ユリウスと再会して、嬉しさのあまり気を抜いていたように思う。エースは眼前の笑みに歯噛みした。
前にも増してキャンプ三昧だったり、熊に追われたり川に流されたり。楽しい時間を過ごせている、そのこと自体は喜ばしいことなのだろう。そう、それが一人ではなく、二人であることがエースの中で妙にざわつく。
彼女は、自分に傾倒し過ぎではないだろうか。
靴を脱いで夢中になって捕まえた川魚をアリスは串に刺して焚き火にくべる。鼻歌混じりのその仕草に、エースは変化を観察するように口を開いた。
「……最近、良く俺と一緒に居てくれるよね」
「何よ、嫌なの?」
「そうじゃないけど」
そっち側で焼いて、と手渡され、エースは蛇腹に波打った魚を地面に突き立てる。以前のアリスはもっとアウトドアや野宿に抵抗があったし、何よりエースに対して適切な距離を保っていた。じじ、と音がして炎に尾が炙られる。そう、これ以上踏み込んでは、身を焼くのは彼女自身であるのにその自覚がない。
エースは立ち上がると、水筒の水をだばだばと焚き火に注いだ。一瞬で炎が消え、まだ火の通っていない魚を手にアリスは文句を――言おうとして、凍り付いた。
対峙するエースの、真摯な眼差し。
「本当に君が見つめるべきなのは、誰なのかってこと」
アリスは両肩を掴まれ、一八〇度反転させられる。ぐにゃ、と空間が歪んで、バランスを崩しそうになった身体を支えるべく踵に力を入れた。靴底が、土とは異なる硬質な音を鳴らす。違和感に気付いた時にはもう、左右に伽藍堂の牢獄が走っていた。
寒気と緊張感。看守は不在のようで、重い静寂が犇めいている。目を閉じてしまいたいのにそう出来ないのは、呼んでいるから。この、数多ある檻の中からたった一つ。声一つ出さずにアリスを呼び寄せる存在があるからだ。
アリスはゆっくりと歩を進め、やがて走り出す。導かれる。
角を曲がった先、見付けてくれとばかりに、彼女と同じ色の髪が風もないのに靡いた。
「姉さん」
駆け寄って鉄格子を掴み、膝をつく。優しい微笑み、穏やかな瞳。最愛の姉を、姉だけを、少女は真っ直ぐに見つめる。
「そうよアリス。よそ見は、だめ」
唇を動かしたのはアリスの方なのに、まるで姉の方がそう告げているよう。良く似た柔らかい声音で、美しい旋律で、ゆるやかに少女の心を縛る。
その甘やかな横顔に、エースは安堵して腕を弛緩させた。親指を掛けていた冷たい剣の柄が鞘に納まる。剣を抜かずに済んだことに、「まだ」、斬らなくて済んだことに、胸を撫で下ろす程には――彼もまた、アリスに傾倒していた。
叶うならば自分ではなく、このままずっと檻の中を向いていて欲しいと。脇目も振らないその横顔に、じじ、と今度はエースの胸が焦げる音がした。