
ヒノモトは瞬時に硬直した。
「なっ、なんでそれを」
「あれだけアメリカが周囲を牽制してるのに、気づかないはずがないよ」
ヒノモトはどんどん顔に血が上ってくるのを感じた。サウナにいるから、という理由だけではなく顔が熱い気がする。
「ヒノモトは愛されている自覚が無いのか?」
フィンランドはおっとりと目を丸くしてヒノモトを見た。
ヒノモトは重い口を開いた。
「……その、ここだけの話にしてくれます?」
「うん」
ヒノモトは躊躇いながらも、一筋の光明を求めてここ最近の悩みを打ち明けた。
「アメリック、まだ手ぇ出してこなくて」
一度言ってしまえば止まらなかった。次々と言葉が口からこぼれ落ちる。
「絶対手が早いタイプだと思ってたんスよ。周りに侍らせてた美女とも……過去そういう関係にあったんだろうなって。それでまぁ今は俺と付き合ってる訳なんスけど。普通にスキンシップはしてくるのに、何でだと思います?やっぱ男に対してはそういう欲とか無いんスかね……」
フィンランドは黙ってヒノモトの言葉を聞いてくれた。そしてまた少しの間考えた後、返答する。
「ヒノモトはどう思ってるんだ?どうしたいんだ?」
これもまた短い問いかけだった。
「俺は……その……」
ヒノモトは言葉に詰まる。
ここのサウナは日本的なサウナと随分と様子が違う。入った時には皆が皆めいめいに喋っていて、立派な社交の場のようだったのだが、今ではすっかり周囲は静かになっていた。
フィンランドとヒノモトの会話に聞き耳を立てているのだ。
場の全員の注目を集めていることにヒノモトはいたたまれなくなる。
皆が耳をそばだてる中、ヒノモトは赤くなりながら答えた。
「俺は……その……アメリックともっと触れ合えたらなって。すっ、すみません!キモイッスよね!」
恥ずかしさを誤魔化すように首を横に振るヒノモトに、フィンランドは不思議そうに首を傾けた。
「なんで?アメリカはそれを聞いたら喜ぶと思う」
「へ?」
フィンランドは落ち着いた声でゆったりと言った。
「ヒノモトは分かってない。アメリカがどれだけ熱の篭った目でお前を見ているか。このサウナよりも熱い視線だ。傍から見てるだけでも茹だりそうな熱視線なのに、なんでヒノモトはそんなに鈍いんだろう」
「そ、そッスか……?」
ヒノモトはいまいち釈然とせずに曖昧な相槌を打った。
すると、それまで黙っていた周囲のおじさんが次々と声をかけてきた。
「あんちゃん、自信持てって」
「フィンランド人は人を見る目があるし、嘘をつかない」
「頑張れよ」
ポンポンと肩を叩かれ、ヒノモトは「はぁ……」と会釈をした。
――「そんなに言うんなら、今度俺とサウナに行ったことをアメリカに言ってみたらどうだ?きっと怒り狂うから。それでヒノモトがアメリカをサウナに誘ってみたらいい。お前の裸を見てアメリカがどういう反応をするか、その目で確かめてみろ」――
そう言ったフィンランドの言葉は正しかった。
アメリックが公共のサウナは嫌がったので二人きりの貸切の場所に行ったのだが、そこで無事に(?)逆上せることになったのは後日談だ。
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ち…ぼ28話妄想文
初公開日: 2023年04月11日
最終更新日: 2023年04月11日
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ち…ぼの28話妄想文。
フィンさんとアメヒノ予定。