高校の卒業式の日にお互いの想いを確かめ合った俺と松永が付き合い始めて早3年。
松永は東京の大学に行き、俺は地元の企業に就職した。
同性同士、初めてのお付き合いで遠距離なんて不安がなかったといえば嘘になる。それでも、松永はこまめに連絡をくれたし、長期休暇には必ず地元に帰ってきてくれた。俺が「松永に会えなくて寂しい……」なんて言ったら週末には帰ってきてくれるなんていう愛され具合。だから、安心し切っていた。
「松永から返信が来ねえ……1週間も」
松永はどちらかというと、メッセージを送れは割とすぐに返してくれる人間だ。遅くなっても翌日には返してくれる。
しかし最後のやりとりから1週間、松永からのメッセージは返ってこない。最初の2日くらいはまだ、課題が忙しいのかもしれない。3年生にもなれば卒業論文の準備を始めていてもおかしくはないのかもしれないと自分を納得させることができた。
3日目からはもしかしたら、体調を悪くしているのかもしれないと心配になり電話もしてみた。しかし、留守番電話につながるばかり。
4日目、嫌な想像がよぎった。
付き合って3年。倦怠期というやつか? 東京には俺以上に魅力的な奴だって沢山いるだろう。そもそも俺も、松永も女の子を好きになれる。もしかしたら、近くにいない俺よりもいい相手を見つけたのかもしれないと思うと鼻の奥がツーンとした。
メッセージが既読にもならないのなら、もしかしたらもう松永には俺の言葉が届いていないのかもしれない。
1週間目の今日、ようやく俺は恋が終わってしまったのだと認めることができた。
やりとりの画面を遡って見返す。くだらないやりとりばかりだったが、時折混ざる【好き】だとか【会いたい】【声が聞きたい】などという言葉に胸が締め付けられる。
最後に松永にあったのは春休み。特に変わったことはなかった。昔みたいに、いろんなところに遊びに行って、夜は俺の家に泊まったり松永の家に泊まったりした。
一緒の布団に入って、家にいる家族にバレないようにキスもした。あの時はまだお互いに情があったのだと信じたい。
松永と連絡が取れなくなっていると、高校時代の同級生から週末に同窓会をやるから参加しろとメールが届いた。
俺が高校の頃はまだガラケーが主流でメッセージアプリも普及してなかったからわざわざメールをくれたようだ。本文の下にIDがありアプリの友達に追加してくれ書かれていた。
同窓会は7月の第1週の土曜日に催されるようだ。
幹事をすることになったやつから、松永に連絡つくなら伝えておいてくれと言われたが、最近やりとりをしていないと返すと「じゃあ、こっちで連絡しておく」と言われた。
メッセージのグループで【高校の時あんなに仲良かったのにね】なんて言われて思わず携帯を投げそうになる。俺だってなんで連絡がつかねぇのか分からねえよと心の中でつぶやいた。
7月7日、同窓会当日。久々に顔を合わせる元クラスメイトたち。
県外の大学に行った奴らも、地元で就職した奴らも満遍なく参加していた。幹事が点呼をとっていき、参加予定メンバーが全員いることを確認すると予約していた居酒屋に入る。松永の姿はなかった。
席順はクジで決まった。隣には高校時代あまり話したことがなかった女子が座っている。高校時代の彼女は化粧っけがなかったが、卒業してから3年も経つと垢抜けていた。当時黒かった髪も綺麗に染められている。
「澤田くんと会うのってすごく久々だよね。こっちで就職したって聞いてたけど、私が会ってなかったの澤田くんだけかもしれない。こっちに残った他の子達とは買い物に行ったときとか外食の時に結構あってたけど」
多分どっかで会っていても気が付かなかっただけだろうなという言葉は胸の奥に秘めておくことにした。
飲み放題も半ばの時間を過ぎるとみんな愉快になってきたようで、最初の席順はなど関係なく、皆好きなところに座っていた。
俺も高校時代仲良くしていたやつらと淡々とメニューにある日本酒を網羅していた。
「なあ、松永まだ来ないの?」
一緒に飲んでいた原が唐突ににいてくる。
「んー。しらね。最近はやりとりないし」
「へーそうなんだ。東京で楽しくしてるんかな」
「まあ、こんな田舎よりは楽しくしてるんじゃないの」
「つめてー」
店員がラストオーダーの確認に来たが、松永はまだこない。
てか、あいつは本当に来るのか? 俺が参加してるから来ないのかもしれないと思うと涙腺が緩む。酔っていることを言い訳に友人の膝を涙と鼻水で濡らしてやった。
二次会は、幹事の友人が勤めているスナックでということになって俺もその流れに乗ろうとすると、腕を掴まれる。
「なんだよお。まだ飲むんだよお」
腕を掴んでる手を振り払おうとするが中々うまくいかない。もがけばもがくほど、俺の腕を掴む手の力が強くなっている気がする。
「翔、翔。もうお前酔ってるから帰るぞ」
その声の主はずっと会いたいと思っていた人物。
「はぁ? 俺はまだ飲むんです。止めるな正也」
目の前に松永がいるのが嬉しいのに、ふつふつと湧いてくる怒りのせいで素直になれないでいた。なんで、今まで連絡が取れなかったんだとか、聞きたいことはいっぱいあったはずなのに、お酒のせいで頭が回らない。
酔っ払ってふにゃふにゃの俺を捕まえて回収するのは簡単だったらしく俺は、そのまま二次会に参加することなく松永に持ち帰られることになった。
「連絡できなくて悪かったな。携帯がぶっ壊れてさ。翔が寂しい思いしてるかもって思ったのに中々会いにも来れなかった……」
「携帯壊れたなら、公衆電話なりなんなりで電話かけて来いよ」
「今度はそうする」
終わり