ふたりぼっちになりたかった。願わくばずっと、死ぬまで。叶わぬ夢だけど。
時間の感覚もない、いつまで続くがわからないこの闇夜。取り憑かれてまだ数時間しか経ってないはずなのにどうしてこんなにもこの人に惹かれてしまうのだろう。こんな気持ち今まで持ったことなんてなかった。
「あきとくん」
「なにKK」
「なに、じゃねーよ。犬に餌ばっかやってねーで早く先進むぞ」
「これだって大事だよ」
こんな殺伐とした世界で唯一の癒しと言えば動物と戯れることだけ。その動物が嫌いなKKが自分の中にいるんだけどまあそれは置いておこう。
「KKも触ってみようよ」
「おい、やめろ、マジで」
右手を伸ばしてふさふさの毛を撫でようとすると抵抗する力が働き一向に触れることが出来ない。可愛いんだから触らせてくれればいいのに。
「言っとくけどな。お前の考えてることなんとなくわかるんだぞ」
「そっか。ならいいよね」
「よくねぇ! 馬鹿やってないで早く行くぞ」
僕の中で喚くKKを揶揄うのはやめにして立ち上がる。目指すは麻里と般若がいる舞台。
「ねえKK」
「なんだよ」
「KKってこのまま僕の中にいること出来るの?」
「さあな」
今まで会った幽霊は心残りが無くなるとすぐに成仏していった。KKだってきっとそうなるだろう。わかってる。わかっているんだ。この時間がどれだけ歪なものなのか、どれだけ壊れた空間なのか。ああ、もしかしたら僕の心が壊れているのかもしれない。だからきっとこんな馬鹿げたことを思ってしまうんだ。
(KKとずっと二人でいたいだなんて、そんなこと、思っちゃいけないのに)
頭は理解してるのに心ではこの二人きりの時間がもっと続けばいいとさえ思っているのだから救いようのない話だ。僕はこのまま壊れて生きていくのかもしれない。
「……変なこと考えてんじゃねーよ」
「あ……ごめん」
「お前は生者なんだからこんな世界に引きずり込まれるな」
別に死にたい訳では無いが正直な話生きて行く気力が無いのも確かだ。麻里さえ戻ってくればこの心境も変わるのかもしれない。
「うん。行こっか」
「よし。それでこそ俺の相棒だ」
その相棒って言葉、密かに気に入ってるんだよね。僕はKKにとっての『特別』みたいで。ただこの気持ちはKKにはまだ気付かれたくない。
「暁人?」
「ごめんなんでもないよ」
僕だって本当は気付かないフリをしたかったけど、それももう限界だ。これが終わったら、なんてまるでフラグを立てるみたいだけど。
「あとで話したいことあるんだ」
「……聞いてやるよ」
「ありがと」
盛大に立ててやるさ。
麻里はやっぱり戻ってこなかった。覚悟はしていたんだけどそれでも一縷の望みを持っていたかった。けど両親が迎えに来てくれたんだ、向こうで楽しくやってけるだろう。
「KK」
「なんだ」
「KKに話したいことあるんだ」
「そうか」
「あのね、僕」
「……暁人、悪ぃな」
「なに、」
「そろそろ時間だ」
夜が明ける。それはこの世界の終わりを告げる光だろう。つまり僕とKKの二人きりの時間の終わり。
「……残念」
「楽しかった。またな、相棒」
「最後くらい名前呼んでよ」
「……またな、暁人」
「……うん。KKもゆっくり休んで」
──おやすみ、KK。
僕の中のKKの気配が消えた。もうここにはいないんだ。結局想いを告げられぬまま終わってしまった。
「見てるかな」
流れ落ちそうになる涙を堪えて空を見上げる。
──ほら、朝が来たよ。