馬小屋から松風と望月をそれぞれ引いて出た燭台切光忠と大倶利伽羅が表門へ参集すると、近侍の山姥切国広が審神者の言伝を預かっていた。
「燭台切と大倶利伽羅には悪いが、両名このまま出陣してもらうことにした。おそらく政府側の不具合とのことだが、部隊から二振だけ外せなかった」
入れ替えは他の刀であればできるそうで、何故そのような事態が起こっているかは分からないとの見方だった。
「一度出陣すれば事態は解消するかもしれない。深追いせず任が済んだところで帰城してほしい」
説明しながら山姥切自体も少なからず困惑しているようだった。他に控える四振もおかしなことが起こっているというのは既に察している。
「オーケー、行き先も初めてではなさそうだし、心配要らないさ。格好良く決めないとね、伽羅ちゃん」
ここでも平静が板につく太刀が和やかに応えた。部隊長は引き続き和泉守兼定、入れ替えの試行により謙信景光に代わり鳴狐が部隊に加わっている。
表門前に設けられた転送用の陣形図の上に六振が立った。和泉守の号令と共に、山姥切が行き先への転送処理を行う。
審神者の形代が山姥切の肩へとんと止まった。細かな粒子のように分解され出陣先まで肉体を転送されているその最中、まだ本丸に残留していた聴覚で大倶利伽羅は今の主の声を聞く。
「無事に帰城してください。無い物は得なくてよいのです」
その本意を読む暇がなかった。光忠へ告げれは解釈できるかと考えたが、人の身を魂に纏ったその姿が陣地へ降りた頃、その言葉は戦好きの打刀の思考からすっかり抜け落ちている。
歴史修正を試みる件の遡行軍及び時折派兵されている検非違使はおおむねこちらと同じ六振構成、遠戦や先制攻撃も精錬すればこなせるが、基本は白兵戦と考えて良い。特に今回のような市街戦においては鍛錬した自らの腕が頼りとなる。
「松風たち、装備から外せたら馬小屋で休めたのに。これも不具合だったのかな」
川辺の木に二頭の馬の手綱を括りながら、光忠は気の毒そうに溜息をついた。大倶利伽羅はそれに背を向け、警戒を怠らず周囲を見渡している。
遡行軍は川辺や橋、切通しのような狭い山道、市街であれば土壁の入り組んだところや蔵屋敷に好んで出没することが多かった。今は小夜左文字と骨喰藤四郎が川沿いに橋の架かる所を中心に偵察へ赴き、和泉守兼定と鳴狐は見晴らしの良い場所から全体の陣形と方略を練っている。組になった光忠と大倶利伽羅には、先の出陣の折に討伐した残党や新たな足跡を辿る為に同じ経路を通るという任を充てられていた。
大倶利伽羅は前回ここへ赴いた時も、確かこの部隊の殿を務めていた。怪しいと思う所へ行くとまるで呼び寄せたかのように遡行軍に合い見えることとなり、白刃戦に雪崩れ込む記憶が新しい。今度も己の敵兵を引き寄せる悪運の強さを利用してさっさと終わらせようと密かに算段していた。
松風と望月に暫し別れを告げ、光忠と連れ立って城下の町人街を歩く。此処で騒ぎを起こせば大事だが、幸いにも今のところ人目に付くような死闘へ縺れ込んだことはほぼない。まるでこの戦闘自体が政府かそれよりも強大なものに掌握されている気さえするのだ。光忠が言う〈道理の通らない物事〉とはつまり此れなのだと腑に落ちる。
この出陣でも大倶利伽羅の読みに違わず早速遡行軍がやって来た。行手に対峙するのは打刀と脇差の二振、槍がいないだけ幸運と言うべきか。
「狭いところ、嫌いなんだよね」とぼやきながら先に抜刀したのは太刀の方で、先制は機動に利のある大倶利伽羅へ譲り、自らはじりじりと後手から間合を詰める。
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