<パート2>
夜中に自室を抜け出して礼拝堂の地下に行くことは、すっかり私の日常になっていた
そう、私の日常。お父様が決めた私の日常じゃなくて、私の、私だけの日常。
部屋のドアを音を立てないように開けるところから、私のほんとうの1日が始まるんだ。
もちろん、1回も誰かに見つからなかったわけじゃない。夜になって働いている人はたくさんいる……というよりも、地下室のあの少年のところに通うようになってから、私は自分が住んでいる屋敷の中にこんな時間にも働いている人たちがいることを、わたしは初めて知った。
そして、幸いというべきか、わたしのことをお父様に報告する人はいなかったようだ。見逃してくれているのか、それとも単に面倒事に巻き込まれたくなかったのか……理由はわからないけれど、今のところはわたしのこの深夜の密会を咎める人は、お父様を含めて誰もいなかった。
……それが、少しだけ寂しい気もした。わたしがこんなことをしていることを、お父様はまったく知らないんだろうか。それとも、なんの関心もないんだろうか。
そんなことを考えていると、足取りも重くなってしまう。
わたしは頭を振って、そんな不愉快な考えを追い出した。目指すのは、いつも通りキッチンだ。
いつものように、パンとスープを持ち出して礼拝堂に向かう。ささやかな行為だけれど、あの少年も少しずつ体調が回復しているようだ。もしわたしがこうして夜中に礼拝堂に行けなくなってしまったら、あの少年はまた前と同じように弱って、最悪の場合死んでしまうだろう。
そう、バスケットに詰め込んだこのパンとスープの重さは、そのままあの少年の命の重さなのだ。わたしが……そう、自分の生活さえ自分のものではなかったわたしが手にした、わたしだけの重さ。
見上げた月明かりが、雲に隠れて翳ったせいだろうか。
そのとき、わたしの頭の片隅に……自分でも思いもしないはずの考えが浮かんできた。
もし今日、わたしがあの少年にこのパンとスープを届けなかったら。
今日だけじゃない。自由に外に出られないあの少年に、食べ物を運ぶことをやめてしまったら。