弱々しく震える鉤爪のついた指先に、わたしは怖さよりも憐れみを感じた。
この男の子はたぶん、お父様のコレクションのひとつなのだろう。どこから連れてこられたのかも、なぜこんな姿をしているのかも、わたしにはわからない。
でも、今のわたしにはそんなことはどうでも良かった。今、自分の目の前で飢えて死にかけている誰かがいるということ、そしてわたしが行動することで、その誰かの飢えを癒やすことができるということで頭がいっぱいになっていたのだ。
男の子は、パンのかけらをゆっくりと食べている。わたしはおそるおそる、その頭に手を乗せる。男の子は驚いたのか、びくりと肩を震わせたけど、それだけだった。飢えているせいで飛び退く気力もないのか、それとも少しは気を許してくれているのか。
「あなた……お名前は?」
言葉が通じないのか、それとも話せないのか、男の子はかすかな唸り声をあげるだけだった。
その顔を覗き込む。緑がかった瞳は、こちらを見ていた。
そういえば……いつぶりだろう。こんなにまっすぐ、誰かの目を見たのは。
わたしはそう思わずにはいられなかった。
わたしが暮らしているこの屋敷の生活の中で、こうして誰かの顔をしっかり見たことは、数えるほどしかない。
使用人たちとは、お父様の言いつけで直接言葉をかわすことはほとんどない。何人もいる家庭教師の先生も、レッスンを通してしか話をしない。
そして……お父様。
お父様と言葉をかわすことも、あまりない。直接顔を見ることも。
それはつまり、この広い屋敷の誰も……私を見ていないということだ。たったひとりの肉親である、お父様でさえも。
だからわたしは、今、カンテラの灯りに照らされている緑がかった瞳が、まっすぐこちらを見ていることに、興奮と嬉しさがないまぜになったなんともいえない感情を覚えた。
「わたしは、イングリッド。わかる? イングリッド」
「ウ……ア……イ、イ……ング、リ、リ、ド……?」
自分の名前を呼ばれて、これほど嬉しいと感じたことが今まであっただろうか。涙が出そうになる。勢い込んで、わたしは男の子に顔を近づけた。
「そう、そうよ! イングリッド!」