少年は相変わらず憔悴しきった様子で檻の中に身を横たえていたが、部屋に入ってきたわたしの気配に気づいたようだった。
「ウ……ウ……」
 かすかなうめき声を上げながら、少年はなんとか顔を上げた。そこでわたしは、初めて少年とまっすぐに視線を合わせた。
 汚れてごわついた長い前髪の向こうにある瞳は、うっすらと緑がかった不思議な色をしていた。カンテラひとつ分の頼りない明かりしかない暗い部屋の中で、少年のその瞳だけがぼんやりと光を放っているように見えた。
 わたしが持ってきたパンを小さくちぎって少年の口元に持っていくと、彼は恐る恐るというよりは、衰弱しきってろくに体も動かせないといった緩慢な動作で口を開け、パンのかけらをくわえた。そのときに、彼の口の中に長く伸びた牙のような歯が見えたのは気のせいだろうか。
 少年は時間をかけて、ひとかけらのパンを食べている。そのあいだ、わたしはカンテラの明かりをかざし、改めて彼の姿を確認した。
 身にまとったボロ布の隙間から覗く黒い毛。細い指の先に生えている鉤のような鋭い爪。人間のそれとは逆に前に曲がっているように見えた足は、よく見れば犬や狼と同じ形をしている。
 少年はまるで、人間と狼の姿を持ち合わせた、本で読んだ人狼のような姿をしていた。でも、わたしはその人間から大きくかけ離れた姿を、怖いとはほんとど感じなかった。ある種の魅力すら感じていた。
 だって……彼の姿は、今までわたしが見てきたどんな生き物とも違っていたから。わたしの知っている、この屋敷の敷地内という狭く限られた世界の中には決していなかった、外の世界からの来訪者。それが彼なのだ。
 そんなことを考えていると、檻の隙間から弱々しく伸ばされた手が、わたしのスカートの裾をかすかに引っ張った。
 わたしは手にしたパンをもう1回ちぎり、彼に差し出す。今度は彼は手を伸ばして、パンのかけらを受け取った。
カット
Latest / 62:05
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
書きかけの小説を書いていきます……
初公開日: 2022年09月04日
最終更新日: 2022年09月04日
ブックマーク
スキ!
コメント
ずーっと完成が遅れてる小説を書いていきます……