涙のような豪雨が明けた次の日。雨のじっとした匂いが残る中、主の葬式が行われた。
しかし実際には、その場所に遺体は入っていない。主の世界の人々らへのせめてもの謝罪として、主の指にはまっていた金色は取り外され体はあちらの世界へと帰っていったのだ。
弔いのための仮面を被った執事たちの心情を表すように、棺の真ん中はぽっかりと空いている。そこへ、思い出を敷き詰めていくように花が捧げられていった。
真っ黒な空間の中に埋め尽くされた椿。
それは主を表す花であると、執事たち全員で決められたものだった。庭師であった執事はこの日のために見事なほど美しい椿の花を、庭の殆どから刈り取った。
「主様のために咲かせた花っすけど……こんな所で使うなんて、思わなかったっす」
庭師は執事たちそれぞれに花の入った籠を渡しながら、ぽつりと呟いていた。
元より忌み嫌われていた悪魔執事の主の葬式に、参列したいと名乗り出るものは誰もいなかった。執事たちもまた、余所者に参加させる気はなかった。
主が来て活発さを取り戻した屋敷が、あるべき場所へ戻っていくようにただ静かに弔いが行われていく。
ふと、とある執事が前に出た。彼は、生前に主の恋人であった男だった。赤い赤い椿の中へ、桃色の便箋が入れられる。
それを咎めるものは誰もいない。
彼と主はその関係を公にしていたわけではなかったが、二人の幸福そうな雰囲気を屋敷の誰もが感じ取っていた。だからこそ、責める事など出来なかった。
仮面の奥で、執事の顔が歪む。頬を伝って流れ落ちた雫は、まだ乾かぬ地面と同化してしまった。
ギイ、と音がして棺が閉まる。大きく掘られた地中の底へ棺が埋め、執事たち全員で土をかぶせていく。立てられた墓には、主の名前が刻まれて金の指輪がかけられた。
すっかり見えなくなった棺を名残惜しく見つめながら、執事たちはその場を去った。
「またいつか」
そう呟いた声は、一体誰のものだったのか。それを知るものは、この世にただ一人もいなかった。
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