こんにちは、あるいはこんばんは。蒼穹めとろです。今回再びワンライにチャレンジしてみようと思い立ったのですが、これまたせっかくなのでテキストライブさんを利用して制作過程を記録しながら書いていこうと思います。
お借りするのは『#ワドルディワンドロワンライ』のタグになります。毎週土曜日の22時〜23時、遅刻参加は次回開催までOKとのことです。タイムオーバーは計二時間まで。それ以上はタグ無し投稿となります。
11月5日開催の第13回お題は『バンダナワドルディ』+『リンゴ』と『森』。前回のフリーお題でもバンダナワドルディを主人公に書いたのですが、奇しくも二連続となってしまいました。
一応、簡単なお話の内容くらいは考えてきましたので、さっそく書いていきましょう。
***
──ウィスピーの森には、こことは違う世界へ繋がる穴がある。
「……なんて、」
初めて聞いたときはよくある噂話の類だと思っていたけど、案外そうでもなかったらしい。
日課のりんご収穫のため、お昼を食べてからウィスピーの森にやって来ていたバンダナワドルディは、目の前に広がる見覚えのない光景を目にそんなことを心の中で呟いた。
鬱蒼と頭上を覆い隠していた木々は瞬きの間にいずこかへと姿を消し、踏みしめていた土の地面はいつの間にやら石畳へ。ツンと鼻をつく潮の匂いの出処を探ってあたりを見渡すと、街灯の光に照らされた水面がすぐ近くに広がっていた。
──そう、ここは港町。その上どうやら今は昼間ではなく夜らしい。
「困ったなぁ……」
手の中のカゴに収まったぴかぴかの採れたてりんごたちを見つめて、バンダナワドルディは途方に暮れた。今日はこのあと、りんごを持って帰ってジュースを作る予定だったのに。
どこを見てもあの慣れ親しんだ森の気配は無く、ただ見慣れない異国の街並みだけがどこまでも続いている。
「とりあえず、見て回ってみよう」
本来なら不安になってもおかしくないところだが、そこはバンダナワドルディ。持ち前ののんきさで気を取り直し、ひとまず腰を落ち着ける場所を求めて通りを歩き出した。
ずいぶん遅い時間なのか、街の中には人っ子ひとり見当たらない。立ち並ぶ建物の様相から察するに、住居というよりは商店が多いのだろうか。
しばらく海沿いに進んでいくと、これまでの街灯とは違ってぼんやりと淡い光がいくつも集まっているところが見えてきた。近付いていくと、それはどうやら一本の大きな木のようで。たわわに実った宝石のような果実がそれぞれに光を放ち、街中に鎮座する大木を美しく彩っている。
「きれいな実……! なんの果物だろう?」
形はりんごに似ているような気もする。だけどバンダナワドルディはこんな果物を今まで見たことが、
「……あれ?」
(見たこと、なかったっけ)
ころころと転がってはぷくぷくと膨らみ、やがてぽんと弾けて同時に愉快げな笑い声が響く。
脳裏をよぎる奇妙な既視感に頭を悩ませていたバンダナワドルディは、けれど耳に届いた誰かの足音に思考を中断して振り向いた。カンテラの光がゆらりゆらりと近付いてきて、そうして少し離れたところで立ち止まる。
「──こんな時間にひとがいるなんて」
珍しい、とそう零した声の主はどうやらずいぶんと能天気な性格らしく、警戒していたバンダナワドルディは少し拍子抜けした。
「ねぇキミ、こんなところでどうしたの?」
「……そういうきみこそ、どうしてここに?」
「ボク? ボクはね、ツリーの様子を見にきたんだよ〜」
のんきな声が夜の冷たい空気を震わせて、カンテラの持ち主が宝石の木に近付く。どうやら敵意は無いらしい。一安心して自分も木の近くに歩を進め、街灯の光に照らされたその姿を見たその瞬間。
バンダナワドルディは驚きのあまり声を上げた。まるで図ったように向こうも同じタイミングで声を上げる。
「「えぇっ!?」」
「キキキキ、キミは……!?」
「ぼ、ぼくがいる〜!?」
あわあわおろおろ、まったく同じ仕草で慌てふためく二人のバンダナワドルディは、そうしてひとしきり驚くとおそるおそるお互いに歩み寄って改めて目を見開く。
「えっと……ぼく、バンダナワドルディって言うんだ」
「その、ボ、ボクもバンダナワドルディだよ……」
頭の青いバンダナはもちろん、名前まで同じとはいよいよ見分けがつかなくなってしまいそうだ。
ウィスピーの森からやってきた方のバンダナワドルディは、驚きながらも興味津々といった顔をしている目の前のそっくりさんを見つめて口を開いた。
「あのね、ぼく……迷子になっちゃったんだ」
「えっ、そうなの? どこから来たか分かる?」
「ウィスピーの森でさっきまでりんご集めをしてたんだけど、気付いたらここにいて……。ここはどこ?」
「ここは、プププ王国だよ」
「キングダム……やっぱり、プププランドじゃないんだ」
聞くところによると、ここはとある王様が治めている平和な国『プププ王国』らしい。少し前まで国のあちこちで住民たちが暴れたりして困っていたけれど、『カービィハンターズ』という四人組の活躍によって王国の平和が取り戻されたのだとか。
「へぇ〜……この世界にもカービィがいるんだ!」
「キミは、プププ王国のひとじゃないの?」
「うん。ぼくはポップスターのプププランドから来たんだ。とっても平和でのどかな国だよ」
「そうなんだ〜! そんな不思議なこともあるんだね!」
すご〜い! と楽観的にはしゃぐ様子はやっぱりバンダナワドルディそのもので。プププランドのバンダナワドルディは、早くもこの不思議な経験を楽しんでいる自分がいることに気付いて思わず少し笑ってしまった。
「あれ、ニコニコしてる! どうしたの?」
「なんだか楽しくなっちゃって……それよりきみ、お仕事に来たんじゃなかったの?」
「あ〜っ、そうだった! ボクってばうっかりうっかり」
「この木の様子を見にきたんだっけ?」
「そうそう。大事なジェムリンゴツリーだからね」
「ジェムリンゴ?」
「この木に生ってるリンゴのことだよ!」
どうやらこの宝石のような木の実はジェムリンゴという名前らしい。プププ王国のバンダナワドルディは、キラキラと朝焼けを閉じ込めたような色に輝く果実をひとつひとつチェックしていく。
「うん、朝にはもうすっかり収穫できそうだね!」
「このまま収穫はしないの?」
「ボクは別にこのままでもいいんだけど、朝日を浴びてからの方が価値が上がるってよろずやの店主が言ってたから」
「そうなんだ! 不思議なりんごだね〜」
感心したようにそう言って、プププランドのバンダナワドルディは手元のカゴの中を見下ろした。確かに、夜よりもたっぷりお日さまの光を浴びた昼間に採ったりんごの方がなんとなく美味しいような気がする。だから晴れた昼間に収穫に行っていたんだけれど。
「それ、キミがさっき言ってたリンゴ? ウィスピーの森、だっけ」
「そうそう。プププランドの外れにおっきな森があって、そこに住むウィスピーウッズにもらいにいくんだ」
「ウィスピーウッズがリンゴをくれるの!? すごいね!」
「きみのところのウィスピーウッズはくれないの?」
「うん。ボクの知ってるウィスピーウッズは国の外れの古跡に住んでてね、すっごく気難しい性格をしてるんだ。あのウィスピーがリンゴをくれるなんて、考えらんない!」
どうやらプププ王国のウィスピーウッズはプププランドのウィスピーウッズとは違い、友好的とは言いがたい性格のようだ。
プププ王国のバンダナワドルディのその発言をきっかけに、二人のバンダナワドルディはそれぞれの自分の知る世界と相手の知る世界との違いを探してお喋りを始めた。例えば……、
「ボクのところのカービィたちは、ピンクのカービィがリーダーで『カービィハンターズ』っていう四人チームを作ってるんだ。カービィハンターズはプププ王国のヒーローなんだよ!」
「カービィが四人もいるなんて、すご〜い!」
「ボクにとっては、カービィが一人って方がなんだか新鮮だなぁ」
「ぼくのところのカービィはすっごく食いしん坊でのんびりやだけど、何度もプププランドやポップスターの危機を救ってくれてるんだ。カービィに勝てない相手なんていないんだよ!」
「星の危機まで!? カービィ、すごいね!」
「でしょ! カービィってやっぱりどこの世界でも強いんだね!」
お互いの知るカービィの違いとそれでも変わらない強さに改めて憧れの気持ちを抱いたり。
「ぼく、いつかカービィみたいに強くなりたくってね。デデデ大王さまのお城にお仕えしながら毎日がんばってるんだ!」
「デデデ大王さま? キミってもしかして、王様の部下なの!?」
「そうだよ! あれ、きみはそうじゃないの?」
「ボクはこの街のツリーの管理をしてる、冒険者たちの案内役だよ! この国の王様は見たことがないけど……もしかしたら、キミの言うデデデ大王さまと同じ姿をしてるのかも。それにしても、王様の部下だなんてすごいね!」
「えへへ! 自称大王さまだけど、とってもやさしくてかっこいいんだよ〜!」
同じように見えて、意外なところで違っているお互いの立場や役目に驚いたり感心したり。
そうして二人のバンダナワドルディは、ジェムリンゴツリーの根元に座りながらたくさんたくさんお話をして、ほんのひとときの異世界交流をたっぷりと楽しんだ。同じ自分だから話せることも、違う世界だから話せることも、数え切れないほどたくさん。
それはとっても長い時間のようで、ほんとはとっても短い時間だったのかもしれない。ひとしきりお喋りをしたあと、プププランドのバンダナワドルディは傍らのカゴの中からりんごをふたつ取り出した。
「たくさん喋ってノド乾いちゃったよね? りんご、あげる!」
「えっ! ボクももらっていいの?」
「もちろん! ウィスピーのりんごはとっても美味しいんだよ〜!」
「ジェムリンゴじゃないリンゴなんて、ボクはじめて……! ありがとう!」
「ほんと? じゃあ、ここだけの特別だね!」
いただきます、と声を揃え、かぶりついたプププランドのバンダナワドルディに倣ってプププ王国のバンダナワドルディもそっとりんごをかじる。
途端、口の中に広がるたっぷりの甘みと少しの酸味。お日さまの光を溶かし込んだようにやさしくてまろやかな幸せの味に、プププ王国のバンダナワドルディはあっという間に夢中になってしまった。
「美味しい〜!! すごい、こんなに美味しいリンゴがあるんだ……!」
「ふふ、そんなに? ジェムリンゴも美味しそうだけどなぁ」
「ジェムリンゴは美味しいんだけど、すごく丈夫だから……食べるにはけっこう手間がかかるんだ。だから食べるよりは価値を付けて、お金とかの代わりに使うことの方が多かったりするんだ」
「へぇ〜、そうなんだ!」
「そうなんだよ。……ふぅ、ごちそうさま! とっても美味しかった〜!!」
「喜んでもらえて良かった! そうだ、せっかく会えたからこれ、おみやげにあげる!」
満足げな笑顔を浮かべるプププ王国のバンダナワドルディに、プププランドのバンダナワドルディはカゴの中からりんごを三つ差し出した。
「えっ、三つもいいの!?」
「あんなに美味しく食べてもらえたら、きっとりんごも幸せだしね!」
「わぁ〜……! ありがとう、すっごく嬉しい〜!!」
りんごを抱えて大喜びするプププ王国のバンダナワドルディは、少ししてハッと思い立ったように立ち上がると、背後にそびえ立つジェムリンゴツリーを見上げた。月の光に照らされたツリーから三つのジェムリンゴをもぎ採り、プププランドのバンダナワドルディに差し出す。
「ボクからもおみやげとお礼に、ジェムリンゴをあげるね!」
「えぇっ、いいの!? 価値を付けないといけないんじゃ……」
「気にしないで! 価値は確かに大事だけど、ジェムリンゴもリンゴだもん。きっと美味しく食べてもらった方が幸せだよ!」
「それもそっか。じゃあ、もらうね! ありがとう!」
受け取ったジェムリンゴはつるりと眩い輝きを放っていて、まるで本物の宝石のようにも見える。壊れ物を扱うようにそっとカゴに入れ、プププランドのバンダナワドルディは慎重にカゴを持ち上げた。
「上手くやらないと砕けちゃうから、切るときは慎重にね」
「えっ、大丈夫かな……?」
「きっとキミなら大丈夫だよ! だって、強くなるために修行してるんでしょ?」
「そ、そうだね……うん、がんばる!」
改めてカゴの中で光を放つジェムリンゴを見つめる。それにしてもやっぱり、このジェムリンゴどこかでみたことあるような……。
そう思いを巡らせたときだった。
「チョットチョット、困るナァ〜」
聞き覚えのあるカタコトが突然耳に届いて、二人のバンダナワドルディは驚いたように振り返る。見ると、屋台のような移動式の店舗の陰から白いフードとマントに身を包んだ商人風の何者かが姿を現した。
「ジェムリンゴは一応、ウチの商売道具でもアルんダヨォ?」
「あれっ、マホロア!」
「えっ、マホロア!?」
プププ王国のバンダナワドルディの言葉に、プププランドのバンダナワドルディは思わず目をこらす。
言われてみれば、服装こそ違えどその姿は自分のよく知る虚言の魔術師──もとい、彼方からの旅人マホロアそのものだった。独特のカタコト口調もどうやら共通らしい。
「ほら、さっきちょっと話した……よろずやの店主だよ」
「マホロアがよろずやの店主なんだ!」
納得したように頷き、プププランドのバンダナワドルディはプププ王国のマホロアを心なしか警戒した目つきで見つめる。もし彼が自分のよく知るマホロアと同じ性格をしているなら、彼の言葉は簡単に信用しない方が良いだろう。
そんなこちらの様子を意に介さず、プププ王国のマホロアはため息をひとつ吐くと背後に向かって声を投げかける。
「ハァ……マサカ、こんなコトになってるナンテネ。キミ、チョット油断しすぎナンジャナイ?」
「エェ〜? 心外ダナァ。ボクだってコンナノ予想外ダヨォ」
「えっ、マホロアが二人いる……!?」
「あれっ、なんでマホロアがここに?」
プププ王国のマホロアの呼びかけに応じて姿を現したのは、見慣れた青と黄色のフードに白いマントをまとった本物のプププランドのマホロアだった。
バンダナワドルディが二人と、マホロアが二人。奇妙に向かい合った構図に、プププランドのバンダナワドルディはいよいよ頭が追いつかなくなってくる。困惑のあまり視線を落とした先でカゴの中のジェムリンゴが目に入って、
(──あ、)
「……思い出した」
「えっ、どうしたの?」
「ジェムリンゴって……マホロアが前、武器にしてたりんごの爆弾のことだ!」
「そうなの!?」
「エ〜ッ、キミってば気付いてナカッタノォ?」
「キミのトコのバンダナワドルディ、思ったヨリ鈍くナイ?」
「だってぼく、闇のハートの冒険のときはマホロアとはあんまり一緒にいなかったから……なんとなく見覚えはあったんだけど」
「マァ、ソレは確かにソウダケド」
そんなやり取りをしていると、突然のことに目を見開いていたプププ王国のバンダナワドルディが気を取り直したように魔術師マホロアを見て尋ねる。
「ところで、そっちの青いマホロアはもう一人のボクと同じプププランドのマホロアってこと?」
「あ、そうそう! こっちはぼくの……友だちのマホロア! こう見えて、実はすっごく嘘つきだから気をつけてね!」
「そうなの!?」
「ネェ今トモダチって言うのチョットためらわナカッタ?」
「ためらってほしくないなら、それなりにきちんと反省しなくちゃだよね〜」
「ウーン、キミも強かにナッタヨネェ」
「言い負かサレテルジャン……」
伊達に長い付き合いではないのだ。それなりにあしらい方を心得ているプププランドのバンダナワドルディとのやり取りに、店主マホロアが呆れたように魔術師マホロアにツッコミを入れる。
「それより、ジェムリンゴを持ってたってことはマホロアはこの世界を知ってたの?」
「ウン、ソウダヨ。コッチのボクの売る商品にチョット手を加えてアゲル代わりに、ジェムリンゴをチョッピリ融通シテもらってタンダ」
──マ、イワユル『相互利益』ってヤツ?
事も無げにそう言って、魔術師マホロアはどこからか取り出したジェムリンゴを掲げてみせる。店主マホロアも店の商品である装備のひとつを手に、ニコニコと人好きのしそうな笑顔を浮かべていた。
「それでここに……。もしかして、ウィスピーの森の噂ってマホロアがこの世界と行き来してたせいなの?」
「アァ、困ったチャンがトキドキ巻き込まれるンダヨネェ。最近はキチンと気を付けてたンダケド……ってコトはキミ、ウィスピーの森からココに来ちゃったンダネ?」
「そうだよっ、もう! 帰れなかったらどうしようって心配だったんだから……!」
「ゴメンゴメン。話が終わっタラ、チャント帰してアゲルヨ」
「話って……」
「キミの持ってる、ソレ」
そう店主マホロアが指さす先にあるのは、りんごのカゴ。正確には、その中に入ったジェムリンゴのことを言っているのだろうとは容易に想像がついた。
「……このジェムリンゴが、どうしたの?」
「今さっきも言ったケド、ジェムリンゴはボクのよろずやの商売道具でもアルンダ。勝手に持ってかれチャッタラ困るンダヨネェ」
ダカラ、返して。そう言いながら手を伸ばす店主マホロアに首を横に振るより速く、プププ王国のバンダナワドルディが割り込んでその手を払いのけた。そうしてまるで守るように前に立ち塞がる。
「ダメだよ! これはボクがもう一人のボクにあげたんだから、マホロアのモノじゃない!」
「エェ〜? 困ったナァ」
「それに、マホロアだってもう一人の自分にジェムリンゴあげてるんでしょ?」
「ソレとコレとは話が違うンダヨネェ。……ソコ、退いてクレナイ?」
「やだよ!」
「実力行使スルって言ってもダメ?」
「ダメ!」
「ハァ……しょうがナイナァ。もう一人のボク、出番ダヨ」
店主マホロアのその声に、静観していた魔術師マホロアが渋々といった様子で前に出る。その手にいつか見た攻撃用の魔法陣が展開されているのが目に入り、プププランドのバンダナワドルディは慌ててプププ王国のバンダナワドルディを庇うように立った。
「ちょっと、いくらマホロアでもそれはだめだよ!」
「エェ……キミが相手ナノ?」
「あ、危ないよ! 下がってて、」
「ありがとう、でも大丈夫。ぼく、こう見えてけっこう強いから!」
「ホラ、サッサと取り返してヨ。キミなら余裕デショ?」
「ウルサイナァ……チョット黙っててクンナイ?」
取り出した槍を構え、背後にいるプププ王国のバンダナワドルディを守るべく二人のマホロアを見据える。
不満げに顔をしかめている魔術師マホロアと対照的にその背に隠れながら愉快げに笑っている店主マホロアに、やっぱりどこの世界でもマホロアは性格が悪いんだな、なんてどこか場違いなことを思った。
「……ネェ、ホントに邪魔スルつもりナノ?」
「ぼくの友だちを傷付けられたくないからね!」
「……………ボクがいなきゃ、キミは帰れナインダヨ?」
「友だちを傷付けられる方がいやだよ!」
ぐっとバンダナを引き下げながら言い放つと、魔術師マホロアは深々とため息を吐く。
「ハァ〜〜…………ソウ、ソウダヨネ。キミたちナラ」
「チョット、早くシテヨ」
怪訝そうにせっつく店主マホロアの手を払い、顔を上げた魔術師マホロアは先ほどまでとは打って変わってニッコリと笑顔を浮かべていた。そうしてそのまま魔法陣に手をかざし──パチン、と音を立ててそれは消え失せる。
「ヤーメタッ」
「え、」
「……ハ、ハァ!? チョット、ヤメタってドウイウコト!?」
「ドウイウコトもナニも、言葉の通りダヨォ。コ〜ンナ面倒なコト、ボクやってランナイヨォ」
「ボクのジェムリンゴ、ドウシテくれるンダヨ!?」
「エェ? テキトーにボクとの取引分から差し引いといてヨ」
怒り心頭といった様子の店主マホロアをのらりくらりとかわす魔術師マホロアは、どうやら端から攻撃などする気はなかったようだ。
ほっと胸を撫で下ろし、出番の無かった槍をしまい込んで後ろを振り向く。背中越しでも緊張が伝わってきていたプププ王国のバンダナワドルディは、魔術師マホロアの変わり身の速さに目を白黒させていた。
「ねぇ、あ、あれって……?」
「言ったでしょ? マホロアは嘘つきなんだ」
ちょっぴり得意げに言うと、プププ王国のバンダナワドルディは目を輝かせて頷いた。
ともかく、おみやげのジェムリンゴを守ることができて良かった。マホロアなら自分にとって利益の無いことはしないだろうと思ってはいたものの、不安なものは不安だったのだ。
「ッ、ワケワカンナイ……!!」
ひときわ大きく聞こえた声に目を向けると、ひとしきり言い争ったのか店主マホロアが肩で息をしながらそう吐き捨てたところだった。
やれやれと首を振りながら、魔術師マホロアが口を開く。
「キミにもホントのトモダチができタラ、ソノウチ理解デキルんジャナイ?」
「ハァ? ナニソレ……」
「ネェ、そろそろ帰らナイ? バンダナワドルディ。キミだってヒマなワケジャナイデショ」
不意に声をかけられて、そういえばりんごを持ってお城に帰らなくてはいけないのだったと思い出す。慌ててカゴを抱え、プププランドのバンダナワドルディはもう一人の自分に向き直った。
「ごめんね、ぼくそろそろ行かなくちゃ……きみとお話できてすっごく楽しかったよ〜!」
「ううん、ボクの方こそ……キミから聞いたお話、どれもとっても素敵でワクワクしちゃった! リンゴもすっごく美味しかったよ!」
「ほんと? 嬉しい〜! ジェムリンゴのおみやげもありがとう! ぼく、きみに会えてとっても良かった!」
「ボクも、キミに会えて良かった……! またキミのお話たくさん聞かせてほしいな!」
「もちろん! それじゃ……」
「「ばいばいバンダナワドルディ、またこんど!」」
そっくりな笑顔でそっくりに手を振り合ったバンダナワドルディたちは、つかの間の出会いにさよならを告げる。
そうしてプププランドのバンダナワドルディが異世界の友だちに背を向けると、魔術師マホロアは既にワープゲートを開いて待っているところだった。置いていかれないように駆け出そうとして、少し離れたところでへたりこんでいる店主マホロアが目に入る。
ほんの少し考えたのち、プププランドのバンダナワドルディは彼に近付くとカゴの中からウィスピーのりんごをひとつ取り出して差し出した。
「はい、これあげる!」
「…………ドウイウツモリ?」
「おみやげだよ!」
「ハァ?」
「友だちとお別れするときは、おみやげを渡さなくっちゃでしょ?」
「……トモダチ? ボクとキミが?」
「そう!」
「ワケ、ワカンナイ……」
「今はそれでいいんだよ。ぼくはもう帰らなくちゃいけないけど……ほんとの友だち、見つかるといいね!」
困惑を隠せない店主マホロアにりんごを押し付け、それだけ言うと魔術師マホロアの元へと駆け寄る。遅いヨォと呆れ顔で言うその声に、けれどどこか優しい色が混じっていることに気付いているのはきっとこの場では自分だけ。
ひっそりとした優越感に頬を緩ませながら、最後にひとつ異世界の友人たちに手を振るとバンダナワドルディはワープゲートに飛び込んだ。
見る見るうちに視界は暗転し、くらりとした浮遊感を覚えた次の瞬間。目の前には見慣れた森の景色が広がっていた。
お昼過ぎを示していた日はとっくに傾いて、森の木々の影がすっかり色濃く伸びている。
「……帰ってこれた」
「ホ〜ント、予想外のトラブルで参っチャッタヨォ」
「誰のせいだと思ってるの?」
「……ボクが悪かったヨォ」
なんだかしおらしい様子のマホロアがおかしくて、バンダナワドルディはくすくすと笑みを漏らす。
「チョット、ナニ笑ってるノ?」
「なんでもないよ。……ふふ、マホロアにほんとの友だちができて良かったね!」
「ア〜〜……チョット今スグ忘れてクンナイ?」
「えぇ? どうしようかなぁ」
「……ホントキミ、強かにナッタヨネェ」
「ところで、ねぇマホロア。あのときほんとは攻撃なんてするつもりなかったよね?」
「マァ……キミにナニカアッタラ、カービィたちが黙ってナイカラネェ」
「そんなこと言って、友だちを傷付けたくなかったんでしょ?」
「サァ、ナンノコトダカ」
「マホロア、嘘つくの下手になったよね」
「ハァ!? ソンナワケナイジャン! ソレにトモダチを傷付けたくナイのはキミだって同じデショ!?」
「ぼくは別に、マホロアが攻撃してきたら本気で立ち向かえるよ?」
「ハァ〜〜……ソウイウトコ……」
「友だちだって、それとこれとは別だよね!」
「イヨイヨキミもカービィに似てきたヨネェ……」
「あはは! マホロアが言うの、それ?」
end.
ここまでお付き合いくださりありがとうございました。思ってた数倍長くなった……二時間をオーバーしたので、今回はタグ無しで投稿しようと思います。
途中からワンライであることをすっかり忘れて普通に資料探したりしながら書いてたので鬼のような執筆時間となってしまいました。こんなぐだぐだではありましたが、ここまで見てくださっている方がいましたら本当にありがとうございました。はみ出した残りの文はおまけか何かにしようと思います。それではまた。
森を後にする二人の長い影は、いつかの日々に比べるとずっと近くに並んでいる。バンダナワドルディの抱えるカゴの中で、宝石のりんごが夕日を反射してきらりとひときわ輝いた。
「ジェムリンゴは普通の果物ヨリ丈夫ダカラ、上手く加工シタラ強力な武器とシテ使えるンダヨ!」
「すごいね! 嘘つきのマホロアはそんなこともできるんだ〜!」
「ソノ呼び方はチョット……ドウカと思うナァ」
「キミはイイケド、ボクまでウソツキみたいに聞こえチャウのは困るヨネェ」
やれやれと首を振る店主マホロアに、呆れ顔でジト目を送る魔術師マホロア。仲の良さげな二人の様子を見てプププランドのバンダナワドルディは思わず笑みを零した。
「ふふっ、マホロア同士も仲良しなんだね!」
「ほんと、なんだかボクたちみたいだよね!」
「エェ〜!? チョット、ボクがコレと仲良くシテルヨウに見えるノォ?」
「コレとはタダのビジネスの関係ダヨォ。キミたちと一緒にシナイでヨネ」