此方の世界では珍しい長方形の鉄板
それを火にかけて熱したあと、サッと油を引いて予め用意しておいた溶いた卵を流し込む
すると忽ちじゅわじゅわと黄金色に焼けていった
うん、いい感じ
二本の菜箸を使って端の方の焼き加減を確かめる
そろそろ巻けそうかな
そう予測を立て、タイミングを見てくるくると卵を巻いていき、少し待つ
火は止めちゃっていいな、予熱で充分固まるし
この間に手が届く範囲をチャチャッと片付けて、平たい皿を出す
次いでまな板の上に先程出来上がったものを出し、包丁で一口サイズに切る
よし、これで卵焼きは完成っと
我ながら満足のいく出来栄えに、気分があがった
やっぱ上手くいくと嬉しいもんだ
些細な喜びだけどな
「…一切れくらいなら味見でもいいか」
誰にともなく言い訳をしながら、あー、と口を開いた俺
そんな瞬間だった
突然、にゅっと真横に人の気配を感じたのは
しかもなんか、スッゲェ見知った気配なんだが???
そろそろと顔を横に向ければ、そこには輝く笑顔の秋声さんがいらっしゃった
「」
もう音もなく呼吸が止まったよね
何なら世界が止まったような錯覚さえしたし
「文也くん、もう一個」
まぁそんな俺にお構いなしですけどねこの人は!知ってた!
というかナチュラルに自分の分も寄越せと圧を掛けるの止めてほしい
ノミの心臓なんだぞコチトラ
「……イエッサ」
そう物申したい
物申したいが、ヘタレな俺は諸々を飲み込んで従順に承諾した
だって輝く笑顔の腰から下が返り血まみれなんだもん!
普段に輪をかけて逆らいたくねぇわ!!!
***
逆説、それから
結局卵焼きだけでなくおにぎりと味噌汁も強奪していった秋声さんは、人心地ついたのか満足そうに「ご馳走さま!」と手を合わせた
こうゆうとこはキチンとしてるんだよなぁ、この人
「やっぱり文也くんのご飯は美味しいねぇ」
「ハイハイお粗末さん」
向けられた賛辞を適当にあしらいつつ、カチャカチャと食器を片付ける
因みに
秋声さんの腰から下は既にキレイな状態だ
何という事でしょう!
返り血塗れのズボンがマジカルペンを一振りしただけで綺麗サッパリ新品状態に!
秋声さん曰く、「この水魔法はよく使うから得意なんだ〜」とのこと
それってつまり、頻繁にその魔法を使うような状態になってるってことデスヨネ…?
疑問に思ったが、俺はそれ以上を考えるのが怖かったので思考に蓋をした
これ以上は精神衛生上よろしくない。自衛大事
頭空っぽにして「わぁ、魔法ってすげー」で終わらせとこう、うん
それは兎も角
「……んで?物騒な姿のまま急いでやってきた理由は?」
片付けが一段落した俺は、意を決して相手が本題を話すよう促した
そう、良くも悪くも付き合いが長い相手だ
俺が秋声さんのヤバさを知るように、秋声さんだって俺のビビリ具合をよく知っている
だから基本的に、秋声さんが来るときは身綺麗にしてくることが多い
俺のテリトリー内である店内やキッチンにいる時なら尚更
だというのに、身綺麗にする手間を惜しんでまで現れた理由
単なる愉快犯的思考なオチも充分有り得るっちゃ有り得るが…
「んっふふ〜、さっすが文也くん!魔都ヨコハマ在住者は伊達じゃないね〜!」
すると、相手はニィと妖艶に笑みを深めた
当たってほしくない予感が当たっちまったなぁ…
確定した事実に内心ガックリと肩を落とすが、なんとか気力を奮い立たせて目線で続きを促す
「実はね〜、アズールくんが文也くんのこと諦めてなくってね」
「は???」
え、何どゆこと??
俺アズール先輩に恨まれてんのまだ??
「それ、って…レオナ先輩の件で?
でもそれってこの間ので有耶無耶になってなかったか?」
そう、飛行術の後にヤクザヴィネルに連行されてから
何故か捕れたてのガチのタコとウツボを銛にブッ刺した秋声さんが現れ、周りはカオスに包まれた