4月になった。
私は今、公園にいる。
この公園は桜の木で囲んだ中に噴水が存在し、春には桜が咲き乱れ、噴水と共に公園をより着飾る。
そんな情景を眺めながら、そこら辺のコンビニで買った缶のコーラを持ちながらベンチに座り、何ともなしに見たものから考える、というのが私の趣味だ。
それは春でも夏でも秋でも冬でも。変えられない。
例えば・・・そこに親子がいる。
「お母さん。今日の夕飯は何にするの?」
「まぁ。まだおやつを食べたばかりじゃない。もう夕飯の話だなんてやめて頂戴。」
桜と噴水の中を楽しそうに散歩している様はほほえましい限りだが、着眼するところはそこではない。
今回考えるのは子供と大人、である。
子供と大人というのは違う生き物だ、という言葉は私が読む書物の中でより印象的に残ったものである。
子供は暗闇を怖がるが、大人は暗闇を怖がらない。
理由は多いだろう。経験がある、知識がある。そもそも危機感が薄れていく。様々だ。
もちろん暗闇を未だ怖がる大人もいるが、それは言葉の綾だ。
それは暗闇でなくたっていい。
でも子供のころからそれを科学的ではない、知識上おかしい。経験上そうではない、と感じていた子供は未だ恐れるのだろう。
それは大人ではないからだ。
子供は何かを恐れ育ち、大人は堂々闊歩する。
恐れることを忘れるのではなく、自らは大人だから恐れないと考える。
ではいつから自分は子供ではなくなったのだろう?
ある日それを思いついて大人だと言っている友人達それぞれに聞いたこともあった。
「自分が大人になった瞬間は?」
誰もが覚えていない。
『初体験』を済ませた時、成人したとき、大学生になった時、酒を飲んだ時、様々な答えを貰ったがそれはあくまで形式的、ミーム的な話に過ぎない。
いつから子供のように騒げなくなった?
いつからあの時のように喜べなくなった?
いつからあの時のように恐れなくなった?
誰もが子供のころよくいたお気に入りの場所でお気に入りの物を食べて感じるだろう。
なんでこんな場所がお気に入りだったのか?
雪を面倒くさいと感じるように、自らの思考は一歩ずつ大人に変わっていることに気づかされる。
「・・・そんなことを考えてもどうしようもないのに。」
ぽつりと自分の口からそんな言葉が漏れる。
そう、どうしようもないのだ。
昔やったゲームも、そのプレイ方法も。
今では理論的にプレイしてしまうように。
私達は再開したはずのものと初めましてをしている。
そのたびに元の鞘に初めましてをしても意味がない。
元の鞘とはとっくにさようならをしているからだ。
じゃあ子供に戻ればいい、なんて考える人もいるだろう。
だがそのような人は排斥される。
「彼はおかしくなってしまった。」
「急に聞き訳が悪くなって。」
「まるで『子供』みたいだ。」
と、いうように。
これは社会という枠組みには大人しか存在せず、子供が存在する隙間はないというようにも聞こえる。
不可逆的一方通行の生物変化。
それが子供と大人の関係である。
どのような成長を迎えても、どのように変わっても。
昔のように戻れない。
昔のようにしてもそれは『子供』の自分ではなく、『大人』の自分なのだ。
とどのつまり、人は変わらなければならないのではなく、変わってしまうのだ。
そんなことを考えていたら親子は既にいなくなっていた。
定期的な時間に発生する噴水ショーが公園の中心を濡らす。
すっかり炭酸の抜けてしまったコーラを飲みながら眺める。
噴水ショーが終わる前に少女が私の隣に座った。
彼女に見覚えはない。
「・・・ですが体がオトナでも子供の人もいます。」
彼女がそう言葉を漏らす。
「・・・?」
思わず怪訝な顔をすると彼女はニコリと笑う。
「続けて。」
とだけ彼女は応えた。
「そもそもそういうやつは大人になんかなっていない。どこまで読んだか知らないが図体だけでかくてもそれは大人とは呼べない。そういうのを」
「猿山のサル。とでも応えたいのですか?確かにそうかもしれませんね。」
彼女は次にいう言葉を知っているかのように遮る。
そして小さな口でいつから持っていたかわからないサイダーを飲んだ。
「ですが大人というのはそれを見過ごせる存在ではありません。子供のまま大人になった人たちも大人として扱おうとします。それは」
「自分たちが大人になれた時間でそいつは大人になれたはずなんだ。大多数は大人になれているのにそいつらだけ大人になれていない。そういうやつらを責めて自分はこうじゃなくてよかったって、してんだよ。」
しかしとばかりにさえぎって応える。
「・・・子供に戻りたいと考えないための見せしめ、ですか?」
不思議そうに少女は応える。
「社会って言うのは残酷だ。そうやっていわゆる大多数を燃料にしてエンジン回すんだよ。そうじゃないと燃料の出来が悪くなっちまう。」
そう言いながら再度コーラに口をつける。
言いたいことは終わりというサインになるだろう。
「・・・あなたの見方がひねくれているのか、社会というのがそんなものなのか。私にはわかりません。」
彼女は嫌悪と懐疑が入り混じった声で私に言う。
「少なくとも私にはそう映ってる。」
「・・・そうですか。」
そう言いながら彼女もサイダーに口を付け始めた。
しばらくして、私は再度口を開く。
「・・・なぁ。聞きたいことがある。」
「なんですか?」
少女は頭に疑問符を浮かべるように首を傾げサイダーから口を離して用件を聞く。
「・・・誰?というかなんで考えてることわかったの?」
「・・・それもそうですね。」
互いに目を合わせないまま数分沈黙し、少女はそのまま口を開く。
「・・・名前はありません。話す人にはなんだか色んな名前で呼ばれます。バケモノ、神様。超能力者。精霊。・・・正直何でもいいです。」
「・・・そうか。」
超常的存在ってことだけはわかった。
缶コーラを飲み干し、気分で握りつぶす。
「貴方はなんて呼びたいですか?」
「・・・なんでもいいさ。君でいいか。」
「えぇ、それでも構いません。」
そういうと少女もサイダーを飲み干す。
「そう・・・じゃあ君。永遠に穢れなき子供のままの君」
「えぇ。貴方。もう戻れないものに想い馳せる純朴ではいられない貴方。」
「「初めまして。・・・さようなら。」」
ベンチには誰もいなくなった。