恐怖症 嘔吐恐怖症
大和さん 看病 万理さん
手 怯える 光
「大丈夫だよ」
「ッ」
 背中を撫でる手に、喉の奥がこじ開けられる感覚がした。
#その手を離さないで
「あ~……今日は休みだな、大和さん」
「っふぅ」
 重たい瞼をこじ開けると、一番に目に入ったのは三月の困った顔だった。眼鏡がないにしてもぼんやりする視界に、何度か瞬くと何かが溢れる。
「しんどいな……」
「? 何、ミツ?」
「大和さん、熱あるんだよ。体つらくないか?」
「……?」
 痛ましそうに顰められた眉を見て、なんといっていいかわからなくなる。
「とりあえず、ゆっくり休めよ」
 さわさわと頭を撫でられる感覚に安心して、何も考えずに瞼を閉じる。気づくとまたとろとろとしたまどろみに身を任せて、そのまままた夢の中へと落ちていった。
 誰かに呼びかけられている気がして、ゆっくりと目が開く。焦点の合わない視界の中、目に映ったのはよく自分を気にかけてくれる事務員の彼だった。
「ごめんね、起こしちゃって。気分はどうかな?」
「ばんり、さん?」
「うん。ごめんね、三月くんじゃなくて」
 柔らかく笑ったその人は、そっと手を伸ばしてくる。少し乾燥した手が額に触れて、その冷たさに息が漏れた。
「まだ高いね……」
「? どうして……」
「三月くんから連絡が来てね。今日は大和君一人しか寮にいないって聞いたから」
「、すみません、わざわざ」
 いつも見るようなスーツ姿ではない万理は、多分休みだったのだと思う。数日前にオフだと聞いた記憶がある。目が覚めたからか、ゆっくりではあるが少しずつ脳が仕事を始める。
「気にしないで。それより、何か食べられそう? 朝から何も食べてないって聞いたよ」
「そんなに、腹、へってなくて」
「そっかぁ……。水は? 飲めない?」
 起きた時から感じていた吐き気に、大和は口を噤む。あまり、口にものを含みたくなかった。
「ちょっと、今は……」
 遠慮したい、と控えめに伝えると、万理は眉を寄せる。
「でも、さすがに何も飲まず食わずはちょっと……」
「……」
 困った顔の万理に、大和もまた困った顔で返すしかない。薬は飲みたいけれど、それ以上に気持ちが悪くて身動きが取れなかった。
「う~ん。お腹が減ってない?」
「そう、ですね」
 減っていないどころか、膨れた腹は今にもその中身を押し出さんばかりに大和を追い詰めている。これ以上、刺激を与えられればきっと吐いてしまう。そんな予感がして、大和は万理の言葉を拒絶するほかない。
 絶対に、吐きたくはなかった。
「ッ」
「? 大和君?」
 時折強くなる嘔気に、息を詰める。口の中に満ちる唾を何とか飲み干すと、生温い液体が喉を滑り落ちていく感覚がする。たったそれだけなのに、背筋が粟立つ感覚がして、手を強く握る。
「もしかして、気持ち悪い? トイレ行く?」
「だいじょうぶ、なんで」
 吐きたく、ない。
 ただそれだけで万理の気遣いを拒絶する自分に、嫌気がさす。忙しい中看病に来てくれているのに、こんなに礼儀知らずな態度をとる自分は、どれだけ嫌な人間なのだろう。
 体調のせいでうつむいた思考は、さらに俯いて暗くなっていく。
「く、ん」
 急に強くなった吐き気に、条件反射で喉の奥が閉まる。瞬間的に広がった特有の匂いに、不随意に涙がにじむ。
 吐いた方が楽になるのはわかっていて、それでもそれを上回る恐怖に体も心も嘔吐という行為を拒絶していた。
「体起こそうか」
「や、いいです、」
「でも、」
「ぅ」
 血の気が引く感覚に、脳が警鐘を鳴らす。
 さすがに、これはまずい。
 静かに胸元に手を伸ばした大和の行動を見て、万理は大和の異変に気が付いたらしい。
「一旦体起こそうか。力抜いててね」
 待って、と止めるよりも早く、力強い腕に抱き起される。その拍子にぐるりと腹の中がかき混ぜられる感覚がして、口元を手で覆う。上がって来た質量を、気力だけで押し返すと一気に気力が削れた気がする。
「はい、出していいよ」
 そう言って目の前に差し出されたゴミ箱を見て、首を横に振る。たったそれだけの仕草も吐き気を煽ってきて、どうしようもなく目の前がゆがむ。
 吐きたく、ないのに。
「大丈夫だよ」
 良く知っているその優しい声も、背中を摩る温かな手も、全てが恐怖の対象にすり替わって、やめてくれ、と叫びだしたくなる。
「、や、」
 知っているはずの人なのに、よくわかっているのに、体が嘔吐という行為に怯えて、勝手に逃げようとする。
「ッ、ぅ」
 限界なのはわかっている。もう、もたないだろうことも。
 けれど、あの行為の苦しさを知っているが故に、どうしても体が拒絶する。過去の記憶が蘇って、無意識のうちに万理の服を握っていた。
「大和君……」
 困惑したような呼びかけに、言葉が出ない。噛み締めた唇は、何より限界の証だった。
 助けて、と言えたらどれだけよかっただろう。楽になりたいのに、怖くて何も言えずにただ万理の服を掴む手に入る力だけが強くなっていく。
「大丈夫。怖くないよ。ほら、俺だよ」
 背中に当てられていたはずの手が離れると、いつもよりも眉を下げた万理の顔が目に入る。
 ただそれだけなのに、不思議と体に入っていた力が抜けた。
「大丈夫だよ」
「ッ」
 背中を撫でる手に、喉の奥がこじ開けられる感覚がした。
 伸ばした手を握られているのに安心しながら、とめどなく溢れる涙が頬を濡らす。
 目に入る光が痛くて、目を瞑った。
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87:22
ななし@6953aa
(;・∀・)
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向き
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リクお返事
初公開日: 2022年08月05日
最終更新日: 2022年08月05日
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コメント
ワーパレのお返事書きます。ただ自分で書いてるところを見直したいだけです。
みかさんに許可頂いたのでとりあえず恐怖症の2さん、看病🐺さんです
ワンライ『入院』
体調不良ワンライお題は『入院』です 21:30から開始出来たら開始するつもりです
海月
ワンライ
体不ワンライを書きます!!!パスワードは今回のお題です!
海月
ワンライ 練習
過呼吸・ライブ・夢中だったのどれかor全部を使用
海月