「やった!」
 私は苦労の末、ようやく平原の【空間】にある五つ目のパズルピースをつかんだ。あとは前回と同じルートでゴール地点である【記憶の欠片】があった場所に行けばいいから簡単だ。
 五つのパズルピースを懐に納めると、私は前回の事件で【記憶の欠片】があった場所にたどり着いた。そうすると、これまた前回と同じようにまばゆい光が視界を埋め尽くし、私は【エントランス】に戻っていた。
 これでなんとかパズルピースを五つ集めたわけだけど、これは一筋縄ではいかなそうだ。夢の中だからか、空腹や喉の乾きは感じない。時間の流れもどうなってるのかわからないけど、さすがにちょっと疲れてきた。
 次の【空間】も、前回と同じ竹林の中だった。けれど、ただでさえ生い茂った竹のせいで視界の通らない竹林の中、見回しただけではパズルピースがどこにあるのかはわからない。
「先は長そうだし、ちょっと休憩するか……」
 この竹林も前回と同じ構造なら……あ、見つけた。竹林の中を細く流れている川だ。前回もここで少し休憩したから覚えている。
 竹林を見ると思い出すのは、やっぱり影狼やわかさぎ姫のことだ。今ごろ現実の世界の方では、ふたりとも心配しているだろう。ふたりのためにも、早いところ問題を解決して戻らないと。
 そんなことを考えながら、私は水面にかがみ込んで川の水をすくおうとした。
 そこで、私は気づいた。
「……あれ?」
 水面に写った、私の姿。
 いつの間にかその頭には、赤いリボンが着いている。
 もちろん、そんなリボンを着けた覚えはない。いつどこで……?
 反射的に周りを見回すけれど、もちろん竹林には私しかいない。急に湧いてきた不安のせいだろうか。竹の葉のざわめきが不自然に大きく聞こえる気がする。
 夢の中の出来事にいちいち驚いていては身が持たない。そもそもこうして夢の世界なんかに入ってきてること自体突拍子もないことなんだ。
 ……そう自分に言い聞かせながらも、私は腹の底がざわつくような不安をごまかせないでいた。
 私はこの夢の世界に来てから、自分の姿を確認していない。そんなことをする機会も必要も発想もなかったからだ。それに、自分が自分の姿をしているなんて……当たり前のことじゃないか。朝起きて、自分の姿が別のものになっている、そんなことを考えることなんかあるものか。
 それに、別人になっているわけじゃない。たかがリボンがついているだけだ。人間たちの変わりように比べたら、このくらい……。
 そう、自分に言い聞かせていることは自覚していた。
 私たち妖怪にとって、「変わる」ということは人間のそれとは大きく意味が異なる。姿が多少変わることでさえ、大地震の前の小さな揺れのような、異常事態の前兆なのだ。
 震える手で、リボンを解く。手に取ったリボンは、何の変哲もないただのリボン。
 そのリボンをその場に残し、私は先に進むことにした。ここで考え込んでいても仕方ないし、何より、考え込むことでぐるぐると思考の沼にはまり込んで動けなくなってしまいそうだったからだ。
 疑問を引きずりながら、私は竹林の中を進んでいく。先に進んでいるはずなのに、なぜか私の両足には、目に見えない鎖が絡みついているような気がした。
 
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